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聖女と瘴気祓い
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「大量粛清?」
「そうだ、仕方ないことだ。罪人を収容するにも金がかかるし限度があるからな」
年末にになると増加する犯罪に毎年頭を痛めるのだとオスガが言う。
「取り締まる側も無償ではないからな、人員だってそうそう増やせない」
「ふぅん」
優雅な茶会に不似合いな物騒な言葉を交わす、聖女と王太子である。
飲みかけていた菓子が喉につまって慌てて茶を口にしたクラリス。
腐っても聖女だ、人死には耳にしたくないと眉間に皺を寄せた。
「で、でも私達の結婚で恩赦が与えられるはずじゃなかったの?」
「表向きはな……。中には狂暴犯と政治犯がいるんだぞ、そいつらの罪を軽くしたり放免にしたら治安が悪化するだろう?」
それはそうだけれど、とクラリスは腑に落ちない。
「それと私の聖女の仕事となんの関係が?」
2杯目の紅茶にレモンを浮かべながら近い未来の夫に詰問した。
「うん、粛清は北東の刑務所で執行されるのだが問題は処した後のことさ。粛清後は必ず地か穢れる、そしてそこから瘴気が発生するのだ。それを聖女の力で浄化するという任務が与えられる」
「あら、そんなの御伽話だと思ってた」
つまらなそうに聞いていたクラリスは紅茶を美味そうに飲む。
「俺だって眉唾だと思ったさ、でも父上と教皇は必ず発生すると恐れている。未来の王妃にして聖女のキミの手を煩わせるのは忍びないがやってくれ」
「あらまぁ」とティースプーンを弄りながらクラリスは物憂げな表情をしている。
「ク、クラリス?頼むよ!やってくれ、この通りだ」
軽そうな頭をテーブルに押し付けてオスガは懇願した。
ベタ惚れなこともそうだが、オスガはクラリスを前にすると酷く卑屈になり甘やかす傾向がある。それは聖女だから敬うのだろうと自他ともに認めていた。
「オスガ、私を見て」
「う、うん」
「私を愛してる?」
「もちろんさ、とてもとても……アイシテル……」
「どれくらい愛してる?ほらちゃんと目を見て……瞳の奥を見て?」
ボヤリとする視界の先に愛しい顔が揺れて歪んで……彼の心を翻弄する。
「愛して……る、とっても……この身が朽ちようとも永劫変わらずにアイ……シテル」
「ふふ、良く出来ました。」
蕩けるような笑みを浮かべるオスガに満足したクラリスは了承する。
「いいわ、聖女として祓ってあげる。対価はちゃんと貰うけどね」
「ありがとうクラリス、キミは素敵な聖女だよ」
それから年の瀬が迫ったある日。
北の地で大量粛清が秘密裡に執行された。
どういう条件なのか、遺体を焼き埋めた盛り土から瘴気が立ち上る。
「聖女様、お願いします」
「はいはい、任せて」
白装束に身を包んだクラリスが祈りを捧げ、手を翳した。
「清浄な風と光をここに……暗鬱な穢れを祓い除け給え」
光の粒が辺り一帯に降り注ぐ。
彼女の神々しい仕草を見守っていた王族をはじめとする執政者達は感嘆の声をあげた。
一瞬で赤黒い瘴気が霧散する、見物人たちが一斉に拍手をした。
「さすが真の聖女」「素晴らしい力だ」「女神だ」とはやし立てる声に嬉しそうに微笑むクラリス。
祓いは無事に済んだと王が撤退を指示した。
ところが、刑を執行した兵士達がバタバタ倒れる音と逃げ惑う怒鳴り声が響いた。
「な、なにが起きている!?」
狼狽した王がその場に転げた。
祓ったはずの瘴気が、先ほどよりどす黒い色になって噴き出してきたのだった。
濃度高くなった瘴気は空に地に溢れ出して止まらない。
「そうだ、仕方ないことだ。罪人を収容するにも金がかかるし限度があるからな」
年末にになると増加する犯罪に毎年頭を痛めるのだとオスガが言う。
「取り締まる側も無償ではないからな、人員だってそうそう増やせない」
「ふぅん」
優雅な茶会に不似合いな物騒な言葉を交わす、聖女と王太子である。
飲みかけていた菓子が喉につまって慌てて茶を口にしたクラリス。
腐っても聖女だ、人死には耳にしたくないと眉間に皺を寄せた。
「で、でも私達の結婚で恩赦が与えられるはずじゃなかったの?」
「表向きはな……。中には狂暴犯と政治犯がいるんだぞ、そいつらの罪を軽くしたり放免にしたら治安が悪化するだろう?」
それはそうだけれど、とクラリスは腑に落ちない。
「それと私の聖女の仕事となんの関係が?」
2杯目の紅茶にレモンを浮かべながら近い未来の夫に詰問した。
「うん、粛清は北東の刑務所で執行されるのだが問題は処した後のことさ。粛清後は必ず地か穢れる、そしてそこから瘴気が発生するのだ。それを聖女の力で浄化するという任務が与えられる」
「あら、そんなの御伽話だと思ってた」
つまらなそうに聞いていたクラリスは紅茶を美味そうに飲む。
「俺だって眉唾だと思ったさ、でも父上と教皇は必ず発生すると恐れている。未来の王妃にして聖女のキミの手を煩わせるのは忍びないがやってくれ」
「あらまぁ」とティースプーンを弄りながらクラリスは物憂げな表情をしている。
「ク、クラリス?頼むよ!やってくれ、この通りだ」
軽そうな頭をテーブルに押し付けてオスガは懇願した。
ベタ惚れなこともそうだが、オスガはクラリスを前にすると酷く卑屈になり甘やかす傾向がある。それは聖女だから敬うのだろうと自他ともに認めていた。
「オスガ、私を見て」
「う、うん」
「私を愛してる?」
「もちろんさ、とてもとても……アイシテル……」
「どれくらい愛してる?ほらちゃんと目を見て……瞳の奥を見て?」
ボヤリとする視界の先に愛しい顔が揺れて歪んで……彼の心を翻弄する。
「愛して……る、とっても……この身が朽ちようとも永劫変わらずにアイ……シテル」
「ふふ、良く出来ました。」
蕩けるような笑みを浮かべるオスガに満足したクラリスは了承する。
「いいわ、聖女として祓ってあげる。対価はちゃんと貰うけどね」
「ありがとうクラリス、キミは素敵な聖女だよ」
それから年の瀬が迫ったある日。
北の地で大量粛清が秘密裡に執行された。
どういう条件なのか、遺体を焼き埋めた盛り土から瘴気が立ち上る。
「聖女様、お願いします」
「はいはい、任せて」
白装束に身を包んだクラリスが祈りを捧げ、手を翳した。
「清浄な風と光をここに……暗鬱な穢れを祓い除け給え」
光の粒が辺り一帯に降り注ぐ。
彼女の神々しい仕草を見守っていた王族をはじめとする執政者達は感嘆の声をあげた。
一瞬で赤黒い瘴気が霧散する、見物人たちが一斉に拍手をした。
「さすが真の聖女」「素晴らしい力だ」「女神だ」とはやし立てる声に嬉しそうに微笑むクラリス。
祓いは無事に済んだと王が撤退を指示した。
ところが、刑を執行した兵士達がバタバタ倒れる音と逃げ惑う怒鳴り声が響いた。
「な、なにが起きている!?」
狼狽した王がその場に転げた。
祓ったはずの瘴気が、先ほどよりどす黒い色になって噴き出してきたのだった。
濃度高くなった瘴気は空に地に溢れ出して止まらない。
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