本編完結 堂々と浮気していますが、大丈夫ですか?

音爽(ネソウ)

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登園初日、アリーチャは早速と学園内の散策を始めていた。今年で十六の彼女は一学年に編入した。
とりわけ目立ったのは大講堂と食堂だ、無駄に広くて贅を尽くした作りに大変驚く。次いで無駄だと思ったのは温水プールだった。
「プールなど何に使いますの?貴族子女は使わないでしょうに」
「ごもっともなご意見でございます……」

侯爵令嬢に着いて回っているのは学園長のバルナベ氏だ、手揉みしてきてどうにも胡散臭い。教頭を伴っており何事かコソコソとやっている。アリーチャは溜息をついて「自由に歩きまわりたいから」と踵を返して離れて行く。
「はっ鬱陶しいこと、教師っていうのはもっと忙しいのかと思ってたわ」
コバンザメのように張り付いていた彼らを往なして彼女は不満を漏らす。

ジッととある空間を見つめる彼女は威厳のある声で言う。
「ねぇドニ、この学園の通園数は何パーセントなの?」するとゆるりと落ちて来た影がこう言った。
「はい、約55%かと思われます」
「そこぉ!?てっきり真正面かと思ったら!」
「はい、私は背後にてお嬢様を護衛しておりました!キリッ」

またも出し抜かれたアリーチャは地団駄を踏み「ムキィー!」と怒った、その様子を見たドニは「猿のような真似は如何なものかと」と進言した。

「んん!とにかく進学率は相変わらず低いといっていいのかしら?」
「いいえ、アリーチャ様の効果で15%は増えましたよ、さすがでございます。パチパチ」
「は……なによそれは」
要するにお近づきになりたい輩がどどっと増えた結果だと言えた。登園日は予め国王が知らしめていたらしい。
あまりの事に軽く頭痛を覚えるアリーチャである。

「ようするにバk…王子との婚姻がダメになれば良いと目論んでいるのですよ。例のヴァンナ令嬢の噂はまたたくまに広まりましたからね」
「なるほどね、破談後の釣書きには困りそうもないと。うん、上手くいきそうじゃない」
彼女はカラカラと笑い飛ばし、その15%の名前のリストを出させた。

***

一方で無理矢理に学園へ通う事になったテリウス王子はブツクサと文句を垂れて学舎を歩いていた。
その横にはやはりヴァンナの姿があった、ふたりの入園テストの結果は芳しいものだはなかったが、とりあえず数埋めにするために入園が許可された。
今後、入園者が増えれば追い出される可能性はかなり高い。

「は~あ、怠いぞ……俺はお日様が出ている間は出たくない主義なんだ」
すっかり夜型になっているテリウスは早くも怠けものの兆候が見て取れた、大欠伸をした後に「早く賭博場へ行きたいものだ」と言っている。

「うふふ、すっかり紳士倶楽部の常連ですのねぇ。当初は渋っていましたのに」
「そういうなヴァナ、今のところは勝ち越しているからな。昨日のポーカーは今一だったからリベンジしないとな」
そう言ってヴァンナの髪の毛をひとふさ取り、唇を落とした。「ふふ」と言って受け入れる彼女は満更でもない様子だ。

「そういえば、入園したくなった理由を聞いてないぞ」
「あらぁ、そうだったかしら?」
恍けるヴァンナに「揶揄ってくれるな」と悄気るテリウスは太腿に触れてオネダリをするのだ。
「ダメよ、ここでは――そうね教えてあげようかな」

学舎から離れて外に出たふたりは適当なベンチを見繕い座った。
チュウと目頭に唇を落とすテリウスに「うふふ」と照れて笑うヴァンナの姿が衆目を誘う。学園内での行為は思いのほか目立つのだ。

「理由はねぇ、これよ!ダンスパーティ!ねぇ素晴らしいと思わない?」
「――いいや、別にダンスなら夜会にいけばいいだろう」
「んもう!違うわよ、学園内のダンスパーティは一味違うの!なんていっても卒業パーティはね」
ここで悪巧みをしている彼女はニマーッと笑う。

「みんなが注目するであろう卒業パーティには国王夫妻も参加されるわ、そこでアリーチャの断罪をしたらどうかと思ったの!有りもしない罪を着せてね」
「なんだと!?それは面白いじゃないか!」
普段から澄まし顔のアリーチャを笑い者にする、格好の舞台を見つけたテリウスは大いに乗り気になったのだ。
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