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アリーチャが入園して半年した頃、体験入園ということで平民たち男女十名がやってきた。何の教養も持たない者と辛うじて読み書きができる者が選ばれた。いずれにしても寮生活をすることになるらしい。
本格的な大規模入園に向けてのワンクッションという事のようだ。
「そう、寮生活なのね。ところでどうして私が呼ばれたのですか?」
とても嫌な予感がしたアリーチャはヒクヒクと痙攣しそうな顔を扇で隠した。学園長のバルナベはやはり胡散臭い顔でニコニコしている、ゴクリと唾を飲み込めば「是非、指導役として協力願いたい」というではないか。
「指導とは一体、そんなものは教師の仕事ではなくって?」
嫌な予感が的中したアリーチャは取り繕うのも馬鹿らしくなり、とても嫌そうな顔をして対応した。すでに呼びつけられた平民生徒達が委縮して並んでいた。
「いやいや、指導といいましても生活指導の事でございまして、是非に侯爵令嬢のアリーチャ様にご鞭撻をと」
手揉みしながらそういう学園長はナマズ髭を垂らしてそう宣う。恐らくだが生徒会という組織が機能していないのだと彼女は思う。事実、そのような組織が運営されていないことは半年のうちになんとなくわかっていた。
どこまでも杜撰なことかと呆れる。
「はぁ……わかりましたわ、ですが私は半端が嫌いですの。指導は厳しいですわよ、よろしくて?」
平民生徒たちの方を見て彼女は言葉を浴びせる、するとおずおずと全員が「よろしくお願いします」と声を揃えて回答した。
予めそのようにしろと厳命されていたのが丸わかりである、アリーチャは学園長の方を「キッ」と睨みつけた。
謀られたと思ったが、もうすでに生徒達は期待に目を輝かせていた。
「はあ……私の名はアリーチャ・スカリオーネと申します、宜しく」
***
「御機嫌よう、スカリオーネ様。今日は良い天気ですね」
「あら、御機嫌よう。アズナブール様」
彼は隣国ガルネリから遊学しに来ている王子で留学生だ、人懐っこい顔で誰とでも仲良くなってしまうタイプだった。
人見知りするアリーチャとてすぐに打ち解けた人物だ、銀髪と赤い瞳が特徴的だった。
彼女は『ああ、この方が婚約者だったら良いのに』と密かに思っている。だが、そんなことはおくびにも出さない。
当たり障りのない返答をしてその場を去ろうとした。
「あ、待って!キミに聞きたいことがあるんだ、少し込み入った話だからカフェでどうだろう?」
「まあ、そうでしたの。宜しくてよ、では私の護衛を同席させても?」
「え、ああ、構わないよ!」
一瞬だけ戸惑いを見せた彼だったが、あまりにも些細な変化だった為にアリーチャは見逃した。
「それで聞きたい事とは?」
背後にドニを侍らせて彼女は聞く体制になった、彼女はミルクティーをクルクルと回しつつ彼の返事を待つ。
「うん、実は生徒会の事なんだけど実質はキミが代行をしていると伺ってね」
「ぶっ!?――ケホケホ……誰がそのような巫山戯たことを」
彼女は咽った勢いでゲホゲホと何度もやっていた。
「えーとバルナベ学園長だよ、うん、間違いないよ。ボクはそう聞いたから」
「なあ――!?なんですって」
ちゃっかりと生徒会などと嘯いた学園長に腸が煮えくり返るアリーチャはどうしてくれようかとブツブツと言った。
「それででね、遊学しているボクとしては生徒会の発足に立ち会いたいと思うんだ!こんな貴重な体験はそうそうできないだろう?」
「だろうって……生徒会の発足なんて私は」
「ねえ?ダメかなぁ?」
「う……」
好意を寄せている男子生徒に上目使いで詰め寄られたアリーチャは、どうしたら良いものかと考えを巡らせる。
「ねえ、スカリオーネ様?」
「う、うう……、わかりましたわ生徒会発足致しましょう」
「やった!ありがとう、あ、そうだアリーチャと呼んでも良いかな?ボクのことはクリストフ、クリスと呼んで」
「は、い。どうぞ、もうどうでも宜しいわ、ふふ、はははっ」
彼女は混乱する頭で”どうしてこうなった”と悩むのだった。
本格的な大規模入園に向けてのワンクッションという事のようだ。
「そう、寮生活なのね。ところでどうして私が呼ばれたのですか?」
とても嫌な予感がしたアリーチャはヒクヒクと痙攣しそうな顔を扇で隠した。学園長のバルナベはやはり胡散臭い顔でニコニコしている、ゴクリと唾を飲み込めば「是非、指導役として協力願いたい」というではないか。
「指導とは一体、そんなものは教師の仕事ではなくって?」
嫌な予感が的中したアリーチャは取り繕うのも馬鹿らしくなり、とても嫌そうな顔をして対応した。すでに呼びつけられた平民生徒達が委縮して並んでいた。
「いやいや、指導といいましても生活指導の事でございまして、是非に侯爵令嬢のアリーチャ様にご鞭撻をと」
手揉みしながらそういう学園長はナマズ髭を垂らしてそう宣う。恐らくだが生徒会という組織が機能していないのだと彼女は思う。事実、そのような組織が運営されていないことは半年のうちになんとなくわかっていた。
どこまでも杜撰なことかと呆れる。
「はぁ……わかりましたわ、ですが私は半端が嫌いですの。指導は厳しいですわよ、よろしくて?」
平民生徒たちの方を見て彼女は言葉を浴びせる、するとおずおずと全員が「よろしくお願いします」と声を揃えて回答した。
予めそのようにしろと厳命されていたのが丸わかりである、アリーチャは学園長の方を「キッ」と睨みつけた。
謀られたと思ったが、もうすでに生徒達は期待に目を輝かせていた。
「はあ……私の名はアリーチャ・スカリオーネと申します、宜しく」
***
「御機嫌よう、スカリオーネ様。今日は良い天気ですね」
「あら、御機嫌よう。アズナブール様」
彼は隣国ガルネリから遊学しに来ている王子で留学生だ、人懐っこい顔で誰とでも仲良くなってしまうタイプだった。
人見知りするアリーチャとてすぐに打ち解けた人物だ、銀髪と赤い瞳が特徴的だった。
彼女は『ああ、この方が婚約者だったら良いのに』と密かに思っている。だが、そんなことはおくびにも出さない。
当たり障りのない返答をしてその場を去ろうとした。
「あ、待って!キミに聞きたいことがあるんだ、少し込み入った話だからカフェでどうだろう?」
「まあ、そうでしたの。宜しくてよ、では私の護衛を同席させても?」
「え、ああ、構わないよ!」
一瞬だけ戸惑いを見せた彼だったが、あまりにも些細な変化だった為にアリーチャは見逃した。
「それで聞きたい事とは?」
背後にドニを侍らせて彼女は聞く体制になった、彼女はミルクティーをクルクルと回しつつ彼の返事を待つ。
「うん、実は生徒会の事なんだけど実質はキミが代行をしていると伺ってね」
「ぶっ!?――ケホケホ……誰がそのような巫山戯たことを」
彼女は咽った勢いでゲホゲホと何度もやっていた。
「えーとバルナベ学園長だよ、うん、間違いないよ。ボクはそう聞いたから」
「なあ――!?なんですって」
ちゃっかりと生徒会などと嘯いた学園長に腸が煮えくり返るアリーチャはどうしてくれようかとブツブツと言った。
「それででね、遊学しているボクとしては生徒会の発足に立ち会いたいと思うんだ!こんな貴重な体験はそうそうできないだろう?」
「だろうって……生徒会の発足なんて私は」
「ねえ?ダメかなぁ?」
「う……」
好意を寄せている男子生徒に上目使いで詰め寄られたアリーチャは、どうしたら良いものかと考えを巡らせる。
「ねえ、スカリオーネ様?」
「う、うう……、わかりましたわ生徒会発足致しましょう」
「やった!ありがとう、あ、そうだアリーチャと呼んでも良いかな?ボクのことはクリストフ、クリスと呼んで」
「は、い。どうぞ、もうどうでも宜しいわ、ふふ、はははっ」
彼女は混乱する頭で”どうしてこうなった”と悩むのだった。
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