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しおりを挟む「いい加減にしないか!裏付けはとれているんだ!」
何度目かわからない叱責を食らうのはヴァンナ・ザネッティだった。彼女はどんなに叱られようが頑として口を割らなかった。まだ、勝算はあるのだと踏んでいるのだ。
それはテリウスだ、どんなに裏切られても王族の彼が一言いえば無罪放免になると思っているらしい。なんと愚かな事だろう。
「ふん、彼に会わせてよ、そしたら話くらい聞いてあげるわ」
呆れた尋問官は文官に向かってコソコソと話した、意を汲んだらしい文官は肩を竦めて出て行った。やがて尋問官まで出て行くと彼女は「ほう」と深くため息を吐く。
「まったく仕事が出来ない奴らだわ!王子を呼ぶことくらいさっさとすべきよ」
1ミリも反省していない彼女はブツブツと文句ばかり言うのだ。厚顔無恥もここまでくると立派に見えてくる。普段の行動を改めることなどヴァンナには備わってないらしい。
ややあってから彼は顔を出した、尋問官はいない。テリウスはやや窶れた様子だったがそんな事はどうでもいいと自分の主張だけを言い放つ。
「テリー!遅いじゃないの何をしていたのよ、私は連日怒鳴られて怖かったわぁ」
涙を浮かべて言い募る彼女はどこまで本心なのかわからない。あるいは全部偽物なのかもしれない。しくしくと泣く彼女はしおらしい。
「遅くなって済まなかった、色々とやることがあってね」
「いろいろ?」
惚けるヴァンナはキョトリとしている、とても可愛らしいがいまはそれが腹立たしいとテリウスは思う。
「色々さ、例えば引っ越しとか。職も探さなければならない」
「ええ?どういうこと……ああ!お城に戻るのね、取り合えずはアリーチャと婚約破棄したのでしょう?良かったわ」
「良かったね……そうなのかな」
テリウスは何か思い悩むような面持ちで空を見つめていた。苦悩しているという感じだ。
「テリー?」
「はぁ……キミは早く謝罪なりなんなりしてここを出ることだね。出たところで自由があるかわからないけど」
「な、なにを言っているのテリー?また私を裏切るの!」
「裏切る?は、それはキミのほうじゃないか。ウーゴとは男女の仲なんだろう?今更隠しても仕方ないさ」
それを聞いた彼女は大慌てで否定した、だがそんな薄っぺらい言い訳は通用しない。テリウスの顔は冷静で落ち着き払い真顔であった。
「信じてテリー!私はそんなことしていないわ!」
「……信じる信じないはどうでもいい、俺はキミが好きだそれは変わらないよ」
「え……テリー?」
ぱぁっと顔色を良くしたヴァンナだったが果たしていつまでそうしていられるだろう。
「ひとつ聞きたい、いいかいこれは重要なことだよ?」
「ええ、もちろんよ!」
ここから連れ出してくれるのならばどんなことでも聞くし、どんな嘘でも吐こうとした。ヴァンナの顔はとても良い笑顔だった。
「……俺は王子じゃないと言ったらキミはどうする?」
「え、何を言ってるのテリー、貴方は王子様じゃないの!第四王子のテリウス・サトゥルノだわ」
しかし、テリウスの顔は晴れない、それが全てを物語っていた。とうにその身分は剥奪されて、ただのテリウスなのだと告白した。
「え、嘘……嘘でしょ!テリーったら、そんな嘘っぱちいわないでよ!早く私をここから連れ出して頂戴!」
「嘘じゃないさ、あの日君の家に行ったあの時から俺は王子じゃないんだ。嘘をついていて悪かった、だがそうでもしないと俺の矜持が保てなかったんだ」
「な、な……それじゃ侯爵令嬢から御手当てを貰っていたのは本当なのね」
非常に驚いた彼女は目の前が真っ白になった。
「それでもヴァナは俺の事を好きていてくれるのかい?」
「はあ?」
目の前にいる男のことが信じられなかった、いましがた”王子ではない”と言い切ったこの男の事は信用に値しない。嘘で固めた虚像なのだと思い知らされた。
「巫山戯ないでよ!なんなのアンタって!はぁ?王子じゃないですってバッカじゃないの!矜持がなんですって?そんなものがなんの役に立つのよ!ただの文無しにようはないのよ!」
本音をぶちまけた彼女の顔は悪意に満ちていて、とてもじゃないが可愛さの欠片さえない。すかさず用なしだと言って背中を向けたのだ。
「ああ、そうかよ。だろうと思った」
「え、ぐえっ……あ、ああ……私の背中が痛い……痛いわ」
ジンジンと熱くなっていく背中をヴァンナは身を捩り、彼から逃げようとしていた。
「だ、れか……あぁ」
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