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後日談
不届き者
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第二王子クリストフ・アズナブールとアリーチャは無事に婚姻を済ませた。
それはとても厳かで優美な式だった、ライスシャワーもブーケトスも無かったが祝福する声は鳴りやまない。両陛下がとてもアリーチャを気に入ったことが大きいのである。その影響力は絶大だ。
「花弁が凄かったわ、ほら見て!こんな所にまで入り込んでいるわ、しかもパールまで」
「ふふ、気に入ったようだね。ガルネリ流という感じさ、パールは極まれに飛ばされるんだ。幸せのお裾分けということさ」
「まあ、粋なのね!素敵だわ」
小粒のパールを一粒摘まんで彼女は微笑む、希少価値さはそれほどないが大切にしようと思った。だって自分の挙式に使われたものだ、それだけで価値は爆上がりである。
婚姻のあとは当然披露宴である、祝福の舞やら歌が披露された。
それはガルネリ特有のもので目を引く、この国の者には当然でもアリーチャには新鮮に映った。黄金に見立てた被り物をして少女たちが舞うのだ。それは子孫繁栄と富を象徴するもので、さらには肥沃な土地であり続けるように祈る舞だ。
「ああ、とっても素敵!サトゥルノには無かった文化だわ、ねぇ御父様?」
挙式に呼ばれたスカリオーネ卿に話題をふれば、待ってましたと謂わんばかりに鼻を膨らませて言う。
「うむ、その通りだ。まったくもってその通り!我らの国はまだ新しいからな歴史がとても浅いのだ」
卿は少女たちのダンスに釘付けの様子で、祝いの酒に酔っていた。
「ぐすん、アリーチャもあのくらいの頃があったなぁグスングスン」
「お父様……やめて」
披露宴の途中でお色直しと休憩を兼ねて退席する若き夫妻は仲睦まじく立ち上がった。ピューピューとどこからか冷やかす音が聞こえた。それにはにかむ彼女と苦笑するクリストフだ。
だが、会場を後にするというタイミングで声が掛かった、無粋な者がいたものだとクリストフは些か不機嫌になる。
「おめでとうございますぅ、殿下ァ」
妙に語尾が長い言い方をするその人物は、まだ年若いと見られる少女だった。傍らには父親と見られる人物がニコニコとしていた。
「……あぁ、ありがとう。それでは」
アリーチャをエスコートする彼は素っ気なく通り過ぎようとした、ところが待ってくださいとばかりに目前に立ち塞がる少女である。
「ああ、どうかお話をさせてくださいなぁ」
「なんだと?」
祝いの席だ、ことを荒げたくないが、あまりに無作法過ぎるその人物に怒りの感情を覚える。クリストフは穏やかな性格だったが、この日は違う。己の良き日に水を差されたのだから仕方がないのだろう。
「クリス、どうか抑えて」
「う、わかっているが、この手合いのものは良く知っているのだ」
再び父親の方を見た、どこかで会ったことがあると思考を巡らす、披露宴に招いている以上は貴族のものだ。しばし考えているとやっと思い出す。
「ポリネール男爵か、何用か」
「おお!覚えて下さっていらした!有難き幸せ!」
「……」
大袈裟に喜ぶ男爵は両腕を空に掲げて「ありがたや!」とやっている、傍らでは先ほどの少女が「うふふふ」とクネクネしていた。頭が痛いとクリストフは片手を上げて合図をする。
すると騎士達がササっと両脇に勢揃いした、有事のさいに控えていたらしい。さすがだとアリーチャは感心した。
いまにも腰に佩いた剣を抜かんとしている、ことは深刻のようだ。
「あのぉ、私思ったのですけどぉ」
またも間延びした言い方をする娘にクリストフは苛立つ、アリーチャも既視感を覚えた。”ヴァンナ”である。
どうしてこうも怒りに触れ、癪に障る輩は似ているのだろうと呆れていた。彼女もまたピンクブロンドの髪の毛をフワフワにして微笑んでいる。まるでこの世は自分の為に動いているという感じまで酷似していた。
「殿下わぁ、このままそこの女性と生涯をともにされるのですかぁ?私は勿体ないと思うんですぅ」
夢見る少女のような面持ちでそう宣い「うふん」と言ってくる。
「なにが言いたいのかわからんな、そこをどきなさい。いまならば許してやろう」
「ええ?そうはいきませんよぉ、だってお願いしたいことがあるんですぅ、私を是非に第二夫人にしていただきたいのぉ」
「は?」
この『は?』はクリストフではなくアリーチャが発した言葉だ、言葉は非常に短いが怒りが込められている。沸き上がる憤怒の念が彼女から出ていた。顔は穏やかに微笑んでいるのだが、目が笑っていない。
「第二夫人……つまり側室におさまりたいとそうおっしゃるのね?」
「はい?なんですか貴女、私は殿下にお願いしていますのぉ、部外者は黙っていてくださいなぁ」
その通りだと父親のポリネール男爵が頷いていた、親子揃って頭のネジがぶっとんでいるらしい。
「ああそう、宜しいこの憤り、これで晴らしてくれます」
彼女は手袋を脱ぐとポリネール嬢の顔目掛けて叩きつけていた。
祝いの席は決闘の舞台に化けた、クリストフは「面白い」と笑ったのである。
それはとても厳かで優美な式だった、ライスシャワーもブーケトスも無かったが祝福する声は鳴りやまない。両陛下がとてもアリーチャを気に入ったことが大きいのである。その影響力は絶大だ。
「花弁が凄かったわ、ほら見て!こんな所にまで入り込んでいるわ、しかもパールまで」
「ふふ、気に入ったようだね。ガルネリ流という感じさ、パールは極まれに飛ばされるんだ。幸せのお裾分けということさ」
「まあ、粋なのね!素敵だわ」
小粒のパールを一粒摘まんで彼女は微笑む、希少価値さはそれほどないが大切にしようと思った。だって自分の挙式に使われたものだ、それだけで価値は爆上がりである。
婚姻のあとは当然披露宴である、祝福の舞やら歌が披露された。
それはガルネリ特有のもので目を引く、この国の者には当然でもアリーチャには新鮮に映った。黄金に見立てた被り物をして少女たちが舞うのだ。それは子孫繁栄と富を象徴するもので、さらには肥沃な土地であり続けるように祈る舞だ。
「ああ、とっても素敵!サトゥルノには無かった文化だわ、ねぇ御父様?」
挙式に呼ばれたスカリオーネ卿に話題をふれば、待ってましたと謂わんばかりに鼻を膨らませて言う。
「うむ、その通りだ。まったくもってその通り!我らの国はまだ新しいからな歴史がとても浅いのだ」
卿は少女たちのダンスに釘付けの様子で、祝いの酒に酔っていた。
「ぐすん、アリーチャもあのくらいの頃があったなぁグスングスン」
「お父様……やめて」
披露宴の途中でお色直しと休憩を兼ねて退席する若き夫妻は仲睦まじく立ち上がった。ピューピューとどこからか冷やかす音が聞こえた。それにはにかむ彼女と苦笑するクリストフだ。
だが、会場を後にするというタイミングで声が掛かった、無粋な者がいたものだとクリストフは些か不機嫌になる。
「おめでとうございますぅ、殿下ァ」
妙に語尾が長い言い方をするその人物は、まだ年若いと見られる少女だった。傍らには父親と見られる人物がニコニコとしていた。
「……あぁ、ありがとう。それでは」
アリーチャをエスコートする彼は素っ気なく通り過ぎようとした、ところが待ってくださいとばかりに目前に立ち塞がる少女である。
「ああ、どうかお話をさせてくださいなぁ」
「なんだと?」
祝いの席だ、ことを荒げたくないが、あまりに無作法過ぎるその人物に怒りの感情を覚える。クリストフは穏やかな性格だったが、この日は違う。己の良き日に水を差されたのだから仕方がないのだろう。
「クリス、どうか抑えて」
「う、わかっているが、この手合いのものは良く知っているのだ」
再び父親の方を見た、どこかで会ったことがあると思考を巡らす、披露宴に招いている以上は貴族のものだ。しばし考えているとやっと思い出す。
「ポリネール男爵か、何用か」
「おお!覚えて下さっていらした!有難き幸せ!」
「……」
大袈裟に喜ぶ男爵は両腕を空に掲げて「ありがたや!」とやっている、傍らでは先ほどの少女が「うふふふ」とクネクネしていた。頭が痛いとクリストフは片手を上げて合図をする。
すると騎士達がササっと両脇に勢揃いした、有事のさいに控えていたらしい。さすがだとアリーチャは感心した。
いまにも腰に佩いた剣を抜かんとしている、ことは深刻のようだ。
「あのぉ、私思ったのですけどぉ」
またも間延びした言い方をする娘にクリストフは苛立つ、アリーチャも既視感を覚えた。”ヴァンナ”である。
どうしてこうも怒りに触れ、癪に障る輩は似ているのだろうと呆れていた。彼女もまたピンクブロンドの髪の毛をフワフワにして微笑んでいる。まるでこの世は自分の為に動いているという感じまで酷似していた。
「殿下わぁ、このままそこの女性と生涯をともにされるのですかぁ?私は勿体ないと思うんですぅ」
夢見る少女のような面持ちでそう宣い「うふん」と言ってくる。
「なにが言いたいのかわからんな、そこをどきなさい。いまならば許してやろう」
「ええ?そうはいきませんよぉ、だってお願いしたいことがあるんですぅ、私を是非に第二夫人にしていただきたいのぉ」
「は?」
この『は?』はクリストフではなくアリーチャが発した言葉だ、言葉は非常に短いが怒りが込められている。沸き上がる憤怒の念が彼女から出ていた。顔は穏やかに微笑んでいるのだが、目が笑っていない。
「第二夫人……つまり側室におさまりたいとそうおっしゃるのね?」
「はい?なんですか貴女、私は殿下にお願いしていますのぉ、部外者は黙っていてくださいなぁ」
その通りだと父親のポリネール男爵が頷いていた、親子揃って頭のネジがぶっとんでいるらしい。
「ああそう、宜しいこの憤り、これで晴らしてくれます」
彼女は手袋を脱ぐとポリネール嬢の顔目掛けて叩きつけていた。
祝いの席は決闘の舞台に化けた、クリストフは「面白い」と笑ったのである。
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