本編完結 堂々と浮気していますが、大丈夫ですか?

音爽(ネソウ)

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後日談

ザネッティ男爵家

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ヴァンナがやらかした、それはどうしようもない事だ。
ザネッティ家は王家からの親書を受け取るなり青褪めた。上手くやっているとばかり思っていたザネッティ卿は発狂しそうになった。
それもそのはず、王族と繋がれるとばかり思っていたのだから、だが書面には残酷な文字が刻まれていた。

「あああああ!なんということだ!彼女が……ヴァンナがあああああ!ああああああ!」
「あ、貴方!?いったいどうしたと言うの?」
いくら聞いても答えようとしない卿に、業を煮やした夫人は親書を奪い去り自らの手で読みふけった。するとまたも卿よ同様に「あああああああ!」と叫び声を上げたのだ。

「う、うううう嘘よぉ!こ、こんな、こんなのないわ!あり得ないことだわぁあああ!」
発狂寸前の如く喚き散らして侍女たちを驚かせる。いったい何がどうしたのか主たちの異変に頭を傾げた。結局、一人娘であるヴァンナ・ザネッティについて事情明らかになったのは雇用契約が切られてからのことだ。


「まったく!良い迷惑だよ!王家から直接紹介状がいただけたから良いものを!」
「ほんとですよね!でもぉ、なぜ王家が紹介状をだしてくれたのかしら?」
肝心の事情を知らないメイドたちは口々に「なぜ?」といった。家令とて同じ意見である、主に非があるのならば従者もおなじ扱いを受けるのだから。

「まあ、いいさ。俺達に関係のない話なのだからな」
「そうですね、新しい職場でもお元気でね」
ザネッティ家の従者たちは散り散りになって去って行った。



身分を剥奪をされたザネッティ夫妻は昏い顔をしてそこにいた。
かつての自宅を見ては名残惜しそうにしている、だが損害賠償名目で奪われた屋敷だ。家は売り払われるか解体されるだろう。
「さあ、行こうか……」
「貴方……ヴァンナの亡骸はどうなるの?私達は死に顔も見られないの?」
「……しらん」

ヴァンナは取調中に亡くなったと報せが届いた、最初の文面にはアリーチャ・スカリオーネ侯爵令嬢に無体を働いたとあった。それだけでも驚きだったのに、たった数日間の取り調べ中に死んだと聞かされた。
だから整理しろと言われても頭が追い付かない。

ザネッティ卿にとって娘のヴァンナは出世するための道具でしかなかった。より良い家柄、財、爵位それだけだ。かろうじて美しく育った彼女を売り込むことだけをしてきた。
そのお陰でテリウス・サトゥルノ第4王子に見初められた。彼は破格の相手に小躍りした、まさか王族と繋がりがもてるとは思っていなかった。

そしてヴァンナには色で誘惑することを教え込む、誰よりも可愛く美しくいなさいと……。
『ええ、わかりましたわ。御父様!私はきっと王子を落として見せます!』
頭はからっぽだったが、娘は色ごとに精通していた。どこから仕込んだやら閨ごとには長けていた。おそらくだが夜会などで見目の良い男子と関係を持ったらしい。

なんでも想い通りになる娘は強欲に育った。王子におねだりをして高そうなアクセサリーをごっそりせしめて来た。
『御父様、これを売ったら良いお金になるのではないかしら?ええ、平気よ。だってバレない様に似たようなデザインのものを買って貰ってますものぉ』

狡猾な娘は何度も貰ってきて自慢する、やがてそれが当たり前になっていた。
狡い父親はそれだけで「可愛い娘だ、我が家の自慢だ」と褒めそやした。

「ああ、だというのに……どうしてこうなった?」
可愛くて奸智に長けた娘はもういない。真実に蓋をしたのだから知りようもないのだ。
咽び泣く母親を促してただのザネッティはどこへ行くのか。

***

「ただいま、ヴァナ。良い子にしていたかい?」
「……」
いつものようにワインとパンを買って来たテリウスはテーブルにそれを置いた。フンフンと鼻歌を奏でている。なにか良い事でもあったのかと不審に思う。

「すぐにご飯にしようね。じつは今日は楽しいことを聞いて来たのさ」
「……楽しいこと?」
「まぁまぁ、後のお愉しみさ、今日はブルストを茹でようね、それからラザニアを焼こう」
「どうでも良い」

素っ気ない返事をする彼女は髪の毛を弄っている、ツインテールをいまだにしている。学生気分が抜けていない。それを良しとするテリウスもまた同じなのだろう。



「それでね楽しい話とはウーゴのことさ」
「ウーゴ?」
ボソボソと食べる彼女は無関心そうに呟いた。いまさらに何を聞こうが動揺しない。

「ウーゴは死んだらしいよ。可哀そうにねぇ鉱山で硫黄をとってたらしい。事故で視力を失って塞ぎこんでいたんだって」
「ふぅん」
「なんだい、素っ気ないな?」
「だって、どうでも良い事だわ」

彼女の様子を見たテリウスは意外そうにみつめていた、そして、「ああ、そうか、色事に感心があっただけなのか」と意地悪くいう。
「じゃあ今日は彼にしてやったことを俺にしてくれよ」
「ひっ!イヤァ!」
彼の猛禽な顔がニヤリと笑う、快楽と痛みを伴う行為は今日も続くのだ。



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