本編完結 堂々と浮気していますが、大丈夫ですか?

音爽(ネソウ)

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「待ち遠しいわ」
彼女は指折り数えて薔薇色のその日を夢見ていた。だが、課題は山積みで王子妃になるための試練に苦悩した。勤勉な彼女アリーチャには問題ないと思われた。しかし、思いのほか手こずっていた。

「この程度が出来ないなど呆れたことですわぁ!オーホホホッ」
「はあ」
意地悪な専属教師チューターの伯爵夫人の大笑いが居室に響いた、彼女は是といば否というように全く違うことを言うのだ。

「昨日は1563年と伺いましたわ、これこの通りノートにも」
「いいえ、違いますわ!1567年と言いましたのよ!」
「……」
国の歴史を学んでいるのだが、この夫人は言っていることが二転三転している。ワザと間違えた年表を手渡したり、歴史にないことばかりを教えてくるのだ。

さすがのアリーチャも間違いだらけの問答に四苦八苦する。
「では、ここまでの歴史を覚えておいてくださいませね!」
「はい、この年表で間違いがないのでしたら」
彼女はにこやかに微笑み伯爵夫人を見返した、すると下卑だ笑みを浮かべて「それでは」と言って出て行った。

「あ~また間違いだらけの歴史なのね!いい加減にして欲しいわ」
こっそりと図書室から拝借してきた歴史書を開いて、夫人が持参した年表と照らし合わせた。するとどうだろうか、年月日のほとんどが数年づつずれているではないか。

「やっぱりね、ドニ来て頂戴」
「はい、お嬢様」
相変わらず的外れな箇所から降りて来た影に溜息を漏らす、最早突っ込む気すらしない。
「お嬢様ァ、つまらないです」
「はいはい、わかっているわよ。ところで記録は残しておいてくれた?」
「はい、ばっちりです!あの腹黒夫人をギャフンと言わせてやりましょう!」

彼女は鷹揚に頷き箇条書きした歴史学の箇所にバツを付けた、これまで学んできたマナー、ダンスなどもバツが付いている。
「揃いもそろって間違ったことをご教授いただけるなんてね、どれほど私を愚弄すれば気が済むの」
「侮った愚か者には制裁を」
「ええ、もちろんだわ」

これまで教えに来ていた教師たちには既に解雇通知を渡していた。今頃は大慌てで王族に謝罪をしていることだろう。懲りない連中にアリーチャはうんざりしている。
「これほどまでに他国からきた私が気に入らないとはね、でも私は挫けない!ぜーったいにクリストフと結婚してやるんだから!」


***

「どうして、どうして教えてくれなかったの?チャチャ!」
「え~っとう」
夜会の席でクリストフに詰め寄られるアリーチャはゴニョゴニョと口籠る。教師たちに嫌がらせを受けていると遅まきながら知った彼は悲し気に言う。

「ああ、知っていたらすぐにでも改善させたのに、キミはなんでも一人で解決しちゃうんだから」
「申し訳ございません、こんな些末なことで煩わせるのは如何かと思いましたの」
少々わざとらしく嘆き、扇をバサリとすれば貴族達はビクリとして顔を背ける。それを見逃さない彼女は扇の奥でニッコリ笑った。

これほどに牽制してやれば少しは大人しくなるだろうと彼女は思う。それでも懲りずにやってくるようなら容赦はしないと思った。例の伯爵夫人は夜会に来ていない、恐らく王家から猛抗議を受けたに違いない。
それだけで溜飲は下がったが、クリストフは降爵手続きをしていた。どこか甘いアリーチャに彼は仕方ない人だと思っている。

「さしずめ男爵あたりが妥当かな、それから慰謝料を貰わないといけないな」
「え、なんの話なのクリス?」
「ううん、こちらの話だよ。さぁ踊ろうか」

彼女らはそれは華麗に舞った、キラキラと控えめに光る赤いドレスはクリストフの瞳の色だ。下品にならない程度に落ち着いた色合いだ。
息がぴったりで誰がどう見てもお似合いのふたりである、ダンス曲が終わるタイミングで他の貴族子女が誘っても「彼女に敵うとでも?」と王子にやり込まれてしまう。

それを見ていた敵愾心剥き出しだった貴族らは「敵わない」と匙を投げるのだった。とうとう黙らせたと思った二人はいい笑顔である。

「私は王子妃に向いているかしら?」
「もちろん、ボクには勿体ないほどさ。どうかこの手を離さないでね」
「ふふ、嫌になっても離してあげない!」








本編完結


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