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後日談
困った人
しおりを挟む「妃殿下様!甥御さまファビアンとクリスティナ様が拐されました!」
「え?」
完璧と思われた警備だったがどこか穴があったらしい、しかし、アリーチャは訝しい顔をする。どうにも腑に落ちないらしい。
「あ、あの王子妃様?」
「ああ、ちょっと待って、考えを纏めるから」
周囲は誘拐されたと聞いて騒がしくしている、にも拘わらず王子妃アリーチャだけは冷静沈着な対応なのだ。
「どうかしたの、チャチャ?」
ひとりオロオロしていたクリストフは落ち着いたままの彼女に疑問を抱いた。何かあるのだと察知した彼は兄夫婦を呼ぶ。
「どうにも可笑しいことですわ、警備に穴があったとは考えにくい。だってそうでしょう、いまこの会場は警備の最高峰と言えるのだもの」
「そういえばそうだね」
騎士達は四方を固めるように常駐しており、交代で見廻りをしていた。その数15名だ、とても外部からの侵入があったとは考えにくい。
「ましてやティナ達には侍女らがついて回っていた、これはどういうことかしら?ねぇそこの貴女」
「ひぃ!?」
すっかり青褪めている侍女に詰め寄るアリーチャは良い笑顔である、だが目は笑っていない。なにか隠し事をしているでしょうと侍女に迫った。
米つきバッタのように「申し訳ございません」と謝り倒す侍女に「わかったから」とアリーチャは言う。
「では、誘拐犯のところに行きましょうか」
彼女は覚めた茶を一気に流し込むと立ち上がり、”さあこちらよ”と皆を促した。
***
「一応聞くわ、犯人はどのような御髪かしら?瞳の色は?」
「ぎ、銀髪でございます、赤い目をしています」
「ふむ」
其れだけ聞くと彼女はニヤリと笑う、ほぼ犯人は確定したと言って良い。訳が分からない様子のクリストフはどういうことかと問いただす。
だが、彼女が答えることはない。聞きたがる彼を制して次の質問を侍女に投げる。
「では、髭は生やしているかしら、だとしたらそれはどのように?」
「は、はい、豊かに蓄えていて……鼻の下から顎まで生やしています」
「うん、結構よ」
「ここは……チャチャほんとうにここで間違ってないの?」
「ええ、そうよ」
彼女はそう言って思い切りドアを開けた、蹴破ると言ったほうが正解かもしれない。クリストフと兄夫婦は目の前に飛び込んで来た光景に唖然とした。
「な、なんだこれは?」
そこにはなんと髭をひっぱられて半泣きの御仁がいたからだ。四方八方からひっぱるものだから絡まってしまっている。止めてくれないかと懇願するも相手は「だめ」と言って笑っている。
「ひぃ~勘弁してくれぇ」
「ダメ!ジイジはおうあさんなのお」
「そうだよ、馬なんだからヒヒーンと鳴かなきゃダメだよ」
「ひひーん!」
「なにをやってるのですか父上……」
「ひひーん……バレたか」
呆れ替える兄王子は肩を竦めている、夫人のほうも同様だ。クリストフはといえば笑いのツボが入ってしまって「ひーひー」と笑っていた。
アリーチャはといえば「やっぱり」と頭を抱えている。どうしてこうも問題を起こすのかと頭が痛いと嘆く。
「おかしいと思いましたのよ、誘拐されたはずなのに騎士たちは通常運転でしたからね」
「はは、面目ないイテテテテ!」
「きゃっきゃっ!おうあさん走ってぇ!」
「ひ、ひひーん」
「いや、悪かった、悪巫山戯が過ぎたわい」
「ほんとうですよ!肝が冷えました!」
兄王子はプリプリと怒り、テーブルを叩いた。茶が零れそうになって慌てて侍女が拭こうとした。
「まったく、1週間です」
アリーチャはビシッと指を王に向けて言う。
「は?なにが」
「1週間はティナと遊ばせません!よーく反省してくださいませ!」
「そんなぁ!後生じゃせめて三日……」
最後までだだを捏ねる王だったが、最終的には十日に延ばされてしまった。
「反省の色がないのですもの!絶対に許しません!」
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