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後日談
お転婆クリスティナ
しおりを挟むお転婆に育ったクリスティナはとにかく落ち着きがない。
いまもどこで何をしているやら気が気ではないと乳母は悩む、「あぁ、何か無茶をやらかしてないといいけれど」こんな風に日々翻弄されていた。
「姫様!いったいどちらにいらしてたのですか?」
「な~いしょ~」
「姫様!」
兎に角けんもほろろな態度で彼女は対応する、ようするに反抗期なのだ。乳母はこれは駄目だと諦めた、しつこすればするほど相手はツンツンなのだから。
「わかりました姫様、御自由になさってください。なにが起きても私は感知しません」
「……」
こうして乳母が正式に去り彼女は自由を得た。
だが、それはそれで寂しいものだ、母アリーチャはとても厳しい人だが基本は自由にやらせている。
「どのような結果になろうと本人が決めたこと」と言う感じなのだ。
人として曲がったことをしない限りはなにもいわない。
「あ~暇ぁ……ファビーはなにをしているかしら?」
従兄のファビアンはと言えば近頃は鍛えていることが多い、騎士達に混ざって剣術の鍛錬に励んでいた。18歳になった彼は精悍な青年に成長していた。
そんな彼を探しにクリスティナは騎士舎を目指していた、丁度いまはマナーレッスンの時間である彼女はこれ幸いと抜け出した。
「マナーなんてつまらないわ、それに基本の所作は完璧にこなしているもの」
このように大人を小馬鹿にしている様子の彼女はやりたい放題なのだ。事実、彼女は天才肌でなんでもやりとげてしまうのだ。
騎士達の中にファビアンの姿を見つけると「お~い」と手をブンブンと振った。
「あ~また、サボリかな……困った子だ」
「王女様ですか?あの子が」
「ええ!?俺はもっとおしとやかなイメージが」
彼女は男勝りな感じである、おしとやかなど遥かに遠い存在だ。
クリスティナは壁向こうにいるはずなのだが、よじよじと登り切り「ふふん!」といった調子で鍛錬場に降りてきてしまった。
「ダメだよティナ、ここは危ない」
「いーじゃん!剣術なら私だって習っているわ!」
「それは護身用のだろう?ここはフルーレを振るところじゃないよ」
「ぶ~」
それならばと騎士の一人から剣を奪うと構えて「どう?様になっているでしょう」と笑った。
「ティナ……勘弁して」
***
「ティナ、私は貴女がなにをしようが口を挟みません。けれど従兄の邪魔をすることは許されないことです」
仁王立ちしたアリーチャは轟々と怒りの炎を顕現して見せた、文字通り目の前の炎が揺らめいているのだ。
「ひっ!ご、ごごごめんなさい……」
「は?」
「申し訳ございませんでした!」
平伏して詫びる彼女はそのままの姿勢で固まった、氷結の魔法でもって固められたのだ。母アリーチャは容赦しない。
「そのまましっかり反省なさい、小一時間後にまた来ます」
「そ、そんな~」
ビキビキと氷が迸り彼女の身体をキンキンに冷やしていた。これでは冷え切った身体は霜焼けになってしまうだろう。手加減無用のお仕置きだ。
「うぅ……冷たい、助けて」
そこへ従兄のファビアンがこっそりやってきた。彼女の状態を知るや「ああ……」と嘆きの声をあげた。
「また厳しい仕打ちだね、まぁ気持ちはわかるけど」
「え~ん!助けてよファビー!お腹が冷えちゃうわ」
「まぁ大丈夫だよ、おば様は治癒もできるのだから頑張って!」
「くっ……意地悪ぅ」
「なんとでも、キミが悪いのだからね。ちゃんと反省してよ」
「うう」
せめて背中だけでもと上着をかけてやるのだが、意味はない。氷の上から乗せているのだから当たり前だ。
「ああ、幼少期のころは天使だったのに、どうしてこうなった?」
「知らない」
キミはおじさまに似てたおやかなレディになるはずだったと言う。
「それなのにどうしてこうも跳ねっかえりなの」
「……母様に似たのよ、それしか考えられない!うん、私の性格は母様のせいなのだわ!」
「誰のせいですって?」
怒気を孕んだ声の主を見たクリスティナは「あ、死んだ」と白目を剥く。様子を見に来た母が見下ろしていた。
「ちゃんと反省しなさい!」
「ひゃいぃぃ!」
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