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後日談
社交界デビュー
しおりを挟む16歳の誕生日、クリスティナは社交界にデビューをした。
皆同じ白いドレスを着てしゃなりとして澄ましている。男子も似たような感じだ。1~2才の誤差はあれど同世代なのは変わらない。
ファビアンはとっくに成人しており騎士服を着て座っていた。
周辺には御令嬢が屯していて何とか近づきになりたいと色気を振り撒いている。彼は第一王子にして王太子の息子である、必死になるのも頷けた。
「げ~……ああは成りたくないわ」
王族席でゲンナリする彼女は自身も似たような環境にいるのだが、つぎつぎと訪れる男子たちの言葉などいちいち聞いちゃいない。
「どうか一曲踊りませんか」
「嫌です」
「お話しませんか?」
「間に合ってます」
壁の花ならぬ、椅子の上の重石の如く動こうとしない娘に母アリーチャは「少しは相手して差し上げたら」と笑う。
「いいえ、お母様。甘い顔をすれば何を仕掛けてくるかわかりませんもの」
「ふふ、それもそうね、今日は初舞台だものゆっくりしなさい」
「はい、そのようにします」
ガツガツとしている男子勢を牽制するように彼女は居住まいを正した。凛とした態度に彼らはビクリとしてコソコソと去って行く。なんてことはない、ただデビューしたばかりの雛を突きまわして遊びたいだけなのだ。
「ほんと、話にならないわ。どいつもこいつも」
そこへファビアンがやってきて「ファーストダンスをどうか」と誘って来た。
にこやかな従兄を前にして「うん、くるしゅうない」と偉そうに応じた。
「手強いねぇ、やっぱりティナはアリーチャ様の娘だよ」
「それはどういう意味?」
軽やかにステップを踏みながら彼女は訝しい顔をした、すると「ふふ」と笑ってこう答えた。
「アリーチャ様はかつて某国の王子に嫁がされそうになったんだ。その時の武勇は面白いよ」
「某国?」
「サトゥルノ王国さ、そこの末席の王子と縁談を結ばれた。だが、その王子は頭が良くなかったんだ。自分はそのまま王子としていられると勘違いした」
「へぇ!それで?」
食いつきが良いクリスティナに少々引き気味なファビアンである。
「うーん、ボクから話して良いものかな、アリーチャ様は話していないのだろう?」
「いいじゃない!お母様はご自分の事を話してくださらないわ、この機会に是非!」
止む無くちらりと叔母の方を向くとアリーチャは不思議そうに首を傾げる、やはり確認をとってからにしようとファビアンは思った。
***
「面白い!面白いわ!」
母の武勇を聞かされた彼女は興奮気味にうち震えた。
「それで!その後はどうなったの!早く教えてくださいな!」
「まぁ、お待ちなさい。続きはお茶を飲んでから」
「ぶ~」
直接、母から話を聞くことになったクリスティナは、喉を潤す母をじっと見つめていた。あまりの食いつきにやはりドン引きしている。
「このような話に興味を持つなんてね、はぁ、やはり私の子だわ」
「だって面白いのですもの!こんな愉快な話を黙ってるなんて狡いわ!」
「ずるい……」
アリーチャは深くため息を吐くと「続きはファビアンに聞きなさい」と許可を出してサロンから去って行く。
バトンを渡されたファビアンは「やれやれ」と肩を竦める、お預けを食らった形のクリスティナは「早く!」とせっつくのだ。
「まあ!騎士隊が雪崩れ込んで!まぁまぁ!」
「ここの話は叔母様が騎士達に聞いた話だから確証はないのだけどね」
「それでもいいわ!楽しいのだもの!」
かつて王子だったテリウスがやらかして投獄されたところで話は一旦終わった。つづきはまた後日という。
「ああ、面白いこと。お母様ったらやっぱりバイオレンス気味なんだわ」
ウキウキとしながら王宮を歩いていると前方から苦手な相手がやってきた。
「やぁ、王女殿下!」
「げえ!フラメール侯爵令息……」
相手はアゴス・フラメール、侯爵家の次男である。デビュー当日にしつこくダンスに誘って来た男だ。香水の匂いがきつくて吐き気を覚えたので記憶に残っていた。
「王女殿下、是非一度我が家へ来られませんか?お茶会に来て下さいな」
「……」
高位の者から話しかけない限り、口を利いてはならないことをガン無視してこの男はペラペラと話す。王女はただ無言で先を歩いた、それを回り込みまたも話かけてくるのだ。
苛立ったクリスティナはパチリと扇を弾いた。
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