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呪われた愚者
しおりを挟むアンドレイナがいつも通りに職務を熟していると、何やら廊下が騒がしい。一体何事かと侍女に様子を探らせた。どうやら王太子の側近が旅を抜け出してきて酷く興奮しているようだと侍女は報告した。
「あらまぁ、何か旅先でトラブルかしら?どうでも良いけど」
さして興味をそそられなかった彼女は執務に戻る、王太子が何をやらかそうが知った事ではないと書類と格闘し始めた。だが、王太子の側近は彼女の執務室へ乱入してきたのだ。
これには頭にきた彼女は罵倒して「出て行きなさい」と激高する、当然の処置である。
「そこを何とか!どうかお願いします、彼女が……ベネッタが大変なんです!」
「ベネッタですって?随分と気易いこと、王太子妃とそんなに親しい間柄なのね」
「え、そ、そんなことは……」
アンドレイナの疑問にしどろもどろになった側近がひとり、リモンド・ヘイヤール伯爵令息は言葉に詰まる。テベリオ・ドレイタス王太子の腰巾着は激しく脂汗を掻きだした。
やはりベネッタとは只ならぬ関係の様子だ、彼女は「ふん」と鼻を鳴らして用件を手短にしろと言った。
古都アルバニにて宿を取っていたところ、ベネッタが呪いを受けたと語った。アルバニはさほど王都から離れていない、そんなところで何をグズグズしているのかとアンドレイナは呆れる。
「貴方方は何をしているの、確か南のヘルエドへ向かうはずよね?そこから海へ行くはずだけれど」
「わかっております、だがしかし、出先のアルバニで足止めを食っております。その……ベネッタ様が呪いを受けてしまいまして」
「呪いですって?はて、どんなトラブルを起こせばそうなるのよ」
書類から目を離さずにいた彼女は手を止めてうんざりした顔をする、呪われるとは精霊などの類が絡んでくる。最近では滅多に聞いたことはない。
***
「桜の木を手折ろうとしたですって?なんとまぁ、桜の木の妖精を怒らせたのね。古都では妖精が棲みついていると有名だわ、はあ、その妖精に恨まれたわけね……」
項垂れたリモンドがそれを肯定していた、厄介事を持ち出してくると彼女は大いに嘆く。
側近は言う。
「そこで、アンドレイナ様に治癒していただけないかと」
「はあ?何故私がそのようなことを、呪いを解くのは簡単ではないのよ。そんな事より古都から彼らは戻ったのでしょうね?」
「いいえ、そのまま旅に出たいらしくお戻りにはなっていません」
「は?」
ベネッタは旅は続けたいし、だが呪いは解いて欲しいなどと都合の良いことを言っているようだ。さすがに呆れたアンドレイナは「身勝手が過ぎる」と匙を投げたくなった。
ようするに、アンドレイナが古都まで出向き、呪いを解くようにしろと言うことらしい。だが、そんな事を了承するほど彼女は優しくない。
「勝手になさいと託しなさい、こちらは忙しいのよ!」
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