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魔王の素顔
しおりを挟むその週末はとても慌ただしかった、ランベルナイト・テルダーティのせいである。大公の息子とあり彼女は神経を尖らせて茶会の準備に追われた。
「と、とにかくあの魔王を怒らせないようにしないと!」
今日のこの日はサンドリーニ侯爵邸で行われる、しかし、残念なことに朝から悪天候に見舞われて先ほどから雷鳴が轟いている。
「あ、あのぉお嬢様、このような日にテルダーティ様はいらっしゃるものでしょうか?」
「ええ、来るわ。間違いなく……中止という託けが届かないのですもの」
ピシャーンという雷がその時鳴った、侍女たちは「ひぃぃ!」とその音に恐れている。
「だ、大丈夫よ、音が鳴った時にはもう雷は落ちているのだからオホホホ……」
「慰めになりませんよぉ!」
とうとう風までも激しくなりビュービューと外が更に煩くなる、屋敷内では会話もままならない状態だ。昼間だというのに真っ暗で家中の蝋燭をともしても薄暗かった。
そのうちに雨が降り出してきてドドドという音が屋根を穿つかのようだ。
そして、約束の時間になると観音開きの扉が開かれて魔王、もといランベルナイト・テルダーティその人がやって来た。彼は漆黒の外套を脱ぎ捨てると水を滴らせてそれを執事に任せる、やはりこの御仁は油断ならない顔をしていると彼女は思った。
ただらなぬ空気に触れてメイドが倒れた、下女らも恐ろしいものを見たと言って卒倒したようすだ。
「ほ、本日はようこそいらっしゃいました。僭越ですが茶会の席をご用意をさせていただきましたわ」
「うむ、それは有難いことです。会場はどちらに?」
「こちらです、サロンにてご用意しました、本日はその天候がアレなので」
彼女は遠回しに『なんでこんな日に来たんだ』と抗議した、それくらいは許されるはずである。だが、彼はなんでもない事のように「天気などどうでも良いことです」と言い放った。
これには流石に面食らう。
「では案内していただこう!」
「は、はい」
若干いつもより語気を強めに言うのは豪雨のせいだ、バラバラと激しく滴る雨は容赦なく降り続く。
防音が施されたサロンに着くと些か穏やかになった、「ほう」と溜息をついたのは許して欲しいとアンドレイナは思った。
「今日は大雨ですからブランデーを落としたものをご用意しました、少しでも暖をとれますよう」
「ああ、それは有難いことです」
若干だったが魔王の機嫌が良くなったように思えた。やはり酒が入ると喜ぶらしい。
「腹に沁みます……あぁなんて美味しいのか」
「茶請けもチーズとクラッカーを用意しましたの、酒宴のようになってしまいますが」
「いや、良いですよ。実は私は茶会はあまり好きじゃない、甘い菓子は好ましいが」
「な、なるほど」
魔王は甘い茶菓子が好きだと聞いてアンドレイナは驚きを隠せない。
チーズケーキを勧めると彼はとても嬉しそうに頬ばる、楽しんでいるのだと知った。彼の顔は怖ろしく整っていて冷たい印象だったが、実は誤解なのだと分かった。
「ふふ、貴方を誤解しておりました。とても表情豊かなのですね」
「え、私の表情が分かるのですか?」
彼は興奮気味に話し出して「ああ、なんてことだ!今日この日を記念日にしたい」と宣ったのだ。
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