3 / 7
0.2
その後、疑心暗鬼に陥ったロレッタであるが、惚れた弱みなのか小さな我儘やお強請りをついつい許してしまう。相変わらず彼の口から感謝の言葉は聞けなかったがそれでも良いと不満に蓋をしてしまうのだ。
気が付けば、友人としての付き合いは半月を過ぎていた。
手すら握らない清い交際である、侍女や護衛の目が光っていることもあるが二人はあくまで友として関係を貫く。
ある日の放課後、街で遊ぼうとサイモンが誘って来た。平民の彼は家業を手伝うことが多いのでいつも真っ直ぐ帰宅するのが日課だ、これは珍しいことなのだ。
デートに誘われた彼女は喜んで誘いに乗った。伴う侍女は良い顔をしなかったが護衛もいるので主の意向を汲む。
「お嬢様、遠出はやめてくださいませね」
「ええ、わかっているわ。街中を歩くだけだもの心配ないわよ」
こうして子爵家の馬車にサイモンを同乗させて中央通りへと向かう、殿方と遊ぶという行為が初めてのロレッタはドキドキと心躍らせていた。
一番大きな商店街に差し掛かった時にサイモンが言った。
「あ、この辺りで降ろしてくれないかな?」
「ええ、わかったわ」
彼女はなんの疑いを持たずに彼に言われるまま路上へ降り立った。賑やかなその通りを歩くのはとても楽しいに違いないと思ったのだ。
するとサイモンは予め決めていたかのように雑貨店へと迷いなく入ってしまった。そこは貴族御用達の高級店である。婦人物ばかり揃えた専門店を選んだ彼を見て「ひょっとして」とロレッタは期待してしまう。
「う~ん、どんなものが良いんだろう。ねぇ、ロレッタ女性はなにを欲しがるのかな?」
「あ、あのサイモン何を探しているのか……な?」
ちょっと困惑を浮かべた彼女が問うとサイモンはニッコリ笑みを作って「実は母さんの誕生日プレゼントを買いたくてね、女性目線で意見が聞きたい」と言った。
遊び目的ではなく買い物につき合わせるのが目的だったようだ、察した彼女は落胆して表情を曇らせた。それでも健気な彼女はブーケ付きの入浴剤や雅な彫刻を施した写真立てはどうかと言う。
「入浴剤?うちは湯船なんて設置するほど裕福じゃないよ」
「な、なら写真立ては?」
するとサイモンはガッカリした顔を作ると言い返す。
「あのさぁ、写真なんて高価なものはないよ。贅沢にもほどがある」
「あ……ごめんなさい」
ここにきて貴族と平民の物欲や嗜好に大きな開きを知らしめられたロレッタは泣きそうになった。たしかに配慮に欠けた提言だったが、彼の態度にイラついた侍女が立腹する。
「アナタ!お嬢様を愚弄するような態度は許せません!それになんですか、貴族が贔屓にする高級店へ自ら入ったのでしょう!見合った品がなくて当たり前です!」
侍女の厳しい指摘は的を射ていた、護衛も店内に居合わせた客達もその通りだと頷いた。
当たり前の事で叱られたサイモンは「なんだよ!」と言い捨て店を飛び出した。それを慌てて追うロレッタは悪くも無いのに謝り倒す。
「ごめんなさい、私が悪いのよ。どうか気を静めて」
「……だったらキミがこれと思うものを選んでくれよ」
「え、ええ、もちろん協力するわ」
彼らはお手頃な価格帯の店を探して贈り物を買うことにした、ロレッタは陶器製のオルゴールを選びこれに花束を添えたら素敵だろうと言う。
そして、いよいよ支払いという段階で彼がとんでもないことを言う。
「しまった!財布を忘れたみたいだ!今日が誕生日なのに!」
「ええ!?それは困ったわね……仕方ないわ、立て替えてあげるわね」
「そうか!頼むよ!」
しかし、サイモンの言葉にはお礼が抜けていた。侍女は再び不信感を覚えて彼の事を睨む。財布を預かるのは侍女なのだから。
「貴方、ほんとうに支払うアテはあるのでしょうね?それなりの額ですよ」
「え、もちろんだよ。なんだよ!偉そうに」
これまでロレッタに集る事ばかりしてきたサイモンは信用が失墜している、侍女は「今日の事は子爵様の耳に入れておく」と言ってから支払いに応じた。
子爵の名を出されたサイモンは流石に拙いと思ったらしい。
少ない小遣いの範疇を越えていた買い物を土壇場でキャンセルしたのは言うまでもなく、花束一つ買わないで彼は逃げるように帰ったのだった。
「お嬢様、あれがあの男の本性ですよ。ご学友はお選びくださいね」
「う、うん。流石に……今回のことは看過し難いわね」
遠くなっていく彼の背を見送りながら、これは果たして恋なのかと疑問を抱くのだ。
「ごめん、母さんアテが外れたみたいで手に入らなかった」
「あら残念!お貴族様と同じ雑貨を手に取ってみたかったわ次は上手くやるのよ」
「ずるーい!兄さん次は私のを買って貰ってよね!」
サイモンは最初から金など払うつもりはなかったのだ。
気が付けば、友人としての付き合いは半月を過ぎていた。
手すら握らない清い交際である、侍女や護衛の目が光っていることもあるが二人はあくまで友として関係を貫く。
ある日の放課後、街で遊ぼうとサイモンが誘って来た。平民の彼は家業を手伝うことが多いのでいつも真っ直ぐ帰宅するのが日課だ、これは珍しいことなのだ。
デートに誘われた彼女は喜んで誘いに乗った。伴う侍女は良い顔をしなかったが護衛もいるので主の意向を汲む。
「お嬢様、遠出はやめてくださいませね」
「ええ、わかっているわ。街中を歩くだけだもの心配ないわよ」
こうして子爵家の馬車にサイモンを同乗させて中央通りへと向かう、殿方と遊ぶという行為が初めてのロレッタはドキドキと心躍らせていた。
一番大きな商店街に差し掛かった時にサイモンが言った。
「あ、この辺りで降ろしてくれないかな?」
「ええ、わかったわ」
彼女はなんの疑いを持たずに彼に言われるまま路上へ降り立った。賑やかなその通りを歩くのはとても楽しいに違いないと思ったのだ。
するとサイモンは予め決めていたかのように雑貨店へと迷いなく入ってしまった。そこは貴族御用達の高級店である。婦人物ばかり揃えた専門店を選んだ彼を見て「ひょっとして」とロレッタは期待してしまう。
「う~ん、どんなものが良いんだろう。ねぇ、ロレッタ女性はなにを欲しがるのかな?」
「あ、あのサイモン何を探しているのか……な?」
ちょっと困惑を浮かべた彼女が問うとサイモンはニッコリ笑みを作って「実は母さんの誕生日プレゼントを買いたくてね、女性目線で意見が聞きたい」と言った。
遊び目的ではなく買い物につき合わせるのが目的だったようだ、察した彼女は落胆して表情を曇らせた。それでも健気な彼女はブーケ付きの入浴剤や雅な彫刻を施した写真立てはどうかと言う。
「入浴剤?うちは湯船なんて設置するほど裕福じゃないよ」
「な、なら写真立ては?」
するとサイモンはガッカリした顔を作ると言い返す。
「あのさぁ、写真なんて高価なものはないよ。贅沢にもほどがある」
「あ……ごめんなさい」
ここにきて貴族と平民の物欲や嗜好に大きな開きを知らしめられたロレッタは泣きそうになった。たしかに配慮に欠けた提言だったが、彼の態度にイラついた侍女が立腹する。
「アナタ!お嬢様を愚弄するような態度は許せません!それになんですか、貴族が贔屓にする高級店へ自ら入ったのでしょう!見合った品がなくて当たり前です!」
侍女の厳しい指摘は的を射ていた、護衛も店内に居合わせた客達もその通りだと頷いた。
当たり前の事で叱られたサイモンは「なんだよ!」と言い捨て店を飛び出した。それを慌てて追うロレッタは悪くも無いのに謝り倒す。
「ごめんなさい、私が悪いのよ。どうか気を静めて」
「……だったらキミがこれと思うものを選んでくれよ」
「え、ええ、もちろん協力するわ」
彼らはお手頃な価格帯の店を探して贈り物を買うことにした、ロレッタは陶器製のオルゴールを選びこれに花束を添えたら素敵だろうと言う。
そして、いよいよ支払いという段階で彼がとんでもないことを言う。
「しまった!財布を忘れたみたいだ!今日が誕生日なのに!」
「ええ!?それは困ったわね……仕方ないわ、立て替えてあげるわね」
「そうか!頼むよ!」
しかし、サイモンの言葉にはお礼が抜けていた。侍女は再び不信感を覚えて彼の事を睨む。財布を預かるのは侍女なのだから。
「貴方、ほんとうに支払うアテはあるのでしょうね?それなりの額ですよ」
「え、もちろんだよ。なんだよ!偉そうに」
これまでロレッタに集る事ばかりしてきたサイモンは信用が失墜している、侍女は「今日の事は子爵様の耳に入れておく」と言ってから支払いに応じた。
子爵の名を出されたサイモンは流石に拙いと思ったらしい。
少ない小遣いの範疇を越えていた買い物を土壇場でキャンセルしたのは言うまでもなく、花束一つ買わないで彼は逃げるように帰ったのだった。
「お嬢様、あれがあの男の本性ですよ。ご学友はお選びくださいね」
「う、うん。流石に……今回のことは看過し難いわね」
遠くなっていく彼の背を見送りながら、これは果たして恋なのかと疑問を抱くのだ。
「ごめん、母さんアテが外れたみたいで手に入らなかった」
「あら残念!お貴族様と同じ雑貨を手に取ってみたかったわ次は上手くやるのよ」
「ずるーい!兄さん次は私のを買って貰ってよね!」
サイモンは最初から金など払うつもりはなかったのだ。
あなたにおすすめの小説
マジメにやってよ!王子様
猫枕
恋愛
伯爵令嬢ローズ・ターナー(12)はエリック第一王子(12)主宰のお茶会に参加する。
エリックのイタズラで危うく命を落としそうになったローズ。
生死をさまよったローズが意識を取り戻すと、エリックが責任を取る形で両家の間に婚約が成立していた。
その後のエリックとの日々は馬鹿らしくも楽しい毎日ではあったが、お年頃になったローズは周りのご令嬢達のようにステキな恋がしたい。
ふざけてばかりのエリックに不満をもつローズだったが。
「私は王子のサンドバッグ」
のエリックとローズの別世界バージョン。
登場人物の立ち位置は少しずつ違っています。
それは確かに真実の愛
宝月 蓮
恋愛
レルヒェンフェルト伯爵令嬢ルーツィエには悩みがあった。それは幼馴染であるビューロウ侯爵令息ヤーコブが髪質のことを散々いじってくること。やめて欲しいと伝えても全くやめてくれないのである。いつも「冗談だから」で済まされてしまうのだ。おまけに嫌がったらこちらが悪者にされてしまう。
そんなある日、ルーツィエは君主の家系であるリヒネットシュタイン公家の第三公子クラウスと出会う。クラウスはルーツィエの髪型を素敵だと褒めてくれた。彼はヤーコブとは違い、ルーツィエの嫌がることは全くしない。そしてルーツィエとクラウスは交流をしていくうちにお互い惹かれ合っていた。
そんな中、ルーツィエとヤーコブの婚約が決まってしまう。ヤーコブなんかとは絶対に結婚したくないルーツィエはクラウスに助けを求めた。
そしてクラウスがある行動を起こすのであるが、果たしてその結果は……?
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
全てを奪われてしまいそうなので、ざまぁします!!
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
義母に全てを奪われたジュディ。何とかメイドの仕事を見つけるも義母がお金の無心にやって来ます。
私、もう我慢の限界なんですっ!!
真実の愛は水晶の中に
立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。
しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。
※「なろう」にも重複投稿しています。
こんな婚約者は貴女にあげる
如月圭
恋愛
アルカは十八才のローゼン伯爵家の長女として、この世に生を受ける。婚約者のステファン様は自分には興味がないらしい。妹のアメリアには、興味があるようだ。双子のはずなのにどうしてこんなに差があるのか、誰か教えて欲しい……。
初めての投稿なので温かい目で見てくださると幸いです。
[完]僕の前から、君が消えた
小葉石
恋愛
『あなたの残りの時間、全てください』
余命宣告を受けた僕に殊勝にもそんな事を言っていた彼女が突然消えた…それは事故で一瞬で終わってしまったと後から聞いた。
残りの人生彼女とはどう向き合おうかと、悩みに悩んでいた僕にとっては彼女が消えた事実さえ上手く処理出来ないでいる。
そんな彼女が、僕を迎えにくるなんて……
*ホラーではありません。現代が舞台ですが、ファンタジー色強めだと思います。
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。