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高く聳える嫌がらせの塔
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投獄から半月ほどの事、息を切らせた人々が今日もやって来る。
最上階のそこは螺旋階段を30分かけて登らなければならない。
「ぜぇぜぇ……どうかお願いします、このモジャモジャでは生活がなりたちません……ヒィヒィ」
「呪いは解けないといいましたよね?」
ほぼ毛玉と化した元宰相が貢物の山を担いだ従者とともにやってきたところだ。
「呪いの上書きしかありませんけど、どうしますか?ハゲるか毛玉の2択です」
「どうしてそう極端なんです!?」
「呪いだからですよ」
面会中もどんどん毛が伸び続ける元宰相は剛毛を斬り落としながら叫んだ。
「……ぐぬぬぬ、じゃあハゲで!毛で窒息するよりマシだ!」
「了解しました」
マニエがそう言った途端に全身の毛がゴッソリと抜け落ちた。
眉毛も鼻毛も一本もない状態になった。
「長年剛毛で悩んでいた俺がツルツル……脛毛も胸毛もないぞ!ヤッター!」
「はいはい、良かったですね」
ちなみに鼻毛がないと鼻水が垂れ流しになるが、それは別の話。
元宰相は「カツラを被れば問題ない」と判断して上機嫌で帰宅して行った。
「毛の手入れって大変なのねぇ」とマニエは笑う。
後に残った毛の山を看守がブツクサ言いながら片づけていた。
***
午後の面会時間が始まった頃、階下からマニエが聞き覚えのある声がしてきた。
「……ぜぇぜぇ……あの子ったらどうしてこうハァハァ……」
「おい、デカイ尻を避けろ邪魔だ……ヒィヒィ」
マニエによく似た面差しの男と太り肉の女が顔をだした。
「あら、お父様、お母様ごきげんよう」
「……ぜぇぜぇ機嫌が良く見えるなら異常だぞ眼科へ行け……ふぅふぅ」
「ま、マニエ……ふぅふぅいい加減牢獄からでてらっしゃい……ゴホゲホ」
バカ王子との婚約を強く薦めた両親は相変わらずのようだ。
婚約破棄の当日から呪いのお零れを貰った両親は酷い状態になっている。
父母共に急激に老け込み。まだ40代というのに腰が曲がり、白髪はもちろん皺だらけのダルンダルン顔になっていた。
怒り狂ったマニエは、情け容赦なく婚約に携わった輩を呪ったのだ。
「お父様なら呪いの改善くらいごぞんじでしょう?」
「それがままならないから来たのだ!身内にくらい手を抜かんか!」
居丈高な物言いをする父親にマニエは目を眇め、「痴れ者が」と言った。
「んな!お父様になんて口の利き方をするの!」
窘めようとした母親の身体が急に膨張した、「ぐえええ!」とカエルのような声を上げて失神する母。
急激に太ったので首回りが締まったようだ。腹は縫い目が解れて贅肉がはみ出ている。
「あら、ごめんなさい。煽るような言い方をされるから、つい呪いの上書きをしてしまったわ」
「ま、マニエ!調子に乗るなよ!侯爵家当主は私なのだぞ!」
「……だからなんですの?」
「え……?」
娘を叱責して脅そうとした父親は、いっこうに怯まない娘に焦りだした。
「上書きをご希望で?……老化を加速したいのかしら」
「うわー!待て!俺はまだ死にたくない!だから怒らないでくれ!」
「チッ」
ハゲ頭を床にこすり付ける父親に、上書きを辛うじて諦めるマニエである。
反省し心から懺悔した者には呪いが効かないのだ。
結局なんの交渉もできないまま、マニエの両親は帰っていった。
「何しにきたのかしら?」
侯爵邸に戻った両親を待っていたのはあきれ顔の息子ランスだった。
「だから不用意に面会するなと進言しましたでしょ」
まだ11歳の小僧に諭された両親は面目丸潰れであった。
「うぅ、このままでは私達は早死にする!なんとか説得してくれ!」
「えー嫌ですよ、ボクは姉上が大好きですが怒らせると怖いのを誰より知ってますからね」
ランスは天使のような笑顔で断る。
「早々に蟄居でもすれば姉上も良い方に呪ってくれますよ。」
「そ、そんな!この若さで引退しろというのか!?」
「若さって……すでに80過ぎのジジィみたいじゃないですか、諦めなさい」
まったく相手にされない両親は、ただただむせび泣くことしか出来なかった。
「ボクは姉上の幸せしか祈りませんからね」
意に沿わない縁談をさせた両親は、生涯許されることはないだろうとランスは見捨てた。
呪術師の一族ではあるが、濃く力を受け継いだのはマニエだけであり、当主であっても普通の人間でしかない父親は呪いを弾く力も改善する力もない。
ランスも呪術は使えるが他人をどうこうする力は持っていない。
「ボクはせいぜい己の身を変える程度だものな」
まだ小さい手をグーパーして、「鋭利な刃物」と言った。
しかし、失敗して「イテテ」と大慌てして解呪した。
「やっぱり姉様は凄い」
最上階のそこは螺旋階段を30分かけて登らなければならない。
「ぜぇぜぇ……どうかお願いします、このモジャモジャでは生活がなりたちません……ヒィヒィ」
「呪いは解けないといいましたよね?」
ほぼ毛玉と化した元宰相が貢物の山を担いだ従者とともにやってきたところだ。
「呪いの上書きしかありませんけど、どうしますか?ハゲるか毛玉の2択です」
「どうしてそう極端なんです!?」
「呪いだからですよ」
面会中もどんどん毛が伸び続ける元宰相は剛毛を斬り落としながら叫んだ。
「……ぐぬぬぬ、じゃあハゲで!毛で窒息するよりマシだ!」
「了解しました」
マニエがそう言った途端に全身の毛がゴッソリと抜け落ちた。
眉毛も鼻毛も一本もない状態になった。
「長年剛毛で悩んでいた俺がツルツル……脛毛も胸毛もないぞ!ヤッター!」
「はいはい、良かったですね」
ちなみに鼻毛がないと鼻水が垂れ流しになるが、それは別の話。
元宰相は「カツラを被れば問題ない」と判断して上機嫌で帰宅して行った。
「毛の手入れって大変なのねぇ」とマニエは笑う。
後に残った毛の山を看守がブツクサ言いながら片づけていた。
***
午後の面会時間が始まった頃、階下からマニエが聞き覚えのある声がしてきた。
「……ぜぇぜぇ……あの子ったらどうしてこうハァハァ……」
「おい、デカイ尻を避けろ邪魔だ……ヒィヒィ」
マニエによく似た面差しの男と太り肉の女が顔をだした。
「あら、お父様、お母様ごきげんよう」
「……ぜぇぜぇ機嫌が良く見えるなら異常だぞ眼科へ行け……ふぅふぅ」
「ま、マニエ……ふぅふぅいい加減牢獄からでてらっしゃい……ゴホゲホ」
バカ王子との婚約を強く薦めた両親は相変わらずのようだ。
婚約破棄の当日から呪いのお零れを貰った両親は酷い状態になっている。
父母共に急激に老け込み。まだ40代というのに腰が曲がり、白髪はもちろん皺だらけのダルンダルン顔になっていた。
怒り狂ったマニエは、情け容赦なく婚約に携わった輩を呪ったのだ。
「お父様なら呪いの改善くらいごぞんじでしょう?」
「それがままならないから来たのだ!身内にくらい手を抜かんか!」
居丈高な物言いをする父親にマニエは目を眇め、「痴れ者が」と言った。
「んな!お父様になんて口の利き方をするの!」
窘めようとした母親の身体が急に膨張した、「ぐえええ!」とカエルのような声を上げて失神する母。
急激に太ったので首回りが締まったようだ。腹は縫い目が解れて贅肉がはみ出ている。
「あら、ごめんなさい。煽るような言い方をされるから、つい呪いの上書きをしてしまったわ」
「ま、マニエ!調子に乗るなよ!侯爵家当主は私なのだぞ!」
「……だからなんですの?」
「え……?」
娘を叱責して脅そうとした父親は、いっこうに怯まない娘に焦りだした。
「上書きをご希望で?……老化を加速したいのかしら」
「うわー!待て!俺はまだ死にたくない!だから怒らないでくれ!」
「チッ」
ハゲ頭を床にこすり付ける父親に、上書きを辛うじて諦めるマニエである。
反省し心から懺悔した者には呪いが効かないのだ。
結局なんの交渉もできないまま、マニエの両親は帰っていった。
「何しにきたのかしら?」
侯爵邸に戻った両親を待っていたのはあきれ顔の息子ランスだった。
「だから不用意に面会するなと進言しましたでしょ」
まだ11歳の小僧に諭された両親は面目丸潰れであった。
「うぅ、このままでは私達は早死にする!なんとか説得してくれ!」
「えー嫌ですよ、ボクは姉上が大好きですが怒らせると怖いのを誰より知ってますからね」
ランスは天使のような笑顔で断る。
「早々に蟄居でもすれば姉上も良い方に呪ってくれますよ。」
「そ、そんな!この若さで引退しろというのか!?」
「若さって……すでに80過ぎのジジィみたいじゃないですか、諦めなさい」
まったく相手にされない両親は、ただただむせび泣くことしか出来なかった。
「ボクは姉上の幸せしか祈りませんからね」
意に沿わない縁談をさせた両親は、生涯許されることはないだろうとランスは見捨てた。
呪術師の一族ではあるが、濃く力を受け継いだのはマニエだけであり、当主であっても普通の人間でしかない父親は呪いを弾く力も改善する力もない。
ランスも呪術は使えるが他人をどうこうする力は持っていない。
「ボクはせいぜい己の身を変える程度だものな」
まだ小さい手をグーパーして、「鋭利な刃物」と言った。
しかし、失敗して「イテテ」と大慌てして解呪した。
「やっぱり姉様は凄い」
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