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相手にされなかった
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「誰?」
「え」
なけなしの金を払って面会した相手から冷え冷えとした言葉が返ってきた。
陥れた相手が自分を歓迎するとでも思っていたのだろうか。
「マ、マニエ!?俺の事を忘れたのか!薄情者、罪人の分際でなんて贅沢な暮らしをしているんだ!そこは広すぎるだろう、婚約者の俺が共に住んでやろう、今度こそ愛してやるぞ有難く思え!」
「なにを言ってるの気持ち悪い」
「んなぁ!?」
たしかにマニエの牢房は贅を尽くした貴族の館そのものに変貌していた。
だが元王子の罪は暴かれた後で、すでに彼女の冤罪は晴れている、どう生活していようがマニエの自由である。
牢獄生活が快適すぎて生家へ戻る気になれないだけだ。
「貴様!許さんぞ!王子に向かってその不敬な態度!」
「はぁ?頭がとうとう壊れたのね、いいえ最初から壊れてたわね。クスクス」
「なんだと!!!許さん!絶対に許さんぞ!父上に進言してすぐに処刑してくれる!」
勝手に怒り狂う河童ハゲの男をマニエは牢獄から汚物を見るような目を向ける、視界の端にすら映したくないとばかりに視線を逸らす。
「河童に知り合いはいないわ、看守さん、目障りな平民を追い出して頂戴」
「はい、ラグザント嬢様」
すっかり飼いならされた看守は、河童ことサンタアスを捕縛すると階段から突き落とす勢いで排除にあたった。
「ま、まて!俺を誰だと思っている!」
「ただの物乞い浮浪者だろ……」
河童より遥かに身綺麗な看守は嫌そうに薄汚いサンタアスを引っ張る。
「やめろぉ!俺は王子サンタアスだぁ!」
諦めの悪い男は暴れたが誰も相手にしない、それどころか侮蔑の視線を送り「弁えろ賤民」と罵倒の声が浴びせられた。
「自分を王子だなんて、気が触れているのだろう」「気持ち悪いヤツ」
つぎつぎと面会人達から嘲りの声が飛んできて元王子サンタアスは恥辱でいっぱいになり、怒鳴り返すこともままならないほど怒り狂った。
興奮し過ぎると理性が飛ぶのか、意味不明な言葉を列挙していた。
言葉にならない悪態をはいて彼は牢獄から追い出された。
「まったく、空気が悪くなったわ。きょうの面会は全て中止よ」
マニエはそう言うと鉄格子を壁に変えて閉じこもった、こうなると誰も手に負えない。
午後一で面会に来た現王ワイゼリアスは、頑ななマニエの態度に肩を落とした。
壁向こうに向かって言葉をかけたが反応はなく、やむなく出なおそうと階下へ戻った。
***
牢獄に引き籠ったマニエ令嬢を、どうにかせねばと焦って新王は巨大なデスクで項垂れる。
彼女がそこに居座ると、牢獄としての存在意義がぶれるので退去願いをしようとしたのだが失敗した。
愚弟サンタアスが余計な事をしたためだ。
「廃嫡してもなお王家に泥を塗るとはな……サンタアスよ、貴様は息している限り害悪だ、死をもって償って貰うぞ」
ワイゼリアス王は側近に目配せした、「御意」と短く返事したソレは素早く仕事に入る。
すっかり耄碌したと噂だったマニエの父ラグザント公が近く蟄居し、幼いランスが当主におさまると報せを聞いたところだ。彼が成人するまでは後見人として叔父が就くことになった。
「これはまぁ僥倖だ、マニエ嬢キミにとっても俺にとっても」
マニエ嬢を我が妃にと迎えたいとワイゼリアスは方々に手を回している。
母親が愚弟サンタアスを甘やかすが故にマニエは無理矢理に弟の婚約者に選ばれたのは不運だった。
王子として政務につけそうにない彼を優秀なマニエを娶らせようと画策したのだ。
結果は大失敗に終わったのだが。
彼女を見初めたのはデビュタントの夜会でだった。
マニエに懸想した第一王子の彼はすぐに婚約したいと望んだが、王妃の根回しでバカに掻っ攫われた。
あの日ほど惨めで憤怒に震えた日はないと今でも思うワイゼリアス。
「今度こそキミを迎え、世界一幸せにしてやりたい」
今夜も月影に青く聳え近くて遠い牢獄塔を、若き王は恋焦がれる眼差しを向けていた。
「え」
なけなしの金を払って面会した相手から冷え冷えとした言葉が返ってきた。
陥れた相手が自分を歓迎するとでも思っていたのだろうか。
「マ、マニエ!?俺の事を忘れたのか!薄情者、罪人の分際でなんて贅沢な暮らしをしているんだ!そこは広すぎるだろう、婚約者の俺が共に住んでやろう、今度こそ愛してやるぞ有難く思え!」
「なにを言ってるの気持ち悪い」
「んなぁ!?」
たしかにマニエの牢房は贅を尽くした貴族の館そのものに変貌していた。
だが元王子の罪は暴かれた後で、すでに彼女の冤罪は晴れている、どう生活していようがマニエの自由である。
牢獄生活が快適すぎて生家へ戻る気になれないだけだ。
「貴様!許さんぞ!王子に向かってその不敬な態度!」
「はぁ?頭がとうとう壊れたのね、いいえ最初から壊れてたわね。クスクス」
「なんだと!!!許さん!絶対に許さんぞ!父上に進言してすぐに処刑してくれる!」
勝手に怒り狂う河童ハゲの男をマニエは牢獄から汚物を見るような目を向ける、視界の端にすら映したくないとばかりに視線を逸らす。
「河童に知り合いはいないわ、看守さん、目障りな平民を追い出して頂戴」
「はい、ラグザント嬢様」
すっかり飼いならされた看守は、河童ことサンタアスを捕縛すると階段から突き落とす勢いで排除にあたった。
「ま、まて!俺を誰だと思っている!」
「ただの物乞い浮浪者だろ……」
河童より遥かに身綺麗な看守は嫌そうに薄汚いサンタアスを引っ張る。
「やめろぉ!俺は王子サンタアスだぁ!」
諦めの悪い男は暴れたが誰も相手にしない、それどころか侮蔑の視線を送り「弁えろ賤民」と罵倒の声が浴びせられた。
「自分を王子だなんて、気が触れているのだろう」「気持ち悪いヤツ」
つぎつぎと面会人達から嘲りの声が飛んできて元王子サンタアスは恥辱でいっぱいになり、怒鳴り返すこともままならないほど怒り狂った。
興奮し過ぎると理性が飛ぶのか、意味不明な言葉を列挙していた。
言葉にならない悪態をはいて彼は牢獄から追い出された。
「まったく、空気が悪くなったわ。きょうの面会は全て中止よ」
マニエはそう言うと鉄格子を壁に変えて閉じこもった、こうなると誰も手に負えない。
午後一で面会に来た現王ワイゼリアスは、頑ななマニエの態度に肩を落とした。
壁向こうに向かって言葉をかけたが反応はなく、やむなく出なおそうと階下へ戻った。
***
牢獄に引き籠ったマニエ令嬢を、どうにかせねばと焦って新王は巨大なデスクで項垂れる。
彼女がそこに居座ると、牢獄としての存在意義がぶれるので退去願いをしようとしたのだが失敗した。
愚弟サンタアスが余計な事をしたためだ。
「廃嫡してもなお王家に泥を塗るとはな……サンタアスよ、貴様は息している限り害悪だ、死をもって償って貰うぞ」
ワイゼリアス王は側近に目配せした、「御意」と短く返事したソレは素早く仕事に入る。
すっかり耄碌したと噂だったマニエの父ラグザント公が近く蟄居し、幼いランスが当主におさまると報せを聞いたところだ。彼が成人するまでは後見人として叔父が就くことになった。
「これはまぁ僥倖だ、マニエ嬢キミにとっても俺にとっても」
マニエ嬢を我が妃にと迎えたいとワイゼリアスは方々に手を回している。
母親が愚弟サンタアスを甘やかすが故にマニエは無理矢理に弟の婚約者に選ばれたのは不運だった。
王子として政務につけそうにない彼を優秀なマニエを娶らせようと画策したのだ。
結果は大失敗に終わったのだが。
彼女を見初めたのはデビュタントの夜会でだった。
マニエに懸想した第一王子の彼はすぐに婚約したいと望んだが、王妃の根回しでバカに掻っ攫われた。
あの日ほど惨めで憤怒に震えた日はないと今でも思うワイゼリアス。
「今度こそキミを迎え、世界一幸せにしてやりたい」
今夜も月影に青く聳え近くて遠い牢獄塔を、若き王は恋焦がれる眼差しを向けていた。
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