その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
16 / 49

解消

しおりを挟む
ド変態なロードリックの笑顔に怯えて、今度はアイリスがおかしくなっていた。
げっそりやつれた愛娘の様子に母ソルニエは気が気ではなかった。

「……はぁやはり馬があわないのかしら?」
なんとかロードリックを鍛錬して男に磨きを掛けさせたかった母心が、良くない方向にいっていることを危惧した。
先日招いた晩餐の席で、彼の挙動不審ぶりを目の当たりにして不安が募ったのだ。

「ねぇ、あなた。共同事業は両家にとって大切なのは理解していてよ。でも、アイリスの幸せを台無しにするほどの対価は得られるの?」

甚だ疑問だとソルニエは訴えた。
鬼隊長モードから淑女モードの我妻は淑やかで美しいと惚れ惚れしつつ侯爵は応える。

「うむ、確かにな……。緊張からかは知らんがアレの態度は気持ち悪い、物凄く!」
変態丸出しの笑い方は思い出しても気味が悪いと顔を顰めた。
貴族の婚姻は概ね政略ではあるが、相性というものがある。生涯を共にする伴侶がアレでは娘が哀れ過ぎると考えた。

「今一度デンゼルと相談してみよと思う、良い方へ譲歩できるよう動いてみるよ」
愛する妻の手を取りもう少し時間をくれと請う。

「あの子は16歳です、婚期を逃すようなことがあれば……わかってますね?アンリオ」
突如、鬼隊長の顔を覗かせる妻に青くなる夫は「早急に場を設けます!」と良い返事をかえした。


***

ソルニエによる愛の脅しから僅か2日で相談の場は設けられた。
「ずいぶん急だな、どうかしたのかい?近頃は食事も共にするほど距離が縮まったと息子から聞いていたがね」
「ロードリックからそんな報告を?いやいや……そんなバカな」

違うのかとデンゼルは首を傾ぐ。
「はぁ、良い方へ解釈しているようだがとんでもないぞ。娘はすっかり令息に怯えている、やつれてしまって可哀そうだ」

侯爵から真反対な言葉を聞いたデンゼル公爵は顔色を悪くした。
「……バカ息子の勝手な解釈だったのか」そう言って長い溜息を漏らす。

「恐らくだが我妻に食事を誘われたのを上手くいっていると勘違いしたのだろうな。あの日の晩餐の様子をキミに見せたいよ、まるで変態な……気持ち悪い笑顔に一家でドン引きしたぞ」
「へ、変態……」

それを聞いたデンゼルは頭を抱えた、そういえば近頃は侍従達が「坊ちゃんの様子がおかしい」と噂していたのを思い出した。
時折、鏡に向かって気色の悪い笑みを浮かべて「ぐへぐへ」笑うと……。

「アンリオ、すまない。我が子可愛さに保留などとしたばかりに、貴殿の息女の気持ちを蔑ろにしてしまった」
「わかってくれたらそれで良い、遺恨なく解消で良いかね?」

了解したと力なくデンゼル公爵は同意した。
共同事業については、これまで通り変わらず続けるという念書を互い交わしこの日は解散した。





「婚約快勝ですか?」すっとぼけた息子の頭をぺチンと叩き公爵は言う。

「違う解消だ、アイリス嬢を解放してあげなさい。お前には合わないのだ」
「そんな!俺は彼女を愛しているんですよ!」

言い募る息子にデンゼルは諭すように語る。
「相性というものはどうしようもない、彼女はすっかりお前に怯えてやつれているのだ可哀そうだろう?愛があるなら諦めるのも彼女のためだ。これは決定だ覆らん!」

父の無慈悲な言葉にロードリックは頽れてしまう。
「いやだ……いやだいやだ!解消したら彼女は違う男と婚姻するということでしょう!?そんなこと許されない!耐えられない!いやだ!いやだ!いやだー!」

ロードリックは喚き散らしながら父の書斎から飛び出した。
公爵は慌てて追いかけるも愚息は素早く馬を駆り侯爵邸へ向かってしまう。

「愚か者が……」
公は執事を呼ぶと大急ぎで先触れを出させた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皇帝の命令で、側室となった私の運命

佐藤 美奈
恋愛
フリード皇太子との密会の後、去り行くアイラ令嬢をアーノルド皇帝陛下が一目見て見初められた。そして、その日のうちに側室として召し上げられた。フリード皇太子とアイラ公爵令嬢は幼馴染で婚約をしている。 自分の婚約者を取られたフリードは、アーノルドに抗議をした。 「父上には数多くの側室がいるのに、息子の婚約者にまで手を出すつもりですか!」 「美しいアイラが気に入った。息子でも渡したくない。我が皇帝である限り、何もかもは我のものだ!」 その言葉に、フリードは言葉を失った。立ち尽くし、その無慈悲さに心を打ちひしがれた。 魔法、ファンタジー、異世界要素もあるかもしれません。

初恋にケリをつけたい

志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」  そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。 「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」  初恋とケリをつけたい男女の話。 ☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

彼女よりも幼馴染を溺愛して優先の彼と結婚するか悩む

佐藤 美奈
恋愛
公爵家の広大な庭園。その奥まった一角に佇む白いガゼボで、私はひとり思い悩んでいた。 私の名はニーナ・フォン・ローゼンベルク。名門ローゼンベルク家の令嬢として、若き騎士アンドレ・フォン・ヴァルシュタインとの婚約がすでに決まっている。けれど、その婚約に心からの喜びを感じることができずにいた。 理由はただ一つ。彼の幼馴染であるキャンディ・フォン・リエーヌ子爵令嬢の存在。 アンドレは、彼女がすべてであるかのように振る舞い、いついかなる時も彼女の望みを最優先にする。婚約者である私の気持ちなど、まるで見えていないかのように。 そして、アンドレはようやく自分の至らなさに気づくこととなった。 失われたニーナの心を取り戻すため、彼は様々なイベントであらゆる方法を試みることを決意する。その思いは、ただ一つ、彼女の笑顔を再び見ることに他ならなかった。

幼馴染と夫の衝撃告白に号泣「僕たちは愛し合っている」王子兄弟の関係に私の入る隙間がない!

佐藤 美奈
恋愛
「僕たちは愛し合っているんだ!」 突然、夫に言われた。アメリアは第一子を出産したばかりなのに……。 アメリア公爵令嬢はレオナルド王太子と結婚して、アメリアは王太子妃になった。 アメリアの幼馴染のウィリアム。アメリアの夫はレオナルド。二人は兄弟王子。 二人は、仲が良い兄弟だと思っていたけど予想以上だった。二人の親密さに、私は入る隙間がなさそうだと思っていたら本当になかったなんて……。

天然と言えば何でも許されると思っていませんか

今川幸乃
恋愛
ソフィアの婚約者、アルバートはクラスの天然女子セラフィナのことばかり気にしている。 アルバートはいつも転んだセラフィナを助けたり宿題を忘れたら見せてあげたりとセラフィナのために行動していた。 ソフィアがそれとなくやめて欲しいと言っても、「困っているクラスメイトを助けるのは当然だ」と言って聞かず、挙句「そんなことを言うなんてがっかりだ」などと言い出す。 あまり言い過ぎると自分が悪女のようになってしまうと思ったソフィアはずっともやもやを抱えていたが、同じくクラスメイトのマクシミリアンという男子が相談に乗ってくれる。 そんな時、ソフィアはたまたまセラフィナの天然が擬態であることを発見してしまい、マクシミリアンとともにそれを指摘するが……

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

処理中です...