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王子の訪問
あれからアイリスと言えば、体調を回復したこともあり暇と元気を持て余していた。
しかし外出は厳禁とされていたので、屋敷の中庭で汗を流すのが日課になっていた。
新に雇ったヒャッハー達と手合わせに余念がない。
護衛が根をあげるまで鍛錬という名の仕合は続く。
「こら!手を抜かない!あなた今死んだわよ!」
「ひぃ!勘弁してくださいよ」
背後を取られ、首裏に刃のない槍を当てられたモヒカンBが降参したところで休憩にした。
「仕方ないわね、30分後に全員ランニング50周よ、わかった?」
「「「「「アイマム!」」」」」
ここであれば部外者は侵入できないし、ここへ辿り着くまえに侯爵家私兵に捕縛されるだろう。
万が一それを許したとてロードリックはアイリスに勝てない。
「ふ、襲ったとしたら、それがあの方の命日よ」
家人たちがいくらロードリックの奇行と偏愛ぶり隠蔽したとて、アイリスが気付かないわけがなかった。
さすがに呪いの手紙だけは読ませなかったが、都合の良いことを列挙しているだろうとアイリスは予想している。
「手紙が何通こようが気にしないのに、だって読まないもの」
当人は意外とケロリとしていた、直接攻撃されたわけでもないし当然の反応といえる。
ランニングの最中にメイドがアイリスを呼び止めた。
客人が来たという報せだった、しかし先触れはない。
「誰が来たの?まさか公爵かしら?」
「いいえ、ウィルフレッド様の御友人です。茶の席に参加されるようにと託けです」
「まぁ兄様が」
面倒だが仕方ないと湯浴みをして簡単に仕度を済ませサロンへ向かう。
「遅くなりました、鍛錬中でしたので」
「あぁ、急にごめんよアイリス。かつて学友だったセインを紹介したくてね」
兄ウィルが紹介したのは長い足を組んで微笑む美丈夫だった。
「王子殿下!?」
「いいよ、畏まらないで公式の場じゃないんだから」
慌てて礼をとろうとしたアイリスを止めた王子はニコニコと彼女を迎い入れた。
「兄さま!お人が悪い!」
「ごめんて、久しぶりに君に会いたいとセインがきかないから」
化粧もロクにせずに軽装で現れてしまった自分を恥じて、アイリスは真っ赤になる。
「そう、兄様。仕方なかったのね……?では私からの我儘も聞いてください。明日の鍛錬は朝5時からです、是非ご参加くださいね?」
「……え」
「ご・参・加・く・だ・さ・い」
母ソルニエとよく似た怖い笑顔の彼女に兄は同意するほかなかった。
それを見ていた王子は笑いのツボを刺激されたらしく腹を抱えて笑い出した。
「アーハハハッウィルの顔ときたら!クハハハ来た甲斐があったよブッフー!」
美しい顔をしわくちゃにして、涙を流し笑う王子にアイリスは吃驚する。
夜会で見せるクールな王子と真反対な様子に目を瞬かせる。
「セインミュルド様ってこんな方でしたか?」
***
「え、歌劇ですか?なぜ私と……」
「私とでは嫌ですか、レディ」
急にどうしたとアイリスの頭上に?が無数に浮かぶ。誘われる覚えがまったくないからだ。
夜会で会っても軽く挨拶を交わすだけだった。
それにセイン王子は女性と浮名を流すような軽い人でもない、クールで生真面目それが世間の評価だ。
「ふふ、私が出資した新興歌劇団なんですよ。ぜひ若い女性の反応が見たくてね、どうですか?」
「まぁ、そうでしたの。そういうことでしたら同席してしっかり見させていただきます」
ずっと籠の鳥だったアイリスは外出のきっかけに喜んで飛びついた。
王子の誘いを断れとはさすがの両親も言えないだろうと踏んだのだ。
お互い利用するのだから問題ないだろうとアイリスは乗った。
なにより他の男性と違って、柔らかな物腰のこの人は大丈夫と彼女の心を解した。
いつ何時も命令口調の貴族男性が苦手だったアイリスには新鮮な殿方に映ったのだ。
「とても楽しみです、それで歌劇はいつでしょうか?」
「うん、今夜6時」
「こんや!?」
誘うのもいきなりだがまさか今夜、時計を見れば3時間くらいしかない。
「お待ちください、いくらなんでも」
「ええ……駄目でしょうか?」
縋るような顔をする王子の美しい顔に捕らわれてしまったアイリスは、僅かに頬を染めて頷くしかなかった。
「おーい、ボクのこと忘れてないか?」
すっかり生ぬるくなった冷茶をウィルは苦い顔であおった。
しかし外出は厳禁とされていたので、屋敷の中庭で汗を流すのが日課になっていた。
新に雇ったヒャッハー達と手合わせに余念がない。
護衛が根をあげるまで鍛錬という名の仕合は続く。
「こら!手を抜かない!あなた今死んだわよ!」
「ひぃ!勘弁してくださいよ」
背後を取られ、首裏に刃のない槍を当てられたモヒカンBが降参したところで休憩にした。
「仕方ないわね、30分後に全員ランニング50周よ、わかった?」
「「「「「アイマム!」」」」」
ここであれば部外者は侵入できないし、ここへ辿り着くまえに侯爵家私兵に捕縛されるだろう。
万が一それを許したとてロードリックはアイリスに勝てない。
「ふ、襲ったとしたら、それがあの方の命日よ」
家人たちがいくらロードリックの奇行と偏愛ぶり隠蔽したとて、アイリスが気付かないわけがなかった。
さすがに呪いの手紙だけは読ませなかったが、都合の良いことを列挙しているだろうとアイリスは予想している。
「手紙が何通こようが気にしないのに、だって読まないもの」
当人は意外とケロリとしていた、直接攻撃されたわけでもないし当然の反応といえる。
ランニングの最中にメイドがアイリスを呼び止めた。
客人が来たという報せだった、しかし先触れはない。
「誰が来たの?まさか公爵かしら?」
「いいえ、ウィルフレッド様の御友人です。茶の席に参加されるようにと託けです」
「まぁ兄様が」
面倒だが仕方ないと湯浴みをして簡単に仕度を済ませサロンへ向かう。
「遅くなりました、鍛錬中でしたので」
「あぁ、急にごめんよアイリス。かつて学友だったセインを紹介したくてね」
兄ウィルが紹介したのは長い足を組んで微笑む美丈夫だった。
「王子殿下!?」
「いいよ、畏まらないで公式の場じゃないんだから」
慌てて礼をとろうとしたアイリスを止めた王子はニコニコと彼女を迎い入れた。
「兄さま!お人が悪い!」
「ごめんて、久しぶりに君に会いたいとセインがきかないから」
化粧もロクにせずに軽装で現れてしまった自分を恥じて、アイリスは真っ赤になる。
「そう、兄様。仕方なかったのね……?では私からの我儘も聞いてください。明日の鍛錬は朝5時からです、是非ご参加くださいね?」
「……え」
「ご・参・加・く・だ・さ・い」
母ソルニエとよく似た怖い笑顔の彼女に兄は同意するほかなかった。
それを見ていた王子は笑いのツボを刺激されたらしく腹を抱えて笑い出した。
「アーハハハッウィルの顔ときたら!クハハハ来た甲斐があったよブッフー!」
美しい顔をしわくちゃにして、涙を流し笑う王子にアイリスは吃驚する。
夜会で見せるクールな王子と真反対な様子に目を瞬かせる。
「セインミュルド様ってこんな方でしたか?」
***
「え、歌劇ですか?なぜ私と……」
「私とでは嫌ですか、レディ」
急にどうしたとアイリスの頭上に?が無数に浮かぶ。誘われる覚えがまったくないからだ。
夜会で会っても軽く挨拶を交わすだけだった。
それにセイン王子は女性と浮名を流すような軽い人でもない、クールで生真面目それが世間の評価だ。
「ふふ、私が出資した新興歌劇団なんですよ。ぜひ若い女性の反応が見たくてね、どうですか?」
「まぁ、そうでしたの。そういうことでしたら同席してしっかり見させていただきます」
ずっと籠の鳥だったアイリスは外出のきっかけに喜んで飛びついた。
王子の誘いを断れとはさすがの両親も言えないだろうと踏んだのだ。
お互い利用するのだから問題ないだろうとアイリスは乗った。
なにより他の男性と違って、柔らかな物腰のこの人は大丈夫と彼女の心を解した。
いつ何時も命令口調の貴族男性が苦手だったアイリスには新鮮な殿方に映ったのだ。
「とても楽しみです、それで歌劇はいつでしょうか?」
「うん、今夜6時」
「こんや!?」
誘うのもいきなりだがまさか今夜、時計を見れば3時間くらいしかない。
「お待ちください、いくらなんでも」
「ええ……駄目でしょうか?」
縋るような顔をする王子の美しい顔に捕らわれてしまったアイリスは、僅かに頬を染めて頷くしかなかった。
「おーい、ボクのこと忘れてないか?」
すっかり生ぬるくなった冷茶をウィルは苦い顔であおった。
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