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でぇと?
外出まで3時間弱、侍女総動員でアイリスの支度にとりかかった。
幸い湯浴みの直後だったのでアロマオイルマッサージからはじまった。
「いたたたっ!もうちょっと優しくできない?」
「申し訳ありません、浮腫みが酷いようです」
そう言われてしまってアイリスは文句を飲み込むしかない、ここ最近は美容より鍛錬ばかりだった己が悪いと反省した。
野菜の塩もみの如く体を解されたアイリスは、血流が良くなりフワフワしていた。
「凄いわ、体が軽いし一回り細くなった気がする」
その言葉に侍女たちは満足そうに微笑む。
「マッサージをすると筋肉の余計な緊張がほぐれるのでフワフワするのです」
「まぁそうなの、とても気持ち良いわ。ありがとう」
最後に頭部のマッサージを受けて、御髪の手入れを始める。
ハーフアップか下ろすかで侍女たちは議論している、時間がないので生花は諦めましょうと声が飛ぶ。
解されまくったアイリスは目がトロンとして転寝をはじめていた。
「お嬢様、メイクができません。起きて下さいませ」
「……あ、ごめんね。鍛錬の疲れが出たみたい」
半開きの口から涎が垂れかかっていた、慌てて手巾で拭えば侍女のルルがクスクス笑う。
「え、えへへ」
「久しぶりの殿方とデートですもの、気合いれて下さいな」
「でぇと?歌劇を観に行くだけよ、感想を聞きたいんですって」
主の乙女心の欠如に密かに嘆く侍女ルルだった。
***
アイリスの支度の間、王子は兄ウィルフレッドとボードゲームを楽しんでいた。
「セインどういうつもりなの?」
「ん?つぎのコマは2回休みだね」
ゲームの話じゃねーよ!とウィルは怒る。
「まーまー、協力すると言った通り行動してるんだよ。ほらキミの番だぞ」
サイコロを渡してくる王子にウィルは口をへの字に曲げて不満を見せる。
そこへ着飾ったアイリスがサロンへ戻ってきた。
「お待たせいたしました、お時間はだいじょうでしょうか?」
「やぁ、見違えたね。素顔も愛らしいが妖精から女神に転身したかのようだよ」
セイン王子が大袈裟に褒め称えるので、アイリスは少々後退して苦笑いを返す。
「その態度はつれないなぁ」
「いえあの……胡散臭いと……思ってないです、ハイ。アリガトウ ゴザイマス」
後半の言葉が棒読みになったアイリスに王子はゲラゲラと笑う。
それを見つめる兄妹の目は死んでいた。
開演まで50分となった時、王子のエスコートを受けて馬車へ乗り込んだ。
「夕飯時の演目だからね、軽食代わりにお菓子をどうぞ」
王子がシートに備えていたボックスからクッキーの箱を取り出し薦めてくる。
「まあ良かった!観劇中オナカが鳴ったらどうしようと思ってましたの」
それを聞いた王子は爆笑してシートをバンバン叩いた。
彼の笑い上戸を忘れていたアイリスは羞恥に赤くなり、同乗した従者二人は白目を剥く。
「んんんっ!綺麗なクッキーですね、花と兎かしら」アイリスは必死に話題を変える。
「アイシングクッキーというらしいよ、王都のカフェで買って来たんだ、プクク……ごめん」
アイリスは遠慮せず手を伸ばそうとしたが、王子が先に兎形をつまみ「あーん」をしてきた。
驚いて固まる彼女に王子は食べるように促す。唇に押し付けられ止む無く口を開く。
「はぐ……んぐ!」
「美味しい?」
手ずから食べさせられたアイリスは混乱して味がわからない。
王子は顔を真っ赤に染める少女の様子を満足げに眺め、自分もクッキーを食んだ。
一緒に乗り込んでいた従者達は視線をどこにしたらわからず、気まずそうに窓に向けている。到着した頃は彼らの首筋はひどい痛みに襲われるだろう。
――30分後
馬車が平民街で停車して、凝り固まった肩を悟られない程度ゴリゴリしてアイリスは降り立つ。
手を添えてくれた王子に会釈して目の前に建つ劇場を見上げた。
貴族街の大劇場とは違い、こじんまりした劇場だった。しかし外観がとても美しく品の良いセンスが伺える。
「素敵ですね、ホールはどんなかしら?」
「気に入りましたか?デザインは母と私で考えたのですよ」
王妃様までも後援していると聞いてアイリスは感嘆の声を出した。
通りで盛況なはずだと列をなすチケット売り場に目を瞠る。宣伝看板には3日間連続公演とある、初日完売になるだろうと予想がつく。
ホールへ入り指定席に着くと席はほぼ埋まっていた。
またも驚くアイリスに王子は苦笑する。
「それなりに宣伝してるから、問題は今後かな。面白くなければ客足は減るでしょうね」
「そんな御謙遜、王族が後援するくらいですもの素晴らしい演者が揃っているのでしょ?」
そんな会話を交わして数分後、フッと照明が落とされ薄暗くなる。
静かなバイオリンの音色が鳴り歌劇がはじまった。
***
観劇後、王子に誘われてレストランへ向かったアイリス。
食事はとても美味しく、酒も入って彼女はいつもより弁舌滑らかだった。
「とてもとても素敵でした!響き渡る女性の歌声に鳥肌がたちましたわ!それから恋焦がれる男女の悲劇の歌詞が切なくて心を打たれました」
うっとりと感想を述べるアイリスに王子は誘って良かった微笑む。
「アイリス嬢、キミと距離を縮めたいと思っています。リィと呼ぶことを許していただけないかな?」
「まぁ……私など烏滸がましいです」
そんなことはないと王子は引き下がらない、友人以上の関係になりたいと彼は言い募りセインと呼んで欲しいと請う。友人以上の意味が良くわからないアイリスだったが、王子の懇願を撥ね退けもできない。
「よ、よろしくお願いします。セイン殿下」
「殿下は要らないんだけどなぁ……」
美しい眉をハの字に下げる王子に、乾いた笑い声を返すので精一杯のアイリスである。
幸い湯浴みの直後だったのでアロマオイルマッサージからはじまった。
「いたたたっ!もうちょっと優しくできない?」
「申し訳ありません、浮腫みが酷いようです」
そう言われてしまってアイリスは文句を飲み込むしかない、ここ最近は美容より鍛錬ばかりだった己が悪いと反省した。
野菜の塩もみの如く体を解されたアイリスは、血流が良くなりフワフワしていた。
「凄いわ、体が軽いし一回り細くなった気がする」
その言葉に侍女たちは満足そうに微笑む。
「マッサージをすると筋肉の余計な緊張がほぐれるのでフワフワするのです」
「まぁそうなの、とても気持ち良いわ。ありがとう」
最後に頭部のマッサージを受けて、御髪の手入れを始める。
ハーフアップか下ろすかで侍女たちは議論している、時間がないので生花は諦めましょうと声が飛ぶ。
解されまくったアイリスは目がトロンとして転寝をはじめていた。
「お嬢様、メイクができません。起きて下さいませ」
「……あ、ごめんね。鍛錬の疲れが出たみたい」
半開きの口から涎が垂れかかっていた、慌てて手巾で拭えば侍女のルルがクスクス笑う。
「え、えへへ」
「久しぶりの殿方とデートですもの、気合いれて下さいな」
「でぇと?歌劇を観に行くだけよ、感想を聞きたいんですって」
主の乙女心の欠如に密かに嘆く侍女ルルだった。
***
アイリスの支度の間、王子は兄ウィルフレッドとボードゲームを楽しんでいた。
「セインどういうつもりなの?」
「ん?つぎのコマは2回休みだね」
ゲームの話じゃねーよ!とウィルは怒る。
「まーまー、協力すると言った通り行動してるんだよ。ほらキミの番だぞ」
サイコロを渡してくる王子にウィルは口をへの字に曲げて不満を見せる。
そこへ着飾ったアイリスがサロンへ戻ってきた。
「お待たせいたしました、お時間はだいじょうでしょうか?」
「やぁ、見違えたね。素顔も愛らしいが妖精から女神に転身したかのようだよ」
セイン王子が大袈裟に褒め称えるので、アイリスは少々後退して苦笑いを返す。
「その態度はつれないなぁ」
「いえあの……胡散臭いと……思ってないです、ハイ。アリガトウ ゴザイマス」
後半の言葉が棒読みになったアイリスに王子はゲラゲラと笑う。
それを見つめる兄妹の目は死んでいた。
開演まで50分となった時、王子のエスコートを受けて馬車へ乗り込んだ。
「夕飯時の演目だからね、軽食代わりにお菓子をどうぞ」
王子がシートに備えていたボックスからクッキーの箱を取り出し薦めてくる。
「まあ良かった!観劇中オナカが鳴ったらどうしようと思ってましたの」
それを聞いた王子は爆笑してシートをバンバン叩いた。
彼の笑い上戸を忘れていたアイリスは羞恥に赤くなり、同乗した従者二人は白目を剥く。
「んんんっ!綺麗なクッキーですね、花と兎かしら」アイリスは必死に話題を変える。
「アイシングクッキーというらしいよ、王都のカフェで買って来たんだ、プクク……ごめん」
アイリスは遠慮せず手を伸ばそうとしたが、王子が先に兎形をつまみ「あーん」をしてきた。
驚いて固まる彼女に王子は食べるように促す。唇に押し付けられ止む無く口を開く。
「はぐ……んぐ!」
「美味しい?」
手ずから食べさせられたアイリスは混乱して味がわからない。
王子は顔を真っ赤に染める少女の様子を満足げに眺め、自分もクッキーを食んだ。
一緒に乗り込んでいた従者達は視線をどこにしたらわからず、気まずそうに窓に向けている。到着した頃は彼らの首筋はひどい痛みに襲われるだろう。
――30分後
馬車が平民街で停車して、凝り固まった肩を悟られない程度ゴリゴリしてアイリスは降り立つ。
手を添えてくれた王子に会釈して目の前に建つ劇場を見上げた。
貴族街の大劇場とは違い、こじんまりした劇場だった。しかし外観がとても美しく品の良いセンスが伺える。
「素敵ですね、ホールはどんなかしら?」
「気に入りましたか?デザインは母と私で考えたのですよ」
王妃様までも後援していると聞いてアイリスは感嘆の声を出した。
通りで盛況なはずだと列をなすチケット売り場に目を瞠る。宣伝看板には3日間連続公演とある、初日完売になるだろうと予想がつく。
ホールへ入り指定席に着くと席はほぼ埋まっていた。
またも驚くアイリスに王子は苦笑する。
「それなりに宣伝してるから、問題は今後かな。面白くなければ客足は減るでしょうね」
「そんな御謙遜、王族が後援するくらいですもの素晴らしい演者が揃っているのでしょ?」
そんな会話を交わして数分後、フッと照明が落とされ薄暗くなる。
静かなバイオリンの音色が鳴り歌劇がはじまった。
***
観劇後、王子に誘われてレストランへ向かったアイリス。
食事はとても美味しく、酒も入って彼女はいつもより弁舌滑らかだった。
「とてもとても素敵でした!響き渡る女性の歌声に鳥肌がたちましたわ!それから恋焦がれる男女の悲劇の歌詞が切なくて心を打たれました」
うっとりと感想を述べるアイリスに王子は誘って良かった微笑む。
「アイリス嬢、キミと距離を縮めたいと思っています。リィと呼ぶことを許していただけないかな?」
「まぁ……私など烏滸がましいです」
そんなことはないと王子は引き下がらない、友人以上の関係になりたいと彼は言い募りセインと呼んで欲しいと請う。友人以上の意味が良くわからないアイリスだったが、王子の懇願を撥ね退けもできない。
「よ、よろしくお願いします。セイン殿下」
「殿下は要らないんだけどなぁ……」
美しい眉をハの字に下げる王子に、乾いた笑い声を返すので精一杯のアイリスである。
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