その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
23 / 49

でぇと?

外出まで3時間弱、侍女総動員でアイリスの支度にとりかかった。
幸い湯浴みの直後だったのでアロマオイルマッサージからはじまった。

「いたたたっ!もうちょっと優しくできない?」
「申し訳ありません、浮腫みが酷いようです」

そう言われてしまってアイリスは文句を飲み込むしかない、ここ最近は美容より鍛錬ばかりだった己が悪いと反省した。

野菜の塩もみの如く体を解されたアイリスは、血流が良くなりフワフワしていた。
「凄いわ、体が軽いし一回り細くなった気がする」
その言葉に侍女たちは満足そうに微笑む。

「マッサージをすると筋肉の余計な緊張がほぐれるのでフワフワするのです」
「まぁそうなの、とても気持ち良いわ。ありがとう」

最後に頭部のマッサージを受けて、御髪の手入れを始める。
ハーフアップか下ろすかで侍女たちは議論している、時間がないので生花は諦めましょうと声が飛ぶ。

解されまくったアイリスは目がトロンとして転寝をはじめていた。
「お嬢様、メイクができません。起きて下さいませ」
「……あ、ごめんね。鍛錬の疲れが出たみたい」

半開きの口から涎が垂れかかっていた、慌てて手巾で拭えば侍女のルルがクスクス笑う。
「え、えへへ」
「久しぶりの殿方とデートですもの、気合いれて下さいな」
「でぇと?歌劇を観に行くだけよ、感想を聞きたいんですって」

主の乙女心の欠如に密かに嘆く侍女ルルだった。

***

アイリスの支度の間、王子は兄ウィルフレッドとボードゲームを楽しんでいた。
「セインどういうつもりなの?」
「ん?つぎのコマは2回休みだね」

ゲームの話じゃねーよ!とウィルは怒る。
「まーまー、協力すると言った通り行動してるんだよ。ほらキミの番だぞ」
サイコロを渡してくる王子にウィルは口をへの字に曲げて不満を見せる。

そこへ着飾ったアイリスがサロンへ戻ってきた。
「お待たせいたしました、お時間はだいじょうでしょうか?」
「やぁ、見違えたね。素顔も愛らしいが妖精から女神に転身したかのようだよ」

セイン王子が大袈裟に褒め称えるので、アイリスは少々後退して苦笑いを返す。
「その態度はつれないなぁ」
「いえあの……胡散臭いと……思ってないです、ハイ。アリガトウ ゴザイマス」

後半の言葉が棒読みになったアイリスに王子はゲラゲラと笑う。
それを見つめる兄妹の目は死んでいた。


開演まで50分となった時、王子のエスコートを受けて馬車へ乗り込んだ。
「夕飯時の演目だからね、軽食代わりにお菓子をどうぞ」
王子がシートに備えていたボックスからクッキーの箱を取り出し薦めてくる。

「まあ良かった!観劇中オナカが鳴ったらどうしようと思ってましたの」
それを聞いた王子は爆笑してシートをバンバン叩いた。
彼の笑い上戸を忘れていたアイリスは羞恥に赤くなり、同乗した従者二人は白目を剥く。


「んんんっ!綺麗なクッキーですね、花と兎かしら」アイリスは必死に話題を変える。
「アイシングクッキーというらしいよ、王都のカフェで買って来たんだ、プクク……ごめん」

アイリスは遠慮せず手を伸ばそうとしたが、王子が先に兎形をつまみ「あーん」をしてきた。
驚いて固まる彼女に王子は食べるように促す。唇に押し付けられ止む無く口を開く。

「はぐ……んぐ!」
「美味しい?」

手ずから食べさせられたアイリスは混乱して味がわからない。
王子は顔を真っ赤に染める少女の様子を満足げに眺め、自分もクッキーを食んだ。

一緒に乗り込んでいた従者達は視線をどこにしたらわからず、気まずそうに窓に向けている。到着した頃は彼らの首筋はひどい痛みに襲われるだろう。


――30分後
馬車が平民街で停車して、凝り固まった肩を悟られない程度ゴリゴリしてアイリスは降り立つ。
手を添えてくれた王子に会釈して目の前に建つ劇場を見上げた。

貴族街の大劇場とは違い、こじんまりした劇場だった。しかし外観がとても美しく品の良いセンスが伺える。
「素敵ですね、ホールはどんなかしら?」
「気に入りましたか?デザインは母と私で考えたのですよ」


王妃様までも後援していると聞いてアイリスは感嘆の声を出した。
通りで盛況なはずだと列をなすチケット売り場に目を瞠る。宣伝看板には3日間連続公演とある、初日完売になるだろうと予想がつく。

ホールへ入り指定席に着くと席はほぼ埋まっていた。
またも驚くアイリスに王子は苦笑する。

「それなりに宣伝してるから、問題は今後かな。面白くなければ客足は減るでしょうね」
「そんな御謙遜、王族が後援するくらいですもの素晴らしい演者が揃っているのでしょ?」
そんな会話を交わして数分後、フッと照明が落とされ薄暗くなる。

静かなバイオリンの音色が鳴り歌劇がはじまった。


***
観劇後、王子に誘われてレストランへ向かったアイリス。
食事はとても美味しく、酒も入って彼女はいつもより弁舌滑らかだった。

「とてもとても素敵でした!響き渡る女性の歌声に鳥肌がたちましたわ!それから恋焦がれる男女の悲劇の歌詞が切なくて心を打たれました」
うっとりと感想を述べるアイリスに王子は誘って良かった微笑む。

「アイリス嬢、キミと距離を縮めたいと思っています。リィと呼ぶことを許していただけないかな?」
「まぁ……私など烏滸がましいです」

そんなことはないと王子は引き下がらない、友人以上の関係になりたいと彼は言い募りセインと呼んで欲しいと請う。友人以上の意味が良くわからないアイリスだったが、王子の懇願を撥ね退けもできない。

「よ、よろしくお願いします。セイン殿下」
「殿下は要らないんだけどなぁ……」

美しい眉をハの字に下げる王子に、乾いた笑い声を返すので精一杯のアイリスである。

あなたにおすすめの小説

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

「女友達と旅行に行っただけで別れると言われた」僕が何したの?理由がわからない弟が泣きながら相談してきた。

佐藤 美奈
恋愛
「アリス姉さん助けてくれ!女友達と旅行に行っただけなのに婚約しているフローラに別れると言われたんだ!」 弟のハリーが泣きながら訪問して来た。姉のアリス王妃は突然来たハリーに驚きながら、夫の若き国王マイケルと話を聞いた。 結婚して平和な生活を送っていた新婚夫婦にハリーは涙を流して理由を話した。ハリーは侯爵家の長男で伯爵家のフローラ令嬢と婚約をしている。 それなのに婚約破棄して別れるとはどういう事なのか?詳しく話を聞いてみると、ハリーの返答に姉夫婦は呆れてしまった。 非常に頭の悪い弟が常識的な姉夫婦に相談して婚約者の彼女と話し合うが……

「君の作った料理は愛情がこもってない」と言われたのでもう何も作りません

今川幸乃
恋愛
貧乏貴族の娘、エレンは幼いころから自分で家事をして育ったため、料理が得意だった。 そのため婚約者のウィルにも手づから料理を作るのだが、彼は「おいしいけど心が籠ってない」と言い、挙句妹のシエラが作った料理を「おいしい」と好んで食べている。 それでも我慢してウィルの好みの料理を作ろうとするエレンだったがある日「料理どころか君からも愛情を感じない」と言われてしまい、もう彼の気を惹こうとするのをやめることを決意する。 ウィルはそれでもシエラがいるからと気にしなかったが、やがてシエラの料理作りをもエレンが手伝っていたからこそうまくいっていたということが分かってしまう。

私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた

まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

いくつもの、最期の願い

しゃーりん
恋愛
エステルは出産後からずっと体調を崩したままベッドで過ごしていた。 夫アイザックとは政略結婚で、仲は良くも悪くもない。 そんなアイザックが屋敷で働き始めた侍女メイディアの名を口にして微笑んだ時、エステルは閃いた。 メイディアをアイザックの後妻にしよう、と。 死期の迫ったエステルの願いにアイザックたちは応えるのか、なぜエステルが生前からそれを願ったかという理由はエステルの実妹デボラに関係があるというお話です。

お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです

・めぐめぐ・
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。 さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。 しかしナディアは全く気にしていなかった。 何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから―― 偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。 ※頭からっぽで ※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。 ※夫婦仲は良いです ※私がイメージするサバ女子です(笑) ※第18回恋愛小説大賞で奨励賞頂きました! 応援いただいた皆さま、お読みいただいた皆さま、ありがとうございました♪