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優しい時間
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マクシミリアン第三王子と婚約を結ぶことを決意したプリシラは早速と家族に相談を持ち掛ける。
サロンへ集まった家族の顔は悲喜こもごもという印象だ。
父親は嫁に出ようとする愛娘に泣き崩れ、母親は大喜びで小躍りしそうな勢い。彼女を心配して見守って来た兄は安堵の表情で頷く。
「一時はどうなるかと、クランに懸想してた時期は見てられなかったからな」
そう言うのは年の離れた兄アーリンである、近頃は友人クランについて不審に思うことが多々見受けられてハラハラしていたそうだ。
「えっと……その節は色々とご迷惑をかけてごめんなさい兄様。私は幼過ぎたのです」
素直に謝罪の言葉を紡ぐ妹に兄は目を細めて「幸せになるんだぞ」と言って彼女の頭を撫でるのだった。
「プリ、良い方に見初められたわね。母として鼻が高いわ、殿下は少し変わった所があるらしいけど、お人柄は最高と聞いていてよ」
「はい、お母様。いまは愛はわかりませんが殿下の為に良い妻になるよう学びたく存じます」
しっかりした返答をする娘に大きくなったものだと感慨深そうに頷く母だ。
そして、滂沱に涙を流して椅子に沈んでいた父親が口を開く。
「私の可愛いプリちゃんが……よ、嫁にぃ~寂しいぞ悲しいぞ!あぁぁ神は無慈悲だぁ!」
「お、お父様。落ち着いて」
泣き喚きだした父を持て余すプリシラはどうしたものかとアワアワする。
「まぁ、貴方みっともない!結婚は二年後ですのよ、いまから嘆いてどうしますの」
「ぶわっ……だってえ純粋無垢な天使のプリちゃんが人妻になって家をでちゃうんだぞ!二年なんてあっと言う間じゃないくぁ!」
その無様な父の姿を見かねたアーリンは「”ないくぁ”じゃないですよ、いい加減にしてください。職場の連中に泣き顔写真をばら撒きますよ」と脅すのだ。
「え!?お前それは酷いぞ!防衛省長官としての威厳が!」
「だったらグチャグチャの顔をどうにかしてよ、鼻水が床に垂れてきったないなぁ」
アーリンは汚物を見るような目を向けて手巾を口元に当てて侮蔑した。これにはさすがに我に返った侯爵はズビズビと鼻を噛み「すまなかった」と取り乱したことを謝る。
「お父様、ご心配ありがとう。でも大丈夫、お城に嫁ぐのならばいつでも会う機会はありますわ」
「おお!そうかそうだったな!プリちゃんは賢いな、さすが私の娘!」
時間さえ作れば毎日娘に会えると踏んだらしい父は途端にウキウキしたのである、泣いたカラスがなんちゃらである。
「単純が過ぎるわ、まったく」夫人はその夫の豹変ぶりに呆れるしかない。
***
「え?お城に住み続けるわけではないのですか」
お見合いから十日後、正式に婚約者になった二人は城の庭園でお茶を楽しんでいる。その席で今後のことを話し合う中に住まいについてのことが出たところだ。
「うん、私は政務をこなしつつ植物学も学び研究をしたいんだ。いずれ植物園を造ったらそちらに近い場所へ家を建てて住みたい、それに遊学する予定も立てているのさ」
「遊学……」
それは他国を渡り歩くという意味だ、プリシラは婚約したばかりなのに距離を取られたような気分に陥り悲しくなった。
「そうでしたか、どうかご無事でお戻りくださいね」
健気に笑ってそういう彼女に王子は小首を傾げ「なに言ってるの?」と言った。
「キミも一緒に周るんだよ、遊学は結婚後にするんだから」
「ええ!?ご一緒して宜しいのですか?」
自分も他国へ旅に出られると知ったプリシラは頬を紅潮させて、まだ見ぬ異国に想いを馳せた。
「なんて素敵!あぁいまから楽しみですわ」
「はは、気が早いよ。でも喜んでくれて嬉しいよ、私は片時もキミから離れたくないのだからね」
「で、殿下」
つい癖で殿下呼びしていしまった彼女に「マックスと呼んで」と眉を下げる王子である。
整った顔立ちで少年のように微笑まれたプリシラはそのギャップにドキンと胸を鳴らす。
マクシミリアン殿下は王妃に瓜二つの銀髪美形である、奇妙に映る趣味のせいで女子にはいまいちモテない残念なイケメンなのだ。
植物のことになると野山だろうが庭園だろうがお構いなしに行動する、木々の観察をしていつも葉っぱと泥だらけなのだ。そんな様子を公式の茶会でも晒すので、貴族達からは奇行に見えてしまうので敬遠されがちだ。
その個性がどうやらプリシラには新鮮に映るらしく、馬があう。
見合いの席でも林檎の種類について熱弁する彼に、少年らしさを見つけて「面白い方」と好印象を持ったのだ。
そんな彼女もまたどこか世間様とズレがあるのかもしれない。
「マックス様と一緒に過ごすとワクワクが止りません、自然と笑みが零れてしまいますわ」
「ほんとう?それは嬉しいな、私のことに興味が出て来た?」
「は、はい。マックス様はとても素敵……だと思います」
好感触を得た王子は満面の笑みを浮かべて「キミを好きになって良かった」と照れて笑う。
マクシミリアンが描く未来は、より良い品種の果実を作り人々に還元することだという。
その夢のためならば醜聞とて気にしないというぶれない姿勢は、次第にプリシラを虜にしていくのだ。
互いの愛が交差するのは思ったより早いのかもしれない。
====
HOTランキング2位に浮上しました。(5月28日9時頃)
読んでくださった皆様ありがとうございます、チキンな私はガクブルでございます。
( ;∀;)でも嬉しい~
サロンへ集まった家族の顔は悲喜こもごもという印象だ。
父親は嫁に出ようとする愛娘に泣き崩れ、母親は大喜びで小躍りしそうな勢い。彼女を心配して見守って来た兄は安堵の表情で頷く。
「一時はどうなるかと、クランに懸想してた時期は見てられなかったからな」
そう言うのは年の離れた兄アーリンである、近頃は友人クランについて不審に思うことが多々見受けられてハラハラしていたそうだ。
「えっと……その節は色々とご迷惑をかけてごめんなさい兄様。私は幼過ぎたのです」
素直に謝罪の言葉を紡ぐ妹に兄は目を細めて「幸せになるんだぞ」と言って彼女の頭を撫でるのだった。
「プリ、良い方に見初められたわね。母として鼻が高いわ、殿下は少し変わった所があるらしいけど、お人柄は最高と聞いていてよ」
「はい、お母様。いまは愛はわかりませんが殿下の為に良い妻になるよう学びたく存じます」
しっかりした返答をする娘に大きくなったものだと感慨深そうに頷く母だ。
そして、滂沱に涙を流して椅子に沈んでいた父親が口を開く。
「私の可愛いプリちゃんが……よ、嫁にぃ~寂しいぞ悲しいぞ!あぁぁ神は無慈悲だぁ!」
「お、お父様。落ち着いて」
泣き喚きだした父を持て余すプリシラはどうしたものかとアワアワする。
「まぁ、貴方みっともない!結婚は二年後ですのよ、いまから嘆いてどうしますの」
「ぶわっ……だってえ純粋無垢な天使のプリちゃんが人妻になって家をでちゃうんだぞ!二年なんてあっと言う間じゃないくぁ!」
その無様な父の姿を見かねたアーリンは「”ないくぁ”じゃないですよ、いい加減にしてください。職場の連中に泣き顔写真をばら撒きますよ」と脅すのだ。
「え!?お前それは酷いぞ!防衛省長官としての威厳が!」
「だったらグチャグチャの顔をどうにかしてよ、鼻水が床に垂れてきったないなぁ」
アーリンは汚物を見るような目を向けて手巾を口元に当てて侮蔑した。これにはさすがに我に返った侯爵はズビズビと鼻を噛み「すまなかった」と取り乱したことを謝る。
「お父様、ご心配ありがとう。でも大丈夫、お城に嫁ぐのならばいつでも会う機会はありますわ」
「おお!そうかそうだったな!プリちゃんは賢いな、さすが私の娘!」
時間さえ作れば毎日娘に会えると踏んだらしい父は途端にウキウキしたのである、泣いたカラスがなんちゃらである。
「単純が過ぎるわ、まったく」夫人はその夫の豹変ぶりに呆れるしかない。
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「え?お城に住み続けるわけではないのですか」
お見合いから十日後、正式に婚約者になった二人は城の庭園でお茶を楽しんでいる。その席で今後のことを話し合う中に住まいについてのことが出たところだ。
「うん、私は政務をこなしつつ植物学も学び研究をしたいんだ。いずれ植物園を造ったらそちらに近い場所へ家を建てて住みたい、それに遊学する予定も立てているのさ」
「遊学……」
それは他国を渡り歩くという意味だ、プリシラは婚約したばかりなのに距離を取られたような気分に陥り悲しくなった。
「そうでしたか、どうかご無事でお戻りくださいね」
健気に笑ってそういう彼女に王子は小首を傾げ「なに言ってるの?」と言った。
「キミも一緒に周るんだよ、遊学は結婚後にするんだから」
「ええ!?ご一緒して宜しいのですか?」
自分も他国へ旅に出られると知ったプリシラは頬を紅潮させて、まだ見ぬ異国に想いを馳せた。
「なんて素敵!あぁいまから楽しみですわ」
「はは、気が早いよ。でも喜んでくれて嬉しいよ、私は片時もキミから離れたくないのだからね」
「で、殿下」
つい癖で殿下呼びしていしまった彼女に「マックスと呼んで」と眉を下げる王子である。
整った顔立ちで少年のように微笑まれたプリシラはそのギャップにドキンと胸を鳴らす。
マクシミリアン殿下は王妃に瓜二つの銀髪美形である、奇妙に映る趣味のせいで女子にはいまいちモテない残念なイケメンなのだ。
植物のことになると野山だろうが庭園だろうがお構いなしに行動する、木々の観察をしていつも葉っぱと泥だらけなのだ。そんな様子を公式の茶会でも晒すので、貴族達からは奇行に見えてしまうので敬遠されがちだ。
その個性がどうやらプリシラには新鮮に映るらしく、馬があう。
見合いの席でも林檎の種類について熱弁する彼に、少年らしさを見つけて「面白い方」と好印象を持ったのだ。
そんな彼女もまたどこか世間様とズレがあるのかもしれない。
「マックス様と一緒に過ごすとワクワクが止りません、自然と笑みが零れてしまいますわ」
「ほんとう?それは嬉しいな、私のことに興味が出て来た?」
「は、はい。マックス様はとても素敵……だと思います」
好感触を得た王子は満面の笑みを浮かべて「キミを好きになって良かった」と照れて笑う。
マクシミリアンが描く未来は、より良い品種の果実を作り人々に還元することだという。
その夢のためならば醜聞とて気にしないというぶれない姿勢は、次第にプリシラを虜にしていくのだ。
互いの愛が交差するのは思ったより早いのかもしれない。
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HOTランキング2位に浮上しました。(5月28日9時頃)
読んでくださった皆様ありがとうございます、チキンな私はガクブルでございます。
( ;∀;)でも嬉しい~
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