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しおりを挟む婚約者交代は秘密裡に行われた、癇癪持ちのキアラの耳に入ったら面倒なことになると危惧してのことである。
「まぁ、あれはミアという娘に傾倒しているのだから問題なかろうが一応な」
「えぇ、プライドだけは高いですからね。白紙撤回になったと聞いたら厄介ですわ」
王も王妃も鷹揚に頷き、ビスカルディ侯爵に向けて笑顔を見せた。
ビスカルディは『身勝手な事だ』と思いながらも王家の決定を無下にも出来ず、作り笑いで持って「慎ましくお受けします」と頭を下げた。
帰路に就いたビスカルディ卿は深くため息をついて目頭に手を翳す、果たして娘のアレシアがどのように反応するのかと気が気ではないのだ。
「二年間も王子の婚約者としてしばり、またも違う王子の嫁になれと言わなければならないとは」
そんな卿を慮って執事は「心中お察しいたします」と述べた。
「あぁ、私は疲れたよ、悪いが赤ワインを頼む」
「はい、畏まりました」
執事は心得たとばかりにワインクーラーに手を掛けるのだった。
***
「まぁ、それでは第一王子クラウディオ様と婚約を?それはキアラ様は同意しておりますの?」
開口一番そう言ったのはアレシアだ、さして驚く様子もなく第二王子の出方を憂慮していた。それもそのはず、彼女は彼の婚約者として嫌な思い出しかないのだから。
「うむ、王の言い分では白紙撤回になったと知ったらどのような暴挙にでるか懸念しておられた」
「懸念?ふふ、そんなものございませんでしょう。だってメイドのミアに御執心でしたもの、喜ぶことはあっても嫌がるはずがないですよ」
アレシアはズバリと言い放ち「良かった、これで比較されることもない」とコロコロと笑う。
「では良いのだな?とはいえ王の決定だから抗議するわけにもいかんが」
「ええ、私は前向きに白紙撤回を喜びます、第一王子がどのような方かは薄っすらとしか記憶にございませんが、キアラ様よりかはマシと思います」
「お前……ズバズバいうな、まるで亡き母の生き写しじゃないか」
「ふふふ、恐れ入ります」
今は亡き母ミレイユにソックリだという卿は苦笑いでワインを傾ける。
彼女の母は病に倒れ3年前に他界している、思った事ははっきり言う性格で敵も多かった。だが、裏表がないその性格を気に入った卿は猛アプローチをして娶ったのだ。
「あぁ、キミの娘はまっすぐと育ったよ。いろいろとヒヤヒヤすることもあるが私は嬉しいよ」
卿は最後のひと口を飲み干すとドサリとソファに身を沈めた。
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