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しおりを挟む幽閉中のキアラを余所に、第一王子クラウディオとの面会をすることになったアレシア・ビスカルディ侯爵令嬢は”微笑み”という仮面を被って「お目通り叶いまして嬉しゅうございます」と頭を垂れる。
今度の婚約とて彼女の意に反するものなのだが、どうする事も出来ない。それが侯爵令嬢の務めであると諦めている。
「……目が笑っていないな、この婚約を快く思っていないのだろう」
「っ!」
王子の指摘に一瞬言葉を詰まらせる、笑顔の仮面はいままで見破られたことがない。それを見透かされて内心穏やかではないアレシアだ。
ふと見るとクラウディオの目もまた諦めの色が見て取れた、銀縁の眼鏡をかけその奥に光る青い宝玉はどこも見ていないようだ。その冷たい眼差しは一体どこを指しているのか。齢16歳という彼は大人びた顔をしていて二十歳だと言われても気づかないだろう。
「だが、王の決定は仕方ない。甘んじて受けるキミも可哀そうにな」
「そうでしょうか、王子妃という名誉は有難いですわ」
「……キミは意外と肝が据わっているのだな、相分かった我らの同じ務めは子を成し次代を繋ぐことそれで良いか?」
「はい、もちろんです」
彼女は嘘くさい満面の笑みでそう応えるのだ。
***
「アレのことは良いのか、確か一目惚れしていたと聞くが」
アレとはキアラ王子のことである、クラウディオは2歳下の弟の事が嫌いである。我儘で奔放で自分とは全く違う自由人の彼が疎ましく、羨ましくもあるのだ。
クラウディオは幼少期から英才教育を受けて、甘えることは出来ない立場だ。王太子になるという大義名分を背負って身も心も冷えていた。
対照的にキアラは勉強も剣の稽古も碌にせず、母親に甘え放題に育った。
そんな愚弟を目にして彼は心がグシャリと潰れる思いをした。甘えを忘れた彼は僅かな綻びすら見せまいと取り繕うことを覚えてしまう。
『そうですよクラウ、お前は人々の手本でなければいけないわ。――あぁそうね、見事だわ、完璧な王子よ。誰もがお前が王太子になると期待しているの』
『はい、王妃様』
彼は一度として”お母様”と呼ぶことはしなかった。
「アレ?あぁボンクラの事ですな、ふふ、当分は幽閉先から出られないでしょう。己の我儘で婚約した侯爵令嬢を貶める発言をしてきたのだから」
側近が一人チェルソ・アゴスト公爵令息は「くふふ」と含み笑いをした。
「ふん、一応私の妃候補だったのだ、収まるところに収まっただけのこと」
「それで彼女のことはどう思っておいでで?」
「――どうとは?」
彼は言葉の意味がわからず首を傾げる、ただの婚約者であると解決しているのだ。
「ああ、貴方ときたら唐変木ですね。仕事は完璧なのに、人として終わってます。ダメダメですよ」
「……愛だの恋だのと、私にそんな期待はせんでくれ」
ぷいっと視線を外して「今日の予定はどうだったか」と仕事の顔をする。
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