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しおりを挟む最後の通院をしてから暫く、彼女は長期の休暇を取っていた。これ幸いと好き勝手しだしたジャックは従業員たちから煙たがれている。何をしても見当違いのことをしては檄を飛ばしいるが、渋々の体で指示通りに動いている振りをした従業員たちだった。
「やれ、旦那様は無能なのだから大人しくしていて欲しいものだ」
「ほんとうだよ、日々決められたことだけやってくれたら良いのに」
新規開拓だと称してあれやこれやしているが成果はいまいち空振りしていた、それでも「いまはその時ではないが、機会があれば結果は出る」といってやらかしていた。
「見当違いなんだよなぁ」
「まったくね」肩を竦めて彼らはやり過ごすしかない。
そんなある日、やっとカトリーヌが復帰する。幾分ふっくらした彼女は晴れやかな顔で長い事留守にしていたことを詫びた。
「ごめんなさい、皆さん。もう大丈夫よ、今日からまたよろしくね!」
「おかえりなさいませ!お待ちしてましたよ」
「良かった!これでロインド商会は安泰だ!」
口々に彼女の復帰を喜ぶ従業員たちだ、それを苦い顔で睨みつけるのはジャックである。好きなように商会を動かせなくなった彼は唇を噛み悔しがる。
「今更顔を出して何になる、お前がいなくとも商会は」
「いいえ、ジャック。貴方がやらかした事はすべて空回りだわ。それに何なのこの仕入れ伝票は危うく大損する所よ、間に合って良かったわ。彼らが保留してくれていたお陰ね」
「んな!?なんだと!」
キッと従業員たちを睨む彼は上手く事が運ばなかった事実に愕然となる。実は二重伝票で2~3割嵩増ししたものだった。つまり余剰分は彼の懐に入る手はずだったのだ。それを見透かしたカトリーヌは呆れている。
「貴方クビよ、背徳行為だわ。商会に損を被せるだなんて許しがたい行為だわ」
「な、待ってくれ!これは……」
「これは何?まともな言い訳ができるの?」
「う……そ、それは」
***
商会をクビになったジャックだったが彼はまだ男爵家を諦めていなかった、夫婦でいる間は共同財産だと思っている。
「クソッ!さっさと死んじまえ!死に損ないが!そうすれば男爵は俺のものだ」
昼から酒を煽り管を巻く彼はゼェゼェと息が荒い、そんな彼を鬱陶しく思いながらアンナ・パレナは7カ月の腹を撫でながら「ご自愛くださいな」と微笑む。
だいぶ大きくなって腰痛も出始めている、ちょっとした移動も苦しい。
「あ、あぁ、アンナ……ごめんよ見苦しい事を」
「宜しいのよ、旦那様。でもそうね自由になる金が必要だわ」
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