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5 茶会と有能な侍女

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挙式とお披露目が恙なく終了すると、王に代わり参加していたライトツリーの大臣らは満足そうに帰国していった。
やっと大仕事が終わったことに安堵していたシャロンであったが、それは束の間にすぎない。

「次は薔薇園での茶会ですって、しかも最終の主催は私……面倒だこと」
季節の変わり目には必ず王家の茶会が開かれる、王妃や王女、そして妃殿下となったシャロンも催さなければならない。つまり隔週ごとに開かれるのだ。
貴族の矜持を刺激する茶会であるため気は抜けない、再び胃を痛めることになった彼女はどのような内容にするか頭を悩ませる。

「王妃を喜ばせるならばやはり魚介の軽食は外せないわよね。早急に海老と貝類を寄越すよう手紙を出しましょう」
レターセットを取り出した彼女は時候の挨拶から書き始め、父王へお強請りをする文句を考えた。
そこへ侍女のネアがハーブティを淹れながら提案をする。

「シャロン様、わざわざ運ばせずにこの部屋へ転送させたら如何ですか?」
至極もっともな意見だったが、それでは駄目だと彼女は返す。ライトツリー王から直々に荷が届いたと知らしめる必要があるのだとシャロンは言う。
「あら、面倒なのですね、それにこの国には転送魔法ができるものがおりませんね」
魔術師が極端に少ないラクシオンは魔道具に頼り切りなのである。しかも転送魔道具は設置が難しい。

「それも理由だけど、外交上はどうしてもね。国の豊かさを城の侍従らに見せつけなければならないの、生国が如何に嫁に出した娘を思っているか知らしめないと舐められてしまうわ」
それを聞いた侍女はなるほどと頷き、色々と面倒なものですねと呟いた。そして、ならば茶会の魚介の軽食は任せていただきたいと申し出る。

「あら、ネア自らが調理してくれるの?とても嬉しいわ」
「はい、腕によりをかけて作らせていただきます!」
張り切るネアに苦笑しながら確かにここの調理方法では本当の美味しさが伝わらないと危惧していたところだ。
そして、他国から来た侍女のネアが城内で軽んじられないよう牽制する意味も込めて良い提案であるとシャロンは思った。
「ふふ、自慢の侍女の有能さを見せつけてあげなきゃね!」

***

王族茶会の最終を担うシャロンの茶会には想像以上の参加者が集った。
嫁いだばかりの彼女を品定めする意図はもちろん多いと思われたが、異国の料理にも興味津々のようである。
事前にライトツリーからやってきた侍女の”自慢料理を振る舞う”と宣伝していた効果は絶大であった。
「ちょっと……この濃厚な雲丹パスタは!海臭さが全くないなんて」
「この海老のカクテルとやら、プリプリの食感と良い香!塩辛いいつもの海老ではないわ」
「あぁこの貝柱のムース仕立てとやらの旨味が……なんて甘いのかしら」

どれもこれも旨味爆発という料理を前に、満開の薔薇など目もくれず貴婦人達は夢中に貪っている。大食らしい夫人などは大皿に零れるほど盛り付けてがっついている。なんとそれは王妃だった。
「あぁ今まで食べて来た魚介料理はまがいものだったのね!料理長を変えるべきかしらね!」
丁寧に下処理された魚介には生臭いものは一切なかった。
「さすが私のネア」だとシャロンは鼻高々である、王妃の舌を満足させた妃殿下の侍女は注目を集めた。

茶会を機に城内で冷遇がちだった異国の侍女ネアの株が上がり、無視をしていた侍女長まで「ネア様」などと敬語を使い擦り寄るようになった。
「少しめんどくさいです」と愚痴を零すネアである。
ちなみに城の侍女と料理人たちによる茶と菓子の方は申し訳程度に減っただけだった。

***

「彼女の茶会が盛況だったと?……男子禁制でなかったら味わいたかったぞ」
報告を聞いた夫サムハルドは下唇を噛み悔しがる、母の王妃に劣らす魚介に目が無い彼は辛そうだ。
「本場の味が食べたいのなら妃殿下にお願いしたらどうです?」
「え……強請れというのか、私に?」
挙式から一か月を過ぎた今時点でさして親しくもない夫婦のままだ、その夫からいきなり強請られてもシャロンは良い顔をしないだろう。

「お前……状況を知っての嫌味だよな?」
「はい、未だ同衾さえ許されてない意気地なしに言っております」
「ぐぬぅ……」


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