断罪劇の後ほど愉快なものはない

音爽(ネソウ)

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アーサーはメロミアを連れて、立腹しながら居室へ戻るがドアが開かなくて困惑する。鍵が掛けられていたし、いつもの護衛の姿がなかった。
どうしたことだと驚くアーサーは居室の前でウロウロするばかりである。無い頭成りに少しは行動を起こせば良いものを、他力本願で生きて来た彼には自ら思考を巡らすという方法がとれないようだ。

そこへ巡回していた騎士と遭遇した、これ幸いと呼び止めてがなり立てた。
「ドアが開かないのだ!どうにかしてくれ、侍女も呼ぶんだ俺達の世話をさせなければ」と咆えた。
だが騎士は職務中だと言って立ち去っていくではないか、反応してくれただけ優しいと思う。
「き、貴様!一介の騎士の分際で王命に逆らうのか!」
だがやはり騎士は振り返ることもなく、ガシャガシャと鉄鎧を鳴らして警邏を続けていなくなった。

その後も回廊で侍女や執事に出くわすが誰も彼らを相手にしない。
そのうち見知った大臣と会い城の中が可笑しいと訴えたが「まだいたのか極潰しの賤民が!」と怒鳴り杖で叩いてきた。
「い、痛い!なにをするか!王に対して不敬が過ぎるぞ!」
「喧しい!このドアホウが!貴様のような愚鈍が王になれるものか、戴冠式すらしておらんだろうが」
「ひぃい!?タイカンシキってなんだよぉ?」

バカバカと連呼して大臣は杖を振りアーサーを叩き続けた。
あまりの扱いに逃げ出すアーサー、突然の周囲の冷たい反応に頭が混乱する。

誰に縋っても似たような反応がくるばかりで、事態はさっぱり好転しなかった。
そして、気が付けば二人は城の外へと追いやられていた。

閉ざされた城門の前で訳が分からないと泣き出すアーサーに、彼女はスゥーッと真顔になる。

そして、「やっと国の膿を出せたわ」と高笑いしたではないか。
「め、メロミア?」
「まだわからないの?お目出度い脳味噌ね、私はとある人に雇われた女よ。所謂、美人局ね、わかる?おバカなアーちゃん、ツツモタセなのよ」
「つつもたせ……?なんだいそれは?メロはボクを好きなんだろ、意地悪しないで教えてよ。それにボクらはこれからどうすれば良いの、城から出されたら寝るところは?明日からのご飯は?そうだボクはまだお風呂にも入ってない湯浴みはどこでするの?」
疑問符を並べるだけで己で考え対策することが出来ない男を見て、メロミアだった者はピンクの鬘を脱ぎ捨てた。

「えええ!?鬘だったの!ボクはそのピンクでキラキラの髪が好きだったのに」
「ほんと呆れる、いい加減に目を覚ましなよ。ついさっきアンタは王族でも貴族でもなくなった。なんの権限も持てない賤民に落ちたのよ。王達がなぜ王冠を捨て去ったのか良く考えるのね」
「え……どうして、わからないよ!教えてよ!ボクの好きだったメロは誰だったの?うあああああ!」


***

泣き崩れて面倒な男を捨ててメロミアだった者は地味な外套を羽織り、サクサクと歩を進める。目標は王都の端の小さな宿屋だ。旅人がたまに利用するだけの寂しいところだ。
慣れた様子で木戸を開き一階の受付を兼ねた食堂を見回した。待ち合わせしていた人物を見つけると足早に近づいた。
「遅かったわね、お茶を3杯も飲んでお腹がタポタポだわ」
「申し訳ありません、お嬢様!でも面白いものが見られました」

元婚約者で元王太子の醜態を聞かされた雇い主は「ふふふっこの目で見られなかったのは残念」と笑う。
深くフードを被ったその人物は、ちらりと紫がかる銀髪を覗かせた。
「頭を挿げ替えた国は生まれ変わるわ、多少は荒れるでしょうけど」
「はい、すべては民のためですからね!ところで王達は亡命するのでしょうか?」
「さてね、どちらにせよ好き勝手してきたツケは払って貰わなきゃ」


その頃、国境付近に現れた元王族らしきが私財を積んだ馬車に乗り込み国を棄てようとしていた。
だがそうそう上手くは運ばない。
盗賊に扮した騎士たちが彼らの行く手を阻んで「御命を貰い受ける」と言って全員斬り捨てた。
亡骸は渓谷へと落とされて、消息不明と片づけられた。




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