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王太子を篭絡させたメロはご満悦で「ざまぁ」と公爵令嬢に言う。

「アーちゃんは私のほうが好きなんですって!残念だったわね、もうちょっとで結婚できたのにキャハハッ」
まるで子供のような物言いで話すメロミア嬢はブリジットより四つ年上だ。つまり成人していてこれなのだ、先が思いやられる。
そして空気を読めないアーサーは断罪劇を続行した。
「皆の者聞いてくれ!あの悪女ブリジットの所業を!」シンと静まり返った会場に己の発言が注目されたのだと気を良くした愚かな王太子は箇条書きにした冤罪を読み上げだした。とんだ勘違いである。

それらの内容はとても稚拙だ、メロミアの物を隠した、壊した、盗んだと並べたて、メロミアが歩くと必ず転ぶのはすべてブリジットのせいだと言うのだ。だが、何一つ信憑性も証拠も証言もない報告だった。
名指しで断罪されたブリジット当人は、婚約者と紹介される為に会場の隅で待機していたが退屈そうに扇を広げた後ろで大欠伸をしている。

「どうだブリジット!言い逃れはできまい!」
壁際の方へ控えていた彼女の方へ視線を投げた王太子はドヤ顔でキメてみせた。それをヤンヤヤンヤと持ち上げるのはメロミアだけだ。どうでもいい寸劇を見せられた貴族達はすっかり白けて、ポソポソと近くの者と会話していた。中には帰宅を始めている者まで出てきている。

会場の様子を大きく見渡したブリジットは、家族の姿を見つけると嬉しそうにしてそちらへと向かう。王太子たちの存在など最初からいなかったような振る舞いだった。
「逃げるのか卑怯者め!王となった俺様に挨拶もなしに帰るなど許されないぞ!」
紫がかった銀髪を靡かせて去って行く彼女の背へアーサーは怒りをぶつけるのだが、振り返る様子はなかった。バカにされたと思った彼は顔を真っ赤にして癇癪を起し癖になっているらしい地団駄をバンバンと踏んだ。

その様はまるで躾のなってない猿のようだった。

愚かなその様を見物していた一人の貴族が笑いだし、それは感染したかのように広がって行った。もはや収拾がつかない事態だ。王の座を捨てた夫妻はとうに消えていたし、宰相は長居するような場所ではないと判断する。彼は家族と部下を連れてさっさと入り口へと歩き出す。

宰相がそのようにするのならと招待客はそれに倣って動きだした。
多少もみ合いになったがものの五分もせずに披露会場はほぼ空になった。そこに残されたのはアーサーとメロミアだけになった。

「ど、どいうことだ!?侍従さえいないではないか!俺は王になったのだぞ護衛はどうした!世話をする侍女は!」
「誰もいなくなっちゃった……王と王妃ってこういうものなの?意外に扱いが雑ねぇ」
狼狽して会場内を徘徊するアーサーとは逆に、やたら落ち着いているメロミアは惚けた顔をして髪の毛を弄んでいた。

「あ、枝毛はっけ~ん!」



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