完結 男爵家の下女ですが公爵令嬢になりました

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
2 / 13

奇跡

しおりを挟む




「お腹が空いた……せめてスープさえ飲めたら」
昨夜の奇跡は空腹は見せた幻覚だったのだろうとメリサは思った。それほどまでに彼女の胃袋はひだるいのだ。やがて限界を超えその感覚は鈍る、そうして彼女は作業にかかるのだ。



「メリサ、スープの番をしなさい。つまみ食いは許さないから」
「……はい、わかりました」

ぐつぐつと煮えて行く豆のスープを、ただじっとして見守る彼女は時々かき混ぜて虚しい時間を過ごした。豆の良い匂いが再び腹を刺激してくる。
「まるで地獄だわ、目の前にあるのに私は口にできない」

鼻をつまむ事も出来ずふらりと彼女は坐った、鍋の中の豆スープは煮え切った、あとは冷めないように遠火にかけるだけだ。

すると昨夜の板切れが目に留まる、彼女はそれに手を掛けてじっと見つめた。幻覚でも良いからパンを食べてみたいと思った。炭を持ち再びパンを描いた、やはりそれは絵でしかなく彼女をガッカリさせた。

「幻でも良いと思ったのだけど、そう都合よく見られないわね」
彼女は「ふぅ」と溜息を漏らしてグーグーと煩く鳴く腹を叩いた、叩いたところでなんの変化も起きないがそうせずにおれない。

メリサは立ち上がりスープ鍋をかき混ぜた、その時だ。異変が起きたのだ。
「え?あぁ!また奇跡が起きたわ、パンよ幻覚のパン!」
坐っていた場所にあのパンが転げていた、彼女はいそいそとそこに転がるパンを拾う。幻覚だというのに手触りもリアルにそこにあった。

「いただきます……うん、美味しい。なんて美味しいの」
三口ほどで小さなパンは消えてしまった、だが彼女は舌に残る味に幸せを感じて「ありがとう」と呟く。そして、昨日は気づかなかったが、膨れて飛び出た絵のパンがすっかり消えていた。

「まさか、本物?でもどうして」
それは衝撃だった空腹が見せた幻だと思っていたものが現実であると実感したからだ。震える手で再び炭を持ち今度は豆のスープを描いた。器になみなみと掬ったスープを描いたのだ。

しかし、いくら待っても絵は絵のままだ、がっかりしたメリサは深くため息を付く。だが、その溜息は板に吸い込まれてブルブルと膨れるとコトリと音を立てて湯気立つスープが鎮座した。

「え!嘘!信じられないわ!ほんとうにスープが出て来た!」
彼女は夢中で食べだした、温かいそれはちゃんと塩気があり、豆は甘く蕩けて彼女の飢えを満たす。

「はあ、美味しい……味のあるスープはなんて美味しいの」
不思議なことに器が空になるとスゥッと消えてしまった、しかし彼女の腹は膨れたままだ。途端に笑顔になり「ありがとう」と奇跡に感謝した。

「良く分からないけれど神様が施してくださったのよね、本当にありがたいわ」

それからも板に描いた食べ物はどんどん尽きることなく出て来て、彼女の腹を満たした。でも必要以上には描かなかった。デザートの林檎を食べながら「神様にお礼をしなければ」と考える。

「きっと女神様よね、なんとなくだけどそう思えるの」
そう言って彼女は炭を手に取り美しい女神像を描いた、思うままに描いたそれは髪を長く靡かせた女神様だった。そうしていつものように板切れに溜息を吐いた。

女神像はブルリと震えると具現化されて目映い光を放ちそこにあった。
「あぁ、なんて神々しい……ありがとうございます女神様」
小さな女神は一瞬微笑んだかと思うとシューと音を立てて消えていった。









しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

【完結】モブなのに最強?

らんか
恋愛
 「ミーシャ・ラバンティ辺境伯令嬢! お前との婚約は破棄とする! お前のようなオトコ女とは結婚出来ない!」    婚約者のダラオがか弱そうな令嬢を左腕で抱き寄せ、「リセラ、怯えなくていい。私が君を守るからね」と慈しむように見つめたあと、ミーシャを睨みながら学園の大勢の生徒が休憩している広い中央テラスの中で叫んだ。  政略結婚として学園卒業と同時に結婚する予定であった婚約者の暴挙に思わず「はぁ‥」と令嬢らしからぬ返事をしてしまったが、同時に〈あ、これオープニングだ〉と頭にその言葉が浮かんだ。そして流れるように前世の自分は日本という国で、30代の会社勤め、ワーカーホリックで過労死した事を思い出した。そしてここは、私を心配した妹に気分転換に勧められて始めた唯一の乙女ゲームの世界であり、自分はオープニングにだけ登場するモブ令嬢であったとなぜか理解した。    (急に思い出したのに、こんな落ち着いてる自分にびっくりだわ。しかもこの状況でも、あんまりショックじゃない。私、この人の事をあまり好きじゃなかったのね。まぁ、いっか。前世でも結婚願望なかったし。領地に戻ったらお父様に泣きついて、領地の隅にでも住まわせてもらおう。魔物討伐に人手がいるから、手伝いながらひっそりと暮らしていけるよね)  もともと辺境伯領にて家族と共に魔物討伐に明け暮れてたミーシャ。男勝りでか弱さとは無縁だ。前世の記憶が戻った今、ダラオの宣言はありがたい。前世ではなかった魔法を使い、好きに生きてみたいミーシャに、乙女ゲームの登場人物たちがなぜかその後も絡んでくるようになり‥。    (私、オープニングで婚約破棄されるだけのモブなのに!)  初めての投稿です。  よろしくお願いします。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

処理中です...