(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)

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家令の秘密と融資

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家令の申し出に粗方予想はつけている私は、取り合えず日陰に入るよう勧めた。
炎天下とまではいかないが、話の途中で倒られたら面倒だから。

四阿に設えたテーブルを挟んで話を聞くことにした、対面に座る家令の顔色はいぜん悪い。
私は侍女に再び冷茶を強請り、家令にも茶をすすめる。

「私が茶を飲み切る間に済ませて、内容によっては延長してあげるわ」
爽やかな緑の香気を放つ冷茶から氷が転がって涼しい音をたてた。
それを合図かのように、家令は淡々と話し出す。


綿花産業の純利益が右肩下がりになり、加えてアフォカップルの散財が伯爵家の財を圧迫していると告げられた。

「イーライ様には何度も進言致しましたが、あの方は危機感を理解していません。終いには私の能力がないのが悪いとまで……。このままでは半年持つかどうか、貴族という肩書だけあればいくらでも金は湧くと勘違いしているのです」

グズグズと言い訳を垂らしているけど、要するに私に融資しろって事でしょ?
有り得ないんだけど。

予想通りの話に私は笑いそうになった。実際は冷笑を浮かべていたのだけど。
そして、私は疑問に思ったことを家令に問う。

「事情はわかったわ。ところで貴方が傾いたガバイル家に見切りをつけない理由は何?2代に渡っていいようにコキ使われてたのでしょ、そこまで忠誠する意味はなんなのかしら、退職したほうが楽でしょうに」

「そ、それは……」

家令は私の問には答える気がないのか、俯いたまま動かない。
ちょっとイライラしてきたわ。

本邸を仕切るようになってから過去の帳簿を閲覧したが、家令の給金はズバ抜けて多いわけではなかった。
執事達よりはかなり懐は温かいとはいえるが、身を粉にしてまでとは思えない。

「黙っていてはわからないわね、そろそろ3分だわ。では、私は仕事に戻るわね」
話し合いに来たくせに口を割らない家令に付き合う義理はないもの。


ささっと立ち上がった私だったが、家令がそれを制するように声あげた。
やっと観念したわね。


「時は金成なの、さっさとして」
「……はい、ありがとうございます」
止む無く椅子に戻る私に、家令は素直に礼を言う。そして、堰を切ったかのような勢いで自分の生い立ちを話し出した。


実は家令は先々代、つまりイーライの祖父の隠し子で叔父にあたること。
家令の母は平民で本来ならば彼もここで働く身分ではないのだと告白した。

「父の本妻様はよく出来た方で、愛妾の息子の私を伯爵家の籍にいれて下さいました。ただし、本当の身分は隠し侍従として尽くすという条件付きでしたが……しかし、秘密はそう隠せるものではありません。」

「ばれてしまったのね?」

家令は頷いて私の言葉を肯定して冷茶を一口飲み、話を続ける。
「義兄が当主になった時に露見しました。私はこの家から去る覚悟でおりました。しかし、義兄はこの家に留まることを許してくれたのです。それどころか家令に引き立て右腕として重宝してくれました」


大恩があると言いたいのだろうけど、良いように使われてるだけじゃないのかと思うわ。
本人は知ってか知らずか……。


「貴方はお人好しなのね、義父よりだいぶ若い年齢のはずよね、老け込みが酷いわ」
「……」

まだ30代の彼だが、気苦労が多いせいで容姿は50歳ほどに見える。
気の毒とは思うが同情はできないかな。

そして、少し興味が湧いた私は時間の延長を許可した。
まだ本題に入ってませんもの。


***


融資を請うならば帳簿を見せるよう言いつけた、当然よね。
家令は渋っていたけれど、観念したようで山のような書類を抱えて本邸にやってきた。

いつまでも四阿で問答するわけにいきませんからね。
私は敵を本邸の応接間に通すことにしたわ。

先月分の収支報告を先に見分して、ガバイカ家の懐事情を調べた。
ざっと目を通しただけで眩暈がする数字が並んでいたわ。

最近では自国綿より輸入する綿のほうが安価で質が良い。
流通経路が悪かった時代にはガバイカ家の綿花は高値で取引されてたけれどね。

過去の栄光に胡坐かいてるからこうなるのよ!

「綿花産業は、ほぼ自転車操業ね。よく焦げ付かないこと悪い意味で感心したわよ、それとイーライの報酬がバカに高いわね。彼はほとんど働いてないのに、それに何よこれ!ポリーに給金が発生してるわ」


愛人の御手当てという事だろうが、理解不能。イーライの財布から出すのは普通では?
家令の2倍は貰っていいるじゃないの。それから蟄居した義両親への仕送りが多すぎよ。

「貴方はこれをイーライの言うままに支払っていたの?話にならない、このままでは爵位を売るまでに落ちるわよ。それから投資先が一件もないわね。利が少なすぎて見放されたようね。来月分の資金がなくなって私に媚にきたのではなくて?」

「め、面目ありません。どうか奥様の御力添えを」
家令はそう言って、テーブルに頭をぶつける勢いで頭を下げてきた。

「ふん、図々しい」
「うぐっ!」

矜持の高そうな家令がここまで……、毛嫌いして蔑んでいた私に頭を下げるほどにガバイル家は危ないのよね。
あー、頭が痛い。

「悪いけど融資する価値が見当たらないわ。返す見込みもないじゃない諦めなさい、そして状況をバカ共に把握させなさい」

「そ、そんな!?それでは私は平民に戻ってしまう!私が貴族でなくなったら妻と離縁するしか」

あぁ、本音がでたわね。
身分差というのは多方面で融通が利かなくなるから、しがみ付きたいのね。
平民のほうが気楽に生きていけそうだけど、そうじゃない人もいる。

「融資ねぇ。うーん、綿花……。種子……そうだわ!私に利がありそうな条件を飲むなら動いてあげる」
「え!?」


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