(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)

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閑話 アフォ達の秋 (ざまぁ)

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俯瞰視点


国全体に秋の気配が訪れた頃。

避暑地に逗留していたポリーが流石に肌寒いと言い出した。
それならば土地を移動しようとイーライは簡単に決断して、ホテルマン達に荷造りを命令した。

「でもぉ領地に戻るのは嫌よ?わかるでしょライ~」
相変わらずの我儘ぶりを発揮してイーライにしな垂れかかる。
少しでも良識が残っているならば窘めるところだろう、しかしイーライに期待するのは無謀なことだ。

「あぁ、わかってるさ。ボクらのハネムーンを邪魔されたくないからな。ちょっとでも顔を出したら書類の山を押し付けてくるだろう。ボクも水を注されるのは嫌だよ」

あくまで長すぎる珍婚旅行を続行する気でいる二人だった。
短絡的な二人は温かいと言えば南だろうと、国の最南端へ目的もなく馬車を走らせることにした。

国境越えも考えたが他国へ入るのはそう簡単なことではない。
何より手続きが面倒なのだ、許可証を得るには王都へ赴き審査が必要となり金もかかる。
「異国の旅も良い」とポリーは主張したが、許可が下りるまで2週間ほどかかると聞くとあっさり諦めた。

王都へ留まるには相応の金がかかるし、タウンハウスにはイーライの父母が蟄居していてポリーには居心地が悪い。
ポリー自身は本妻同等のつもりでいたが、イーライの両親の心象は愛人である彼女に対して良好ではなかった。
あくまで可愛いドラ息子の恋人だから目を瞑っただけなのだ。


「あーぁ南国フルーツを堪能したかったわ!でも2週間も我慢するくらいなら南町へ向かった方がずっと良い!」
ポリーは揺れる車窓に向けて口を尖らせたり、アカンベをしてプリプリ怒った。

そんな愚痴と我儘な言動はいつものことなので、イーライはさして気にしない。
むしろコロコロと機嫌が変化して表情豊かな彼女を楽しい子だと思っている。
恋人フィルターとは恐ろしいことだ。


「白い結婚が終わったら次こそ他国へ旅行に出よう、目障りな豚嫁を追い出せばそのぶん楽になるからな」
「ほんとよね!契約とはいえ本邸に寄生してるなんて腹立たしいことだわ。あぁ早めに出てってくれないかしら!そしたらもっと贅沢な旅ができるのに」

呆れた言い分だったが、その場にいる者は誰も諌言しない。
飼いならされた侍女と護衛しかいないからだ。


ガバイカ伯爵家の現状を知る由もないアフォ一行は、しばし歓談して遠い土地での生活を夢みた。

***

国の最南端の街へ辿り着いたのは1週間後のことだった。
肌に触れる空気は柔らかく彼らを迎えた、寒暖差もなく穏やかな暮らしが出来そうだと彼らは満足する。

「長旅ご苦労、ホテルがとれたら君らも数日は楽にしたまえ」
気分が良かったイーライは羽振り良く侍従たちに金を配った。
ポリーは勿体ないと思ったが、貧乏くさいと思われるのも癪なので口を噤んだ。

さすが似た者同士、見栄を張るところも同じなのだ。

国境が近いその街は商団がたくさん逗留する、王都に次ぐ規模ゆえに華やかな雰囲気だった。
アフォ二人は早速舞い上がり、町一番のホテルで過ごすことにした。

「さっすがセミスイートね!部屋が広くてスゴイ、見て!ソファがベッドになりそうなほど大きいわ」
キャイキャイと無作法にはしゃぐポリーに、案内したホテルマンが嫌そうに眉を寄せて退出した。

格式高い高級ホテルな為、客は選ばれる側ということを彼らは知らない。
アフォカップルが傍若無人に振る舞うようなら、近日中に追い出されることだろう。
そして、二度と宿泊することは叶わない。

出禁処分になるとは想像もしてないポリーは我儘放題だった。
イーライも侍従もそれが当然とばかりに放置した。

ホテルの従業員には居丈高な態度で、真夜中だろうと呼びつけ奴隷のようにこき使った。
行き届いたサービスは当然のことだが、マナー違反が許されるはずがない。
従業員たちからの評価は駄々下がる。



廊下や談話室でも彼らの横柄さは変わらなかった。
自分達は選ばれた客という態度を崩さず、他の客への配慮をまったくしない。

贅沢な部屋に飽きたと言うポリーに合わせ、宿泊客用のサロンや図書室へ出向いては好き勝手した。
我が物顔で大声で騒ぎ、見晴らしが良い窓際の席が空いていないと癇癪を起す。
予約席だったため囲いが設えており、誰も踏み入ることができない。


「私はあの席が良いと言ってるのよ!どうにかしなさい!」
「そうだぞ!ボク達はセミスイートの客なんだ融通するべきだ!」

先約がいようと無理矢理に居座ろうとしたアフォ二人は、支配人まで駆けつける騒動を起こした。
衆目を集めようが気にしない彼らは罵詈雑言の数々を浴びせ捲し立てた。
終いには穏便に別の席を案内しようとした支配人へポリーが花瓶を投げつけた。

いよいよ我慢がならず、支配人が憲兵を呼ぼうかとオーナーへ伺いを立てる事態にまでになる。
しかし、そこで思わぬ大物が場を納めることになった。


晩秋になれば寒さを凌ぎに訪れるのはイーライ一行ばかりではない。
大口の取引を兼ねて街に滞在していた公爵が現れたのだ。

彼は現国王の弟にして、国最大の貿易商でもあった。

王族独特の威厳を纏った御仁の登場にイーライは青褪めて腰を抜かした。
腐っても貴族である彼は、王弟の顔を知っていたからだ。
その場で理解していないのはポリーだけだ、平民で社交界を知らない彼女は王族の顔を見たことが無い。

先ほど騒いだ特別席の予約者は王弟だったのだ。

彼は地の底から唸るような低い声でこの騒ぎはなんだと支配人に問う。
突発に宿泊した客が我儘し放題で困っていると耳打ちした。
常宿のためとあらばと彼は動くことにしたようだ、支配人は頭を深く垂れて心遣いに感謝した。

事を把握した王弟は大きな体躯を揺らして床に蹲るイーライに近づいた。


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