(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)

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新たな出店とお気楽王族

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慌ただしい夏を過ごした私だったが休む暇もなく働いた。
家族からは休養するよう窘められたが、性格上それがままならない。

「やりたい事が山のようにあって捌ききれないのよね!」
動いてないと死ぬみたいな回遊魚のようだと自分でも思う。
しかし、充実した日々は私を幸せにしてくれるし、心はもちろん私財も豊かになったわ。

「日本人のサガかしらねぇ分刻みで動かないとサボった気分になるわ」
ディミアン殿下いわく、私達の前世は日本国という島国の民だというの。
生真面目で時間に厳しい国民性なのだとか、なるほどと腑に落ちた自分がいたわ。


私は冬用の化粧品開発に余念がない、新作の菓子のレシピも同時進行で進めている。

この国しか比較対象がないけれど、国民性の違いなのか人々は皆ゆったりノンビリ気味な傾向がある。
その代表がイーライたちアフォカップルなのだけど、彼らはただのグータラに落ちている。

王侯貴族は割とキッチリ時間を守るが、平民は「12時に会う」と指定しても「だいたい12時」もしくは昼頃行けば良いという適当さ、そして待たされる方も寛大な気質なのよ。

ドーナツ店で働いてる調理担当の主婦の話では「半日遅れたつわものがいる」らしい。
絶対かかわりたくないタイプだわ。

なので人を雇用する時は厳選しなければならない。
事情があって働きたい下位貴族、もしくは貴族に仕えていた人を優先して雇っている。

私の化粧品目当てに上位貴族の令嬢が雇えと言って来たこともあったがお断りだ。
働く概念が欠如しているもの当たり前よね。

少々諍いになったが、そこは王家御用達の看板をここぞと使用させていただいた。
抗議文と嫌がらせは多少受けたが、悟った王妃様とディミアン殿下が処理してくれたみたい。
あくまで秘密裡にだけど……。

詳しく聞くのは怖いが、噂では格下げされたり領地を取り上げられたと耳に入った。
有難いけどほどほどに!

そして、冬目前に新たな店を構えることになった私は忙しくも楽しい日々の真っ只中に身を置いていた。
化粧品専門店と和食を提供する食堂よ、開店まで大変で期待と不安でいっぱい。

これは私が計画したわけではないの、出資者は王妃様と王子よ。
お察しください……。


残念ながら味噌の仕込みは終わっているけど発酵が終わり食品になるのは冬頃かしら。
熟成期間が必要なので、王子はがっかりしていた。

「仕上がりが美味しいという保証もないのに……困った方」
そのお方はといえば……私の研究室の隅っこで味噌の天地ガエシを鼻歌交じりで行っている。
帰ってくれないかなぁ?


「アリス!だいぶ味噌らしい風味になってきたよ!楽しみだなぁ!」
「殿下、雑菌が入る前に閉じてくださいませ。黴たら仕込み直しですわ!」


私が諌言すると王子は慌てて麦味噌のツボに蓋をした、まったく……。
城での交流を経て、冷蔵庫と冷凍庫を贈呈されて以来。王子は足げく我が家にやってきて入り浸っている。

どうやら彼は臣民に下るつもりらしい、国王陛下が許可するとは思えないけど。
第一王子はすでに王太子になられているので呑気なのかしら?


同郷の仲間であるディミアン殿下の夢は電化製品を世に広めることらしいわ。
前世での仕事は有名メーカーの開発部に従事していたと言ってた。

通りで冷蔵庫をホイホイ作れちゃう知識があるわけだと納得した。
『生きているうちに液晶を再現してゲームを作るのが生涯の目標』と宣っていた。
単純な操作で遊ぶ白黒画面ならすぐにでも可能とまで言っていた。

『反射ゲームのようなものなら作れる』とまで……本当?
詳しく知らないけど、物拾いゲームならとか言ってたような。なんの事やら。

ただ、技術者がいないので育成機関が必要で、普及させるには相当時間がかかるのが問題だとしょ気ていたわね。

でも、あの目は本気みたい、そんな夢のようなことと思ったが彼ならやりかねない。
でもね王子、色々知識を披露してくれたけど、私にはサッパリなので困ってしまうわ。
液晶の元ネタは烏賊だと聞いた時は含んでいた紅茶を吹き出した。

烏賊の皮膚、表皮?というのかしら擬態や威嚇する際に色が変わる現象が液晶そのものらしい。
待って、んー……なんとなく仕組みはわかったけど無理。




そんなこんなで、冬用の保湿クリームを仕上げた私は早速王妃様に試していただくことにした。
彼女には顔用を献上するわ、ほんとうの目的はハンドクリームなのよ。

使用人たちは手荒れが酷くなる季節だから彼らを労う目的で開発したの。
皮膚の弱いご婦人にも提供したいけれどね!

香料入りでサラサラタイプは貴族用、安価な油でシットリ作った質より量のものは庶民用と分けた。
身分差別するわけではないけど、販売価格を抑えるには仕方ないの。
どうしても収入の差に開きがあるのだから。

色んな人に使って欲しい、それが私の夢よ。


そして、初霜が降りた冬の初め頃。
小さくも洗練された化粧品店が完成したわ。

開店初日、なんと王妃様がお忍びで一番最初の客として現れたの!
「出資者としては何が何でも来たかったのよ、あらぁ素敵な調度品で揃えてるのねセンスが良いわ!」
「あ、ありがとうございます。王……いえアンジェレ様」

店内にはすでに客が幾人はいたので王妃と呼べない。
うぅ、頭が痛いところね。『頭痛が痛い』とかバカ発言して逃げたいわ!

貴族の婦人が何人かいらして王妃様と気が付いた方が「ひげぇ!?」と素っ頓狂な声を出していた。
心中をお察しするわ、試供品のリップクリームを多めに差し上げよう。


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