(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)

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嵐の前 甘いひと時

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「良い思い出はほとんどないけれど、懐かしく思うものね」
多忙な日々の合間を縫って、私は旧ガバイカ邸に足を踏み入れた。

今となっては侍従たちしか住んでいない贅沢な家だと思う。
離れの方は無人にするには勿体ないので、家令一家に住んで貰っているわ。


私の帰還を知り、駆け付けた家令が挨拶に現れた。それから収支報告と領地の現状を知らされた。
定期的に連絡を取り合っているので粗方は把握しているわ。


「ふむ、やはり綿花栽培から転向して功を奏したわね。今年は菜種栽培に尽力してちょうだい。栽培の方は上手く行ってるようで安心したわ。こちらに向かう途中に黄色い絨毯が広がっていて見惚れたわよ」

「ありがとうございます、景観も素晴らしいことから観光で訪れる者も多く領地に金を落としてくれてます。アリス様の采配のお陰です。加工場に併設した甘味処も盛況です、こちらの収入も安定しています」

あらあら、寡黙気味の家令の口数が多いわね?いつから弁舌爽やかになったの。
存外こちらが素なのかもしれない。

「いやぁ、私の家族も餡子菓子に夢中でしてね!もちろん私もなんですが、やはり羊羹が一番好きです小豆を味わうなら羊羹一択です」
「ふふ、気に入って貰えて良かったこと。そこでね提案です!」


家令の報告に満足した私は、小豆の栽培も初夏から始めるよう指示した。
他所から仕入れるのでは、加工販売に追い付かないと判断したのよ。

そして、農地全体の収穫量と月別純利益をグラフ化した表を広げ互いに満面の笑みになる。
旧ガバイカ領は無駄に広く、手つかずの場所が多かったから開拓のし甲斐があって領民は喜んでいると聞く。
これまでと違い、頑張ったぶんだけ報酬が増えるから遣り甲斐もあるでしょう。

どれほど搾取してきたかわかるというもの。前当主といい、イーライもクズ過ぎたわね。


「去年の夏は、お父様にお強請りして大正解!でもまさか爵位まで買い上げるとは思わなかったわ。家令の貴方が買い取ってくれると良いのだけど?」

「そうですね、近いうち買わせていただくつもりです。ところで本邸のほうはいかがしましょう。このままでは持ち腐れでございます」

そう、それなのよね。
固定資産税も馬鹿にならないし……うーん。

屋敷だけは立派で取り壊すにも忍びない、どうしようかしら。
……観光客が増えてると言ったわね。

「いっそ宿泊施設にして、ここでしか食べられない甘味を提供するのは?」
「良い考えですが菜種の見頃は春から初夏までです。オフ期間が長すぎですよ」

そうか、うぬぬぬ。
名案と思ったのだけど……。

「そうだ!夏といえばヒマワリよ!広大な菜種収穫後にはヒマワリ畑とトウモロコシ!油も取れて菜種の油粕は肥料になるわ畑が痩せる暇もないと思うの」
思いついた私は飛び跳ねる勢いで立ち上がった為、家令は悲鳴をあげてソファから転げ落ちた。

……相変わらずビビリね。

善は急げとばかりに私は王子に連絡をとった。
原産地が遠いヒマワリの種をオネダリしちゃうの、我儘?違うわよ。取引だわ。

***

「相変わらず止ることを知らない人だなキミって子は、そこが良いのだけど」
手紙を執事に託し届けたのは昼頃だったのに、王子はアフタヌーンティーの時間には旧ガバイカ家に現れた。
フットワークが軽いのは貴方なのでは?

そんなことより、王子。
私の手を撫でまわすのはご遠慮してくれませんこと?


私がジロリと睨むが王子には効果がないみたい、悔しい。
「小さくて可愛い手だね、ほら、私の手ですっぽり隠れてしまうよ」
「は、はぁ、身長差が30センチ以上ありますから当然かと」

標準より小柄な私と、群衆に紛れてもすぐ発見できそうな王子との身長差は凄かった。
「そういうことじゃないんだけど……、うん、アリスはどこもかしこも甘い香りがするよ」
「ちょ……殿下」

王子は私の肩に頭を乗せて首元をすんすん嗅ぐ、いや普通にやめて?
「近すぎです!殿下!」

「ディミアン、もしくはディミーと呼ぶように」
「……はい殿下」

呼び名で意地悪する私に王子は少し不貞腐れて頬を膨らませた、王妃様にそっくりだわ。
じつは私は絶賛求婚され中ですの。

白い結婚が成立する前にイーライと他人になれたのは二つの契約が不履行になったお陰よ。
一つはイーライがやらかし、もうひとつは先代がやらかした。

イーライが私と交わした必要最低限の夫として振る舞う努力を怠ったせい。
そして、現当主の責務を果たさず散財し、家を傾けた。

運営資金が底をついたところで私の父に動いて貰ったの。
ガバイカ伯爵領を丸ごと奪う目的で融資を持ち掛けて頂いた。そして先日、それが叶ったの。

先代は返すアテもないのに莫大な資金を受け取り小躍りしていた。
流石としかいいようがない、悪い意味で。

もちろん、抵当はガバイカ伯爵領と屋敷だったわ。
先代夫婦は『優秀な息子ならば数年で返済できる』と笑い飛ばしたらしいわ。
親子2代で家令に丸投げしていたのに、その自信はどこから湧いたの?

自滅した彼らを笑うつもりはない。陥れたと言われれば反論できないけど仕方ないじゃない。
契約した時点で、私達の勝利は確定していたと言っても過言ではないわ。

私は自分の矜持と領民を守った、それだけよ。



「ねぇ、アリス。何を考えているの?貴重なお茶の時間なのに」
あら、ごめんなさい。すっかり存在を忘れてました。

再び王子の頬がプクリと膨れてしまう。
それを指で押してあげれば「ぶぷー」と愉快な音が鳴った。

「アリス、意地悪はそれくらいにして!」
王子は私を抱き寄せると今日こそ良い返事をもらうと言って聞かない。

ううむ、これが年貢の納め時なのかしら。
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