3 / 18
2
しおりを挟む「おお、我が君……いったい何処おわすのか!」
そう言ってサラジーヌの行方を気にするのは彼女の祖父であるロズランド卿である。王太子を発表するはずの宴の最中にやらかしたシャリーを許せないと書斎のデスクを叩く。ドリアードの血を最も重んじる彼は頭を抱える。
「あのバカ孫が!何が”奇跡の御業”だ!あんなもの我が一族の乳飲み子でも出来るわ!」
彼はそう言うと卿は書斎の中を右往左往する、やはり息子に任せておくのは早すぎたのだと伯爵の座を奪い返した所だ。陞爵を賜りたいが故に王子との婚約を許した息子夫婦を恨まずにおれない。
その書斎の片隅で震えているのはその”バカ息子”である、名をドリーと言う。
「あ、あの父上……このままシャリーを王子の婚約者として許すわけには」
「ならん!どうすればそのような考えに及ぶのだ?あの娘にはなんの能力もないのだぞ!何れバレるに決まっておろうが!」
「ひぃ!」
卿の激高ぶりに恐れをなしたドリーは脱兎の如く書斎を飛び出していった。
「……なんとかサラジーヌを探してシャリーに変わり異能を発揮させなければ」
愚鈍な父ドリーはまだ諦めていなかった、子爵から伯爵になれた彼はそれに縋っていたいのだ。上位貴族とはそれだけの価値があるのである。
一方でドリアードの血を受け継いだと嘘を吐いたシャリーは「やり過ぎた」と今更後悔していた。
「ほんの出来心だったのよ、お姉ちゃんを困らせてやろうと……なのに王子はすっかり騙されちゃって、引っ込みが付かなくなったのよ」
涙を滴らせながらそう言って両親に懺悔するシャリーは「どうしたら良い?」と鼻水を垂らす。
「はあ……終わったことは仕方がない。これからの事を話そう、お前はドリアードの王、ドリュアデスとして君臨しろ、それしか伯爵の名は存続できない」
「ぐすん、おじい様はそれを許すと思う?」
「う……それは」
言葉を濁すドリーは何も考えておらず「伯爵夫人よ」と言って調子づいていた妻のメリーゼも同様で、伯爵という身分を手放したくないと駄々を捏ねる始末だ。
「ね、ねぇシャリーちゃん、御業は他に出来ないの?こうお姉ちゃんみたいに蔦を生やすとか」
「出来る訳ないじゃない!あれは化物だわ、化物でなくてなんなの!ウネウネグニャグニャと気持ち悪い!あり得ないでしょ!」
342
あなたにおすすめの小説
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
ワガママを繰り返してきた次女は
柚木ゆず
恋愛
姉のヌイグルミの方が可愛いから欲しい、姉の誕生日プレゼントの方がいいから交換して、姉の婚約者を好きになったから代わりに婚約させて欲しい。ロートスアール子爵家の次女アネッサは、幼い頃からワガママを口にしてきました。
そんなアネッサを両親は毎回注意してきましたが聞く耳を持つことはなく、ついにアネッサは自分勝手に我慢の限界を迎えてしまいます。
『わたくしは酷く傷つきました! しばらく何もしたくないから療養をさせてもらいますわ! 認められないならこのお屋敷を出ていきますわよ!!』
その結果そんなことを言い出してしまい、この発言によってアネッサの日常は大きく変化してゆくこととなるのでした。
※現在体調不良による影響で(すべてにしっかりとお返事をさせていただく余裕がないため)、最新のお話以外の感想欄を閉じさせていただいております。
※11月23日、本編完結。後日、本編では描き切れなかったエピソードを番外編として投稿させていただく予定でございます。
婚約破棄をされるのですね? でしたらその代償を払っていただきます
柚木ゆず
恋愛
「フルール・レファネッサル! この時を以てお前との婚約を破棄する!!」
私フルールの婚約者であるラトーレルア侯爵令息クリストフ様は、私の罪を捏造して婚約破棄を宣言されました。
クリストフ様。貴方様は気付いていないと思いますが、そちらは契約違反となります。ですのでこれから、その代償を払っていただきますね。
愛する妹が理不尽に婚約破棄をされたので、これからお礼をしてこようと思う
柚木ゆず
ファンタジー
※12月23日、本編完結いたしました。明日より、番外編を投稿させていただきます。
大切な妹、マノン。そんな彼女は、俺が公務から戻ると部屋で泣いていた――。
その原因はマノンの婚約者、セガデリズ侯爵家のロビン。ヤツはテースレイル男爵家のイリアに心変わりをしていて、彼女と結婚をするためマノンの罪を捏造。学院で――大勢の前で、イリアへのイジメを理由にして婚約破棄を宣言したらしい。
そうか。あの男は、そんなことをしたんだな。
……俺の大切な人を傷付けた報い、受けてもらうぞ。
最後のチャンス~殿下、その選択でよろしいのですね?~
柚木ゆず
恋愛
私ルーラは国王陛下の命により9年間、婚約者であるナタン殿下が次期王に相応しいかどうか秘密裏に採点を行ってきました。
そんなナタン殿下は幼い頃は立派な御方だったものの、成長と共に内面が悪化。表向きは君子なものの実際には様々な問題点がある問題児となってゆき、ついには不適当だと判断せざるを得なくなってしまいました。
ですがかつては確かに、次期国王に相応しい御方でした。ですのでお胸の中には当時のような心が残っていると信じて、最後のチャンスを用意することにしたのです。
殿下はご自身の過ちに気付き、お考えを改めてくださるのでしょうか……?
今度こそ君と結婚するために生まれ変わったんだ。そう言った人は明日、わたしの妹と結婚します
柚木ゆず
恋愛
「俺はね、前世で果たせなかった約束を守るために――君と結婚をするために、生まれ変わったんだ」
ある日突然レトローザ伯爵令息ロドルフ様がいらっしゃり、ロドルフ様から前世で婚約関係にあったと知らされました。
――生まれ変わる前は相思相愛で式を心待ちにしていたものの、結婚直前でロドルフ様が亡くなってしまい来世での結婚を誓い合った――。
わたしにはその記憶はありませんでしたがやがて生まれ変わりを信じるようになり、わたし達は婚約をすることとなりました。
ロドルフ様は、とてもお優しい方。そのため記憶が戻らずとも好意を抱いており、結婚式を心待ちにしていたのですが――。
直前になってロドルフ様は、わたしの妹アンジェルと結婚すると言い出したのでした。
※9月26日、本編完結いたしました。時期は未定ではございますが、エピローグ後のエピソードの投稿を考えております。
魅了の魔法をかけられていたせいで、あの日わたくしを捨ててしまった? ……嘘を吐くのはやめていただけますか?
柚木ゆず
恋愛
「クリスチアーヌ。お前との婚約は解消する」
今から1年前。侯爵令息ブノアは自身の心変わりにより、ラヴィラット伯爵令嬢クリスチアーヌとの関係を一方的に絶ちました。
しかしながらやがて新しい恋人ナタリーに飽きてしまい、ブノアは再びクリスチアーヌを婚約者にしたいと思い始めます。とはいえあのような形で別れたため、当時のような相思相愛には戻れません。
でも、クリスチアーヌが一番だと気が付いたからどうしても相思相愛になりたい。
そこでブノアは父ステファンと共に策を練り、他国に存在していた魔法・魅了によってナタリーに操られていたのだと説明します。
((クリスチアーヌはかつて俺を深く愛していて、そんな俺が自分の意思ではなかったと言っているんだ。間違いなく関係を戻せる))
ラヴィラット邸を訪ねたブノアはほくそ笑みますが、残念ながら彼の思い通りになることはありません。
――魅了されてしまっていた――
そんな嘘を吐いたことで、ブノアの未来は最悪なものへと変わってゆくのでした――。
お前なんかに会いにくることは二度とない。そう言って去った元婚約者が、1年後に泣き付いてきました
柚木ゆず
恋愛
侯爵令嬢のファスティーヌ様が自分に好意を抱いていたと知り、即座に私との婚約を解消した伯爵令息のガエル様。
そんなガエル様は「お前なんかに会いに来ることは2度とない」と仰り去っていったのですが、それから1年後。ある日突然、私を訪ねてきました。
しかも、なにやら必死ですね。ファスティーヌ様と、何かあったのでしょうか……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる