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しおりを挟む「はあ~まったり、お尻に根が生えそうよ。動きたくないわ」
熱々の紅茶を堪能して、気が緩んだサラジーヌはそんな事を呟く。
「うん、たしかに木枯らしが吹いていてその気持ちがわかるよ。そうだ、ここは軽食も美味しそうだし、いっそこのまま歌劇の時間まで籠る?」
「え、いいの?やったー!こんな贅沢な時間の過ごし方は久しぶりだわ」
彼女はそう歓喜すると紅茶のお代わりをオーダーした、それからケーキもしっかり頼む。そんな何でもない事が楽しくて仕方がない。
「レモンクリームが堪らないわ~この絶妙な酸味!うちにも取り入れようかしら?」
「おいおい、仕事モードになっているよ。今日は忘れてくれよ」
「あ、あらごめんなさい!ついね」
デコピンをする仕草で巫山戯るエメリは「クスクス」と笑う。
ふたりは談笑してそのまま過ごした、それから小腹が空いたので店のオススメだと言うドリアを注文する。熱々のドリアが供され二人ともチーズの糸を引いて「熱い」と愚痴った。
「ふふ、美味しいけれど火傷しそうね」
「うんその通りだね、気を付けないと」
***
そんな穏やかな時間を堪能して食後の紅茶を楽しんだ。
「さて、そろそろ歌劇の昼の部が始まるよ。行こうか」
「ええ、そうねすっかり長居してしまったわね。ケーキも食事も最高だったわ」
ふたりはニコニコと連れだって当たり前のように腕を絡ませあった。辻馬車を拾い目的地を目指す。ところが思わぬ邪魔が入った。
「見つけましたぞ、サラジーヌ様。すぐにお戻りください」
「は?」
その人物が歌劇場の出入り口を塞ぐように立ちはだかる、気が付けば数人の騎士達らしきに取り囲まれている。姿を変えているが間違いない、ジリリと距離を詰めてくるその人物には見覚えがあった。
「貴方、宰相ね。重鎮自らやってくるなんて。どういうことかしら、城の一部を壊したのがそんなに重大なの?」
「そんな些末な事ではありません、どうか、どうかあの国を助けていただけませんか!」
益々意味が分からないとサラジーヌは肩を竦める、宰相は「民が尊い命が」と捲し立てるが彼女の心には響かない。
「国民がなんですって?私に関係あるとは思えない。民が困っているのだと言うなら私財を投げうって助ければ宜しいわ。そうじゃなくて?」
サラジーヌに最もなことを言われて宰相は口を噤む、私腹を痛めずに”助けてくれ”とは虫が良いことだ。
「宜しくて宰相殿、異国において貴方はなんの権力を持ちません。さっさとお帰りなさい」
彼女はそう言うと蔦を目に見えぬ速さで動かし、騎士達だけを追い払う。周辺にいた者達は「つむじ風か?」と頭を傾いだ。
「いや、お見事!惚れ惚れするよ」エメリはパチパチと手を叩いて賞賛する。
「じゃいきましょうか、演目が始まってしまうわ」
彼女はニッコリと微笑み先ほどの事など意に介さない。
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