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しおりを挟む深刻化して行くバストル王国はいよいよ油断ならない状況に陥った。民たちは空腹に耐えかねて暴動を起こし、麦や芋などの蔵を襲うようになった。
対岸の火事のように見ていた貴族らは、自分たちに火の粉が迫ることを恐れて次々と出奔して行く。しかし、その貴族さえ怒り狂った民たちに襲われて襤褸雑巾のようにされてしまう。
「国王、このままでは国が成り立ちません。正義感の強い騎士達まで反旗を翻し、平民に加担している始末です」
サラジーヌの怒りを受けた宰相が手足を骨折して、松葉杖をつきながら泣いている。
それを目の端にみながら「わかっておる」と王は力なく言う。
「当面の食糧は王家から出すとして今後はどうしたら良い?目減りするだけで根本の解決にはならん」
「そ、それですがやはり婚約者を元に戻す他ないかと……私はサラジーヌ嬢に王妃に、いいえ女王に収まっていただくのが最良かと思います」
宰相は根端から間違っていることに気づかないままそう捲し立てた。
サラジーヌにとってなにが最良なのかわかっていないのだ、地位や名誉など彼女は欲していない。それにも拘わらず彼は「優れた地位を与えれば考えを変える」と信じて疑わないのだ。
王は言う。
「名誉な……本当にそんなものを願っておるだろうか?彼女はここを出る時に壁に大穴を穿っていったのだぞ、謀反ともとれる行動をした者がその栄光を欲しがるか?余にはそう思えぬ」
***
「なんですって!?サラジーヌと再婚約しろと言うんですか!冗談ではない!」
アンセル・バストル王子は「早く王太子に任命してくれ」とせがみに来ていた、それなのに真逆の提案をされたものだから憤怒した。
「私が愛しているのはシャリー・ロズランドだけです!彼女こそが国を安寧を齎す女神なのだから!」
あのコップ事件の事を持ち出して「父上も見たはずだ」とデスクを叩いた。あれこそがドリアードの女王の力なのだと強く主張した。
「あぁ、馬鹿者が……目の前にあるマヤカシに騙されおって、余も同様か……。たしかにアレは奇跡だと目に写ったわ。だがなロズランドを問い詰めたら”一族ならば誰にでも出来る”ものらしいぞ」
「そ、そんな!そんなはずは!」
尚も言い募ろうとするバカ息子に真実を叩きつける。
「お前も知っていたのだろう?あんなものは赤子にさえできるものだと……宰相から聞いたぞ、口止めをしていたらしいではないか!」
「う……で、でも……私は」
グチグチと言い訳をしようとするアンセルに王は深く息を吸うとこう言った。
「決めたぞ、余の後を継ぐのはエメリアン王子にする」
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