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側近達の醜聞
「私達の関係は秘密よ、たとえ神様でも」
聖女は相手の唇に白い指を当ててそう言った、秘密が漏れたら蜜のように甘い睦み事も終いになると囁かれた男達は皆同じように頷き了承した。
ベアトリスの痺れる毒のような身体の虜になった者たちは「自分こそが愛されいる」と信じて疑わない。
公の場では取り澄まして聖女に接するので、淫らな関係にあるとは露見はしない。それでもどこか牽制し合う態度が時々見受けられる。
だが、彼らの婚約者や恋人の目は誤魔化せていない。
女性側は小さな綻びにさえ敏感であるし、歓談中にどこか上の空になっている相手を見てなにかを嗅ぎ取るのだ。
「貴方、最近へんだわ。私の話など半分も聞いてないでしょ」
「え、そんなことは……」
街のカフェで詰られているのは王子の側近の一人で財務省に勤めるシリル・ワロキエだ。
婚約者の令嬢に厳しい目を向けられてシドロモドロである、彼は他の側近たちと同様に聖女とただならぬ関係になっている。
アンドレ王子やダニエルとほぼ同時期に聖女に誑かされていたのだ。どいつもこいつも節操がない。
「城も街も美しい聖女の噂で持ち切りだわ、一目見た男は瞬く間に恋に落ちるそうよ。あなたもそうなのではなくてシリル?わたくしを裏切ったらどうなるかわかっていて?」
「え」
シリルの婚約者であるクリステル・ゾイデレン伯爵令嬢の父親は彼の上司にあたる人物だ。取り立てて才も無く大きな功績がないシリルが財務省に入れたのは彼女の父のコネである。
「わ、わかっているさ、来年には結婚するのだし、浮ついてなどいられない」
「そう?理解しているのなら良いわ。でも我が家の影響力を軽んじないことね」
クリステルはそう言ってテーブル中央に飾られた活花へ手を伸ばすと大輪の花をブチリと捥ぎ取った。それはフラフラとしている彼への警告だ。いつでもその頭を刈り取れるのだと……。
それを見たシリルは己の首あたりを撫でてグビリと唾を飲み込んだ。
「ねぇ耳にしていて?御学友だったマイヤール様の噂を」
「え、あぁダニーのことかい。たしか頬に殴られたような跡があったと同僚から聞いた」
眼鏡をかけた気難し気な友人の顔を思い浮かべて、シリルはそれがどうしたと肩を竦める。
「婚約者に浮気がバレたらしいわ、首元に何カ所も破廉恥な形跡があったのですって、未婚の間は互いに純潔でいるはずなのに、おかしなことよね?どこかの娼婦にでも付けられたのかしら、例えば胸が大きいオレンジ髪の女とか」
例えに出て来た女の特徴を聞いてシリルは額に血管を浮かべたかと思えば椅子から立ち上がり激高した。
「ベアトリス様を愚弄する言葉は許されないぞ!あの方は美しく聡明で艶やかで気持ち良くて」
「は?誰が聖女のことを言ったかしら、それと気持ちが良いとはどういう意味なの?」
聞き捨てならない台詞を吐いた彼をクリステルは睨みつける。
「あっ!いやその、特徴が聖女様に似ていたからそれだけで」
そんな事は聞いていないと言ったクリステル嬢は「貴方の首にも赤い斑点があるわ」と強い口調で指摘する。
すると「しまった!昨夜付けられていたのか」と叫んで彼は首元を隠す仕草をしたのだ。
「……痕などないわよ、シリルのバカ!信じていたのに!」
「ク、クリス……ボクを引っかけのか」
裏切りを知りテーブルに突っ伏して泣き崩れた彼女の元へカフェにいた客達の視線が集まった、居たたまれなくなったシリルは婚約者を放置して逃げ帰った。
その後、財務省からシリル・ワロキエの在籍記録は抹消された。
さらにワロキエ伯爵家から彼の姿は忽然と消え失せ、行方がわからなくなった。
聖女は相手の唇に白い指を当ててそう言った、秘密が漏れたら蜜のように甘い睦み事も終いになると囁かれた男達は皆同じように頷き了承した。
ベアトリスの痺れる毒のような身体の虜になった者たちは「自分こそが愛されいる」と信じて疑わない。
公の場では取り澄まして聖女に接するので、淫らな関係にあるとは露見はしない。それでもどこか牽制し合う態度が時々見受けられる。
だが、彼らの婚約者や恋人の目は誤魔化せていない。
女性側は小さな綻びにさえ敏感であるし、歓談中にどこか上の空になっている相手を見てなにかを嗅ぎ取るのだ。
「貴方、最近へんだわ。私の話など半分も聞いてないでしょ」
「え、そんなことは……」
街のカフェで詰られているのは王子の側近の一人で財務省に勤めるシリル・ワロキエだ。
婚約者の令嬢に厳しい目を向けられてシドロモドロである、彼は他の側近たちと同様に聖女とただならぬ関係になっている。
アンドレ王子やダニエルとほぼ同時期に聖女に誑かされていたのだ。どいつもこいつも節操がない。
「城も街も美しい聖女の噂で持ち切りだわ、一目見た男は瞬く間に恋に落ちるそうよ。あなたもそうなのではなくてシリル?わたくしを裏切ったらどうなるかわかっていて?」
「え」
シリルの婚約者であるクリステル・ゾイデレン伯爵令嬢の父親は彼の上司にあたる人物だ。取り立てて才も無く大きな功績がないシリルが財務省に入れたのは彼女の父のコネである。
「わ、わかっているさ、来年には結婚するのだし、浮ついてなどいられない」
「そう?理解しているのなら良いわ。でも我が家の影響力を軽んじないことね」
クリステルはそう言ってテーブル中央に飾られた活花へ手を伸ばすと大輪の花をブチリと捥ぎ取った。それはフラフラとしている彼への警告だ。いつでもその頭を刈り取れるのだと……。
それを見たシリルは己の首あたりを撫でてグビリと唾を飲み込んだ。
「ねぇ耳にしていて?御学友だったマイヤール様の噂を」
「え、あぁダニーのことかい。たしか頬に殴られたような跡があったと同僚から聞いた」
眼鏡をかけた気難し気な友人の顔を思い浮かべて、シリルはそれがどうしたと肩を竦める。
「婚約者に浮気がバレたらしいわ、首元に何カ所も破廉恥な形跡があったのですって、未婚の間は互いに純潔でいるはずなのに、おかしなことよね?どこかの娼婦にでも付けられたのかしら、例えば胸が大きいオレンジ髪の女とか」
例えに出て来た女の特徴を聞いてシリルは額に血管を浮かべたかと思えば椅子から立ち上がり激高した。
「ベアトリス様を愚弄する言葉は許されないぞ!あの方は美しく聡明で艶やかで気持ち良くて」
「は?誰が聖女のことを言ったかしら、それと気持ちが良いとはどういう意味なの?」
聞き捨てならない台詞を吐いた彼をクリステルは睨みつける。
「あっ!いやその、特徴が聖女様に似ていたからそれだけで」
そんな事は聞いていないと言ったクリステル嬢は「貴方の首にも赤い斑点があるわ」と強い口調で指摘する。
すると「しまった!昨夜付けられていたのか」と叫んで彼は首元を隠す仕草をしたのだ。
「……痕などないわよ、シリルのバカ!信じていたのに!」
「ク、クリス……ボクを引っかけのか」
裏切りを知りテーブルに突っ伏して泣き崩れた彼女の元へカフェにいた客達の視線が集まった、居たたまれなくなったシリルは婚約者を放置して逃げ帰った。
その後、財務省からシリル・ワロキエの在籍記録は抹消された。
さらにワロキエ伯爵家から彼の姿は忽然と消え失せ、行方がわからなくなった。
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