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ディノという青年
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ディノと名乗った青年は同じく静かな場所を探して曲を作っていたと言う。そして、良ければもう一度歌を聞かせて欲しいと頼まれた。メルチェラは初対面の男に少し警戒したが、彼の瞳がとても優し気で悪人のように見えないと判断をする。
そして、再び先ほどと同じ旅人の無事を願う思いを込めた曲を唄う。緊張と相まってか、全てを唄い終わる頃には喉はカラカラになっていた。
「ふぅん、音程は外れがちだがとても綺麗な良い声だね。練習を重ねれば人の心を揺さぶる歌手に育つかもしれないね」
「え!?本当ですか!褒められたことなんて一度もないのですが」
褒められるとは思ってもいなかった彼女はとても嬉しそうに跳ねた、だが、男は喉を潤しなさいと苦笑する。
「ちゃんとケアしなければいけないよ、声が潰れたりしたら勿体ない」
「あ、はい、気を付けます」
水筒を借りたメルチェラは遠慮なくそれを飲み干した、一息ついて目線を上げると何処か憂いを帯びたディノの横顔があった。雰囲気からほんの少し年上な人なのだと気が付く。
「お水ありがとうございました、助かりました」
「ん?あぁ気にしなくて良いよ、水くらい魔法で出せただろうに余計な世話をしたかな」
暗がりとて身形から彼女が貴族と分かったらしい彼は苦笑する。
「いいえ、そんなことはありませんよ、魔法の水は何処か味気ないですもの」
「うん、まぁ確かにね。ありがたみは薄いかもしれない」
メルチェラはそろそろ帰宅する時間だと気が付き、その場を離れることを告げふわりと空に舞い上がった。
「会えて良かった、そのうちまた再会したら歌を聞かせてよ」
「はい、練習しておきますね」
共に過ごしたのはほんの僅かな時間だったが、楽しい出会いだったと二人は思った。
***
メルチェラがリーヴァ伯爵家の庭に降り立つと待ち兼ねていたらしい侍女が駆け寄って来て「お帰りなさいませ」と声をかけてきた。
「勝手してごめんなさいね、森で歌ったらスッキリしたわ」
「左様でしたか、それはようございました」
ふと街でのことを思いだし可憐な姿で歌を披露していたロメルダ嬢のことが頭に過った。婚約者のカルロは今も歌姫に夢中で自分のことなど忘れているのだろうと肩を竦める。
「あんな人だったかしら……最近はずっとこんな感じよね」
家同士が決めた婚約だったが、仄かな恋心が芽生え始めていた彼女はほんの僅かばかり胸の奥がチクリとした。
恋などするものではないと改めて思い知る。
「相手に期待するから痛むのよね……きっとそうなのだわ」
自分の気持ちを封印するかのように彼女はそっと目を閉じた。
翌日の昼頃、メルチェラのもとに小さな花束が届けられた。差出人はカルロだ。
添えられたカードを開くと癖のある字で”悪かった”とだけ綴られていた。とても反省しているとは思えない。
「ふ……どうせ子爵様から叱責されて嫌々書いたのね。花束だけのほうがマシだわ」
彼女はすぐに侍女へ花を渡し適当に活けておくように指示をした。
メルチェラは互いを思い合う相手でないと結婚する意味はないのではないかと考える。
「愛はなくとも情は育むものよね、そうやって家族になるのでしょう」
彼女は届いたカードをくしゃりと潰しゴミ箱へ投げようとしたが思いとどまる。
「お父様に見ていただきましょう……他所の女性に現を抜かす男が伯爵家に相応しいか判断を」
そして、再び先ほどと同じ旅人の無事を願う思いを込めた曲を唄う。緊張と相まってか、全てを唄い終わる頃には喉はカラカラになっていた。
「ふぅん、音程は外れがちだがとても綺麗な良い声だね。練習を重ねれば人の心を揺さぶる歌手に育つかもしれないね」
「え!?本当ですか!褒められたことなんて一度もないのですが」
褒められるとは思ってもいなかった彼女はとても嬉しそうに跳ねた、だが、男は喉を潤しなさいと苦笑する。
「ちゃんとケアしなければいけないよ、声が潰れたりしたら勿体ない」
「あ、はい、気を付けます」
水筒を借りたメルチェラは遠慮なくそれを飲み干した、一息ついて目線を上げると何処か憂いを帯びたディノの横顔があった。雰囲気からほんの少し年上な人なのだと気が付く。
「お水ありがとうございました、助かりました」
「ん?あぁ気にしなくて良いよ、水くらい魔法で出せただろうに余計な世話をしたかな」
暗がりとて身形から彼女が貴族と分かったらしい彼は苦笑する。
「いいえ、そんなことはありませんよ、魔法の水は何処か味気ないですもの」
「うん、まぁ確かにね。ありがたみは薄いかもしれない」
メルチェラはそろそろ帰宅する時間だと気が付き、その場を離れることを告げふわりと空に舞い上がった。
「会えて良かった、そのうちまた再会したら歌を聞かせてよ」
「はい、練習しておきますね」
共に過ごしたのはほんの僅かな時間だったが、楽しい出会いだったと二人は思った。
***
メルチェラがリーヴァ伯爵家の庭に降り立つと待ち兼ねていたらしい侍女が駆け寄って来て「お帰りなさいませ」と声をかけてきた。
「勝手してごめんなさいね、森で歌ったらスッキリしたわ」
「左様でしたか、それはようございました」
ふと街でのことを思いだし可憐な姿で歌を披露していたロメルダ嬢のことが頭に過った。婚約者のカルロは今も歌姫に夢中で自分のことなど忘れているのだろうと肩を竦める。
「あんな人だったかしら……最近はずっとこんな感じよね」
家同士が決めた婚約だったが、仄かな恋心が芽生え始めていた彼女はほんの僅かばかり胸の奥がチクリとした。
恋などするものではないと改めて思い知る。
「相手に期待するから痛むのよね……きっとそうなのだわ」
自分の気持ちを封印するかのように彼女はそっと目を閉じた。
翌日の昼頃、メルチェラのもとに小さな花束が届けられた。差出人はカルロだ。
添えられたカードを開くと癖のある字で”悪かった”とだけ綴られていた。とても反省しているとは思えない。
「ふ……どうせ子爵様から叱責されて嫌々書いたのね。花束だけのほうがマシだわ」
彼女はすぐに侍女へ花を渡し適当に活けておくように指示をした。
メルチェラは互いを思い合う相手でないと結婚する意味はないのではないかと考える。
「愛はなくとも情は育むものよね、そうやって家族になるのでしょう」
彼女は届いたカードをくしゃりと潰しゴミ箱へ投げようとしたが思いとどまる。
「お父様に見ていただきましょう……他所の女性に現を抜かす男が伯爵家に相応しいか判断を」
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