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噂
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本戦まで3週目を切った頃、良くない噂がたち登る。
それはライバルであるロメルダ嬢の話である、なんと彼女の歌うものがメルチェラと被ったと言うのだ。あまりの事に当の本人は打ち震えるしかない。
「そ、そんな、楽曲がかぶるだなんて、あんまりだわ」
メルチェラが選んだものは”恋は鼻歌のように”である、それは誰もが知る良い歌で、恋に恋する乙女ではあるものの主人公はいつかくる本当の恋に目覚めようとする物語を唄ったものだ。それは彼女にとって身の長けに合うものであった。
「ど、どうしよう……選曲は自由なことだけどあまりにも唐突で」
「大丈夫よ、メル。そう驚くことではないでしょう?」
「で、でも……あぁ、あの歌姫の声が……」
打ちひしがれる彼女は誰の言葉も聞こうとしない、ただあまりにも突飛過ぎて受け入れ難いと思ってしまう。
「それで、そんなにも悲しいと、どうしたら良いのかわからないのかい?」
森に籠り愕然としているメルチェラにディノ青年は「ふむ」と己も考える素振りをする、そして彼はその楽曲を奏でて見せた。すると彼女は「やめて頂戴!」と金切声で停止させる。
「うむ、メルチェラにとってはもうこの歌は歌えないということかな」
「……えぇ、その通りだわ。駄目よ、この曲は……歌姫ロメルダが歌うに相応しいのだわ」
彼女は憂鬱そうに頭を擡げ幾度も頭を振りながらそう宣う。もうこの曲は自身には無理だというかのように。
「仕方がない、キミの判断だからね。でもこのまま負け犬のようにする?」
「そんなわけがない!曲は彼女のものだけど諦めるわけがないわ」
彼女に目には闘争心が漲っており、負けはしないのだと物語っていた。曲を変えるのは難しいがそれにかけているようだ。
「うむ、わかったよ。それが本気であるならば私もとある曲を提供しようじゃないか、私の名曲の門出さ」
「門出……どのような曲ですか?」
「私がこの曲をつくりあげたのは怪我を負う前日のことだよ、そう、この曲を封印したあの日……」
「まぁ!?」
彼は封印したその曲を再び日の目を持たせようとしている、それを知った彼女は気を引き締める想いだ。その曲を本当に私が歌って良いものか問うが、揺るぎのない決意であると彼女は思い知った。
「私自身も変える時が来たのだと思う。辛い目を引きずってはいけないのだとね」
「……わかりました。貴方の気持ちを蔑ろにできません、この曲を心を込めて歌わせていただきます」
***
”あぁ 我が心に 咲き綻ぶ 恋の歌を 誰に伝えようか”
ロメルダ嬢が歌うその曲をうっとり顔で陶酔して聞き入っているのはカルロである。恋焦がれていたほどに彼女に心酔している彼には最高の誉である。
「どうかしら、この小節目にはいる所が味噌なのだけれど、私としては少し感情移入しやすいのよね」
「ええ!もちろんです、その感情移入ができてこそロメルダ様にぴったりといいますか云々かんぬん」
要は見惚れているだけの様子なのだがそんな事はどうでも良い。愛でることこそこが彼にとっては重要不可欠なのだから。
褒めたたえることに気を良くする彼女は彼を重用して側に置く、いま最も良い状態にあるのだと信じて疑わない。要はイエスマンを側に置き彼女を肯定する者を必要としている。文字通り彼女の才能は揺るぎないのである。
「最高の褒め言葉、至高の喜び!」彼女は羽化登仙の境にいる。
「ダメだといったじゃないか、そこは感情を剥き出しにしないと」
「は、はい、今一度おねがいします」
いまメルチェラは修練の場を自宅に変えてレッスンに励んでいる、これまでとは違う気迫の違いは顕著であった。他人を受け入れ難いらしディノは彼女以外を完全に遮断してのレッスンであった。
「なんという、凄まじい気の入れようですわ」
「あ、ああ。私達ですら受け入れないとは……」
せめて見守るためだけと廊下に居続けるのだったが、どうやってもバレてしまうのだった。拒まれた両親は悄気るほかない。
「諦めが悪すぎですよ、父上たちは……」
「そうはいってもだなぁ」
すでに成人して働きに出ているらしい長男は肩を竦めて「なるようにしかなりません」と言う。そもそもが未成年の女子が殿方とふたりきりなことを嘆くのだったが、それこそが余計なことなのだと長男は言った。
「娘を信じられませんか、気迫は伊達ではないのに」
「う、うむ。そういう事ならば」
渋々と言った体ではあったが、二人の両親は漸く認めざるを得ないのだった。
それはライバルであるロメルダ嬢の話である、なんと彼女の歌うものがメルチェラと被ったと言うのだ。あまりの事に当の本人は打ち震えるしかない。
「そ、そんな、楽曲がかぶるだなんて、あんまりだわ」
メルチェラが選んだものは”恋は鼻歌のように”である、それは誰もが知る良い歌で、恋に恋する乙女ではあるものの主人公はいつかくる本当の恋に目覚めようとする物語を唄ったものだ。それは彼女にとって身の長けに合うものであった。
「ど、どうしよう……選曲は自由なことだけどあまりにも唐突で」
「大丈夫よ、メル。そう驚くことではないでしょう?」
「で、でも……あぁ、あの歌姫の声が……」
打ちひしがれる彼女は誰の言葉も聞こうとしない、ただあまりにも突飛過ぎて受け入れ難いと思ってしまう。
「それで、そんなにも悲しいと、どうしたら良いのかわからないのかい?」
森に籠り愕然としているメルチェラにディノ青年は「ふむ」と己も考える素振りをする、そして彼はその楽曲を奏でて見せた。すると彼女は「やめて頂戴!」と金切声で停止させる。
「うむ、メルチェラにとってはもうこの歌は歌えないということかな」
「……えぇ、その通りだわ。駄目よ、この曲は……歌姫ロメルダが歌うに相応しいのだわ」
彼女は憂鬱そうに頭を擡げ幾度も頭を振りながらそう宣う。もうこの曲は自身には無理だというかのように。
「仕方がない、キミの判断だからね。でもこのまま負け犬のようにする?」
「そんなわけがない!曲は彼女のものだけど諦めるわけがないわ」
彼女に目には闘争心が漲っており、負けはしないのだと物語っていた。曲を変えるのは難しいがそれにかけているようだ。
「うむ、わかったよ。それが本気であるならば私もとある曲を提供しようじゃないか、私の名曲の門出さ」
「門出……どのような曲ですか?」
「私がこの曲をつくりあげたのは怪我を負う前日のことだよ、そう、この曲を封印したあの日……」
「まぁ!?」
彼は封印したその曲を再び日の目を持たせようとしている、それを知った彼女は気を引き締める想いだ。その曲を本当に私が歌って良いものか問うが、揺るぎのない決意であると彼女は思い知った。
「私自身も変える時が来たのだと思う。辛い目を引きずってはいけないのだとね」
「……わかりました。貴方の気持ちを蔑ろにできません、この曲を心を込めて歌わせていただきます」
***
”あぁ 我が心に 咲き綻ぶ 恋の歌を 誰に伝えようか”
ロメルダ嬢が歌うその曲をうっとり顔で陶酔して聞き入っているのはカルロである。恋焦がれていたほどに彼女に心酔している彼には最高の誉である。
「どうかしら、この小節目にはいる所が味噌なのだけれど、私としては少し感情移入しやすいのよね」
「ええ!もちろんです、その感情移入ができてこそロメルダ様にぴったりといいますか云々かんぬん」
要は見惚れているだけの様子なのだがそんな事はどうでも良い。愛でることこそこが彼にとっては重要不可欠なのだから。
褒めたたえることに気を良くする彼女は彼を重用して側に置く、いま最も良い状態にあるのだと信じて疑わない。要はイエスマンを側に置き彼女を肯定する者を必要としている。文字通り彼女の才能は揺るぎないのである。
「最高の褒め言葉、至高の喜び!」彼女は羽化登仙の境にいる。
「ダメだといったじゃないか、そこは感情を剥き出しにしないと」
「は、はい、今一度おねがいします」
いまメルチェラは修練の場を自宅に変えてレッスンに励んでいる、これまでとは違う気迫の違いは顕著であった。他人を受け入れ難いらしディノは彼女以外を完全に遮断してのレッスンであった。
「なんという、凄まじい気の入れようですわ」
「あ、ああ。私達ですら受け入れないとは……」
せめて見守るためだけと廊下に居続けるのだったが、どうやってもバレてしまうのだった。拒まれた両親は悄気るほかない。
「諦めが悪すぎですよ、父上たちは……」
「そうはいってもだなぁ」
すでに成人して働きに出ているらしい長男は肩を竦めて「なるようにしかなりません」と言う。そもそもが未成年の女子が殿方とふたりきりなことを嘆くのだったが、それこそが余計なことなのだと長男は言った。
「娘を信じられませんか、気迫は伊達ではないのに」
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渋々と言った体ではあったが、二人の両親は漸く認めざるを得ないのだった。
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