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ロンパルの名を聞いた祖父が不機嫌に顔を歪めた、かつて孫娘を蔑ろに扱った元婚約者を敵視している。
「ジーン、まさか一人で会おうなどしないだろうな?」
「はい、お爺様。そもそも屋敷に入れるつもりもありませんわ、ですがあるものを餞別に差し上げようかと思いつきましたの」
良い笑顔をする孫娘に、祖父は昏い笑顔を返した。
「なるほど、アレを押し付けるのだな!フハハハッ!」
「はい、従者総出で動くのでしばし退席することをお許しください」
「良い良い!私も物見に着いて行こう」
断罪劇にノリノリの祖父が立ち上がった、叔父が窘めたが聞く耳を持たない。
一方、突然訪問したロンパルは一向に開かない門扉の前で歯噛みしていた。
『くそ!まだ廃嫡された報せは知らんはずなのに……客間にも通さないとは!やはりジーンは性根が腐っているのだな!まぁ良い、再び婚約を結んでベンス家を継いでやる。その後は躾けて従順な妻にしてやろう。正妻はジーンに置いて執務を押し付け、頭は悪いが美しいヴェネを愛妾にしてやろう。完璧じゃないか!いや、当主になれたら他に愛人も作って遊び放題だ!ふふ、廃嫡した父を見返してやるぞ、純利益が億単位で転がり込むのだからな。なにもかもを掌握した気分さ!』
婚約破棄された側だという事を、すっかり抜け落ちた頭で都合の良いシナリオを作っている。
それから、数十分待たされて現れたのは大きな荷を担いだ執事達だった。
その背後の正面玄関の最上部で、ジーンと思われる女が立っていた。
だが、かつて知った昏い顔の彼女ではない。血色が良くなり艶やかな肌と見事な金髪を靡かせている。
傍らには威厳に満ちた男性がエスコートしている、ベンス一族を統べるノーマン・ベンスだとロンパルは気が付き震え出した。
『あぁ、ここへ来るべきではなかった……なにもかもが遅かった』
ノーマン侯爵の厳しい双眼に見据えられ、ただただ委縮するばかりのロンパル。
追い打ちをかけるようにジーンが口を開いた。
「よもや、歓迎されるなんて思ってませんよね?平民ロンパル、残念ね早馬があなたより先に来ていたのよ」
「あ、あぁぁあ!うわぁぁあああ!」
すべて見透かされていたと知ったロンパルは、頭を抱えて羞恥と後悔で頽れた。
「無一文となった貴方に素敵な餞別を用意したの、受け取って」
その言葉を合図に、執事達が大きな荷を門扉の外へ出した。
ドサリと下ろされたソレはグニグニと蠢いた。良く見れば丸みを帯びた人型だった。
「……んー!んんん!」
くぐもった声が聞こえてきた、頭らしい箇所を剥ぐと肥え太った顔が現れた。猿轡を噛まされ苦悶の表情でロンパルを見つめてくる。
「ま、まさかヴェネ!?なんでこんなにブサイクに!」
「大人しくなったヴェネにたくさんご馳走をあげたらこうなったの、可愛がりすぎちゃったみたい」
ジーンが悪びれもなく肩を竦めて説明した。
「可愛がって醜いブタになるのかよ!おかしいだろう!」
「あら、豚は見た目に反して体脂肪が少ない生物なのよ?豚に失礼だわ」
ジーンがそういうと、ベンス家一同が大笑いした。
「な、なんてこと……なんてことを」
「豚というなら別にかまわないわ、贅沢から離れて慎ましい生活を送ればきっと元に戻るわよ。そうだわ娼館にでも売れば生活費の足しになるかもね?好きになさいな」
「……」
なにも言えなくなったロンパルだったが、縋るような目をジーンに向けた。
しかし、期待した顔はそこにはなく、とびきり美しく変貌したジーンは冷たい表情だった。
悪あがきはもう通用しないと、ロンパルは漸く諦めた。
いままで見せたことのない美しい笑みで彼女はロンパルを見送った。
「ジーン、キミは……そんなに美しかったのか。知らなかったよ。いや、知ろうとしなかったのか」
全てを諦めたロンパルという平民は、押し付けられた荷を引き摺って相応しい場所へと消えて行った。
「ジーン、まさか一人で会おうなどしないだろうな?」
「はい、お爺様。そもそも屋敷に入れるつもりもありませんわ、ですがあるものを餞別に差し上げようかと思いつきましたの」
良い笑顔をする孫娘に、祖父は昏い笑顔を返した。
「なるほど、アレを押し付けるのだな!フハハハッ!」
「はい、従者総出で動くのでしばし退席することをお許しください」
「良い良い!私も物見に着いて行こう」
断罪劇にノリノリの祖父が立ち上がった、叔父が窘めたが聞く耳を持たない。
一方、突然訪問したロンパルは一向に開かない門扉の前で歯噛みしていた。
『くそ!まだ廃嫡された報せは知らんはずなのに……客間にも通さないとは!やはりジーンは性根が腐っているのだな!まぁ良い、再び婚約を結んでベンス家を継いでやる。その後は躾けて従順な妻にしてやろう。正妻はジーンに置いて執務を押し付け、頭は悪いが美しいヴェネを愛妾にしてやろう。完璧じゃないか!いや、当主になれたら他に愛人も作って遊び放題だ!ふふ、廃嫡した父を見返してやるぞ、純利益が億単位で転がり込むのだからな。なにもかもを掌握した気分さ!』
婚約破棄された側だという事を、すっかり抜け落ちた頭で都合の良いシナリオを作っている。
それから、数十分待たされて現れたのは大きな荷を担いだ執事達だった。
その背後の正面玄関の最上部で、ジーンと思われる女が立っていた。
だが、かつて知った昏い顔の彼女ではない。血色が良くなり艶やかな肌と見事な金髪を靡かせている。
傍らには威厳に満ちた男性がエスコートしている、ベンス一族を統べるノーマン・ベンスだとロンパルは気が付き震え出した。
『あぁ、ここへ来るべきではなかった……なにもかもが遅かった』
ノーマン侯爵の厳しい双眼に見据えられ、ただただ委縮するばかりのロンパル。
追い打ちをかけるようにジーンが口を開いた。
「よもや、歓迎されるなんて思ってませんよね?平民ロンパル、残念ね早馬があなたより先に来ていたのよ」
「あ、あぁぁあ!うわぁぁあああ!」
すべて見透かされていたと知ったロンパルは、頭を抱えて羞恥と後悔で頽れた。
「無一文となった貴方に素敵な餞別を用意したの、受け取って」
その言葉を合図に、執事達が大きな荷を門扉の外へ出した。
ドサリと下ろされたソレはグニグニと蠢いた。良く見れば丸みを帯びた人型だった。
「……んー!んんん!」
くぐもった声が聞こえてきた、頭らしい箇所を剥ぐと肥え太った顔が現れた。猿轡を噛まされ苦悶の表情でロンパルを見つめてくる。
「ま、まさかヴェネ!?なんでこんなにブサイクに!」
「大人しくなったヴェネにたくさんご馳走をあげたらこうなったの、可愛がりすぎちゃったみたい」
ジーンが悪びれもなく肩を竦めて説明した。
「可愛がって醜いブタになるのかよ!おかしいだろう!」
「あら、豚は見た目に反して体脂肪が少ない生物なのよ?豚に失礼だわ」
ジーンがそういうと、ベンス家一同が大笑いした。
「な、なんてこと……なんてことを」
「豚というなら別にかまわないわ、贅沢から離れて慎ましい生活を送ればきっと元に戻るわよ。そうだわ娼館にでも売れば生活費の足しになるかもね?好きになさいな」
「……」
なにも言えなくなったロンパルだったが、縋るような目をジーンに向けた。
しかし、期待した顔はそこにはなく、とびきり美しく変貌したジーンは冷たい表情だった。
悪あがきはもう通用しないと、ロンパルは漸く諦めた。
いままで見せたことのない美しい笑みで彼女はロンパルを見送った。
「ジーン、キミは……そんなに美しかったのか。知らなかったよ。いや、知ろうとしなかったのか」
全てを諦めたロンパルという平民は、押し付けられた荷を引き摺って相応しい場所へと消えて行った。
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