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声を聞かせて
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侍女のフリをして接触を図るアナスタジアであったが、茶の時間以外で夫と会うことは叶わないままだった。
お茶を淹れる際にも侍女としてなるべく声を掛けてはいたが、彼からの反応はとても薄い。
「塩過ぎますわ旦那様ぁ……」
侯爵家へ嫁いで半年も経つと言うのに一向に進展が見られない、このままでは会話のないまま夫婦の生涯は閉じてしまう。危機感を覚えたアナスタジアは頭と胃を痛め塞ぎ込むことがしばしばあった。
「せめて御声だけでも聞きたいわ」
近頃は茶の時間になっても書斎へ入室する許可さえ下りなくなっていた。茶器を乗せたワゴンを廊下に置いておくように執事が言付かったらしい。
侍女に扮する意味もなくなったアナスタジアは、ただ虚しく侯爵夫人としての時間を過ごすのみになっているのだ。
そもそも怪物扱いされているサディアスの元へなど茶会や夜会の誘いはまったくない。
せいぜい御用聞き達の時候挨拶が綴られた事務的な手紙が届くだけだ。
いくら社交嫌いな彼女でも屋敷に籠りきりの生活では精神衛生はよろしくない。
気を利かせた執事が庭園へ出られてはと進言した、気休めでしかなかったが部屋でぐずぐずしているよりはマシと思って外に出た。
外気はすっかり秋らしくなっており、吹き付ける風は少し寒かった。
嫁いだのは春先だった、いつの間にこんな時期になっていたのかと彼女は驚く。
「夏をどこかに落としてきたみたい」
その声を拾ったメイドが「今年は冷夏でしたので」と答えた。思い返せば曇り空ばかりが続いていたことを今更に気が付いたアナスタジアはある事を危惧する。
「小麦と野菜が高騰するのではなくって?早急に手を打たねば大変だわ!」
「はい、領地ではすでに食糧難の兆しがでています。その理由もあってか旦那様は余計に書斎から出ておられません」
すでに冷夏の対処に当たっていたらしいサディアスは食事も抜きがちだという。
領民の生活も気になるがその前に夫が身体を壊さないか心配になる妻である。
「こんな時こそ栄養を摂っていただかないと!」
空回り気味の妻だが手軽に食事がとれるサンド物を具沢山にして用意させ、自ら腕を揮って栄養ドリンクを作るのだった。
「ビタミンたっぷり、さわやか飲むヨーグルトよ!是非これを朝食と夜食にだしてあげて」
「畏まりました、咀嚼するのすら煩わしい方ですので喜んで召し上がるでしょう」
侍女の反応に気を良くしたアナスタジアは野菜ジュースも飲みやすくと試行錯誤するのである。
もとより小食らしいサディアスは具沢山サンドを見て嫌そうに顔を顰めたらしい。
しかし、妻が考案した飲むヨーグルトと蜂蜜たっぷりの野菜ジュースは気にったのかおかわりをしたのだと聞いた。
「良かった!あぁ……季節の変わり目は体調が崩れるもの……ね……ふえへ」
「お、奥様!?」
張り切り過ぎたアナスタジアは自分こそが変調をきたしていたことを後回しにし過ぎていた。
居室にて倒れた彼女はそのまま寝込み、高熱を出して1週間も目を覚まさなかった。
お茶を淹れる際にも侍女としてなるべく声を掛けてはいたが、彼からの反応はとても薄い。
「塩過ぎますわ旦那様ぁ……」
侯爵家へ嫁いで半年も経つと言うのに一向に進展が見られない、このままでは会話のないまま夫婦の生涯は閉じてしまう。危機感を覚えたアナスタジアは頭と胃を痛め塞ぎ込むことがしばしばあった。
「せめて御声だけでも聞きたいわ」
近頃は茶の時間になっても書斎へ入室する許可さえ下りなくなっていた。茶器を乗せたワゴンを廊下に置いておくように執事が言付かったらしい。
侍女に扮する意味もなくなったアナスタジアは、ただ虚しく侯爵夫人としての時間を過ごすのみになっているのだ。
そもそも怪物扱いされているサディアスの元へなど茶会や夜会の誘いはまったくない。
せいぜい御用聞き達の時候挨拶が綴られた事務的な手紙が届くだけだ。
いくら社交嫌いな彼女でも屋敷に籠りきりの生活では精神衛生はよろしくない。
気を利かせた執事が庭園へ出られてはと進言した、気休めでしかなかったが部屋でぐずぐずしているよりはマシと思って外に出た。
外気はすっかり秋らしくなっており、吹き付ける風は少し寒かった。
嫁いだのは春先だった、いつの間にこんな時期になっていたのかと彼女は驚く。
「夏をどこかに落としてきたみたい」
その声を拾ったメイドが「今年は冷夏でしたので」と答えた。思い返せば曇り空ばかりが続いていたことを今更に気が付いたアナスタジアはある事を危惧する。
「小麦と野菜が高騰するのではなくって?早急に手を打たねば大変だわ!」
「はい、領地ではすでに食糧難の兆しがでています。その理由もあってか旦那様は余計に書斎から出ておられません」
すでに冷夏の対処に当たっていたらしいサディアスは食事も抜きがちだという。
領民の生活も気になるがその前に夫が身体を壊さないか心配になる妻である。
「こんな時こそ栄養を摂っていただかないと!」
空回り気味の妻だが手軽に食事がとれるサンド物を具沢山にして用意させ、自ら腕を揮って栄養ドリンクを作るのだった。
「ビタミンたっぷり、さわやか飲むヨーグルトよ!是非これを朝食と夜食にだしてあげて」
「畏まりました、咀嚼するのすら煩わしい方ですので喜んで召し上がるでしょう」
侍女の反応に気を良くしたアナスタジアは野菜ジュースも飲みやすくと試行錯誤するのである。
もとより小食らしいサディアスは具沢山サンドを見て嫌そうに顔を顰めたらしい。
しかし、妻が考案した飲むヨーグルトと蜂蜜たっぷりの野菜ジュースは気にったのかおかわりをしたのだと聞いた。
「良かった!あぁ……季節の変わり目は体調が崩れるもの……ね……ふえへ」
「お、奥様!?」
張り切り過ぎたアナスタジアは自分こそが変調をきたしていたことを後回しにし過ぎていた。
居室にて倒れた彼女はそのまま寝込み、高熱を出して1週間も目を覚まさなかった。
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