完結 偽りの言葉はもう要りません

音爽(ネソウ)

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奸智

ケチなコソ泥の真似事をさせられていたデニスは止む無く手を汚していくのだった。
そのうち大胆になった組織は大きな事件を起こした、田舎のアジトを棄て大都市の銀行を襲ったのである。

だが所詮は田舎でのさばっていた小者の集団に過ぎない、人数はいても大所帯を動かす能力がなかったのは致命的だ。悪事の計画が漏洩し、実行犯が現場へ突撃するや警戒して潜んでいた憲兵隊たちによって一網打尽にされた。
その中には愚かなデニスの姿もあった。
犯罪組織の下っ端にまで身を落とした名門オルコット伯爵の子息は逃げ回った揚げ句に辿り着いた先は牢獄だった。
愛の為に逃避行したというのに彼は自由を奪われた、なんとも皮肉なことだろうか。


しかし、罪人どもを養うほどその国は甘くなかった。捕縛された彼らは犬死が決定している戦争の場に駆り出されたのだ。死ぬのが嫌で逃げたというのに結局デニスは戦地の最も危険な前線へ飛ばされたのだ。
「俺はいったい何のために国を棄てたんだよ!こんなことってあるか!」
彼がどれほど後悔しようがどうにもならない。

粗末な皮鎧を支給されて戦場に向かったデニスは鉛玉が飛び交うそこで疲弊しながらもなんとか生き延びた。そして、顔半分と右半身を怪我した彼は使い物にならないと判断されて野営地の飯場と医療部隊の補給をやらされた。
ある日、手が足りないと医療部から要請がありデニスが手伝うよう指令が出された。
そこは硝煙と血の臭いで充満していた、前線から撤退して来た兵たちのほとんどが虫の息で横たわっている。
そこに息苦しそうな若者がデニスを呼ぶ、水を与えるとその兵は力なくも微笑んで礼を述べる。

「……ボクは間もなく神の許へ行くだろう、だから託けを頼めないかな?」
「え?あぁ……構わないぞ」
自分と顔立ちが似ていた兵に己の行く末を重ねて、絆されたデニスは快く引き受けた。生国に置いてきた家族に写真と手紙を届けて欲しいと願い、デニスに縋る。
手紙の宛名を見たデニスは彼がダウゼン侯爵家の次男だと知って驚いた。
やがてこと切れた兵を確認すると胸元に光る銀のプレートが彼を誘惑する、酷似した容姿と年齢を見比べて良からぬ奸智を働かせたデニス。

戦死者のプレートを奪って己の識別プレートを遺体の首につけ直した。
亡き彼になりすまし、名を偽って国へ戻ることにした彼は汚名を注ぎ生き直すことにしたのだ。
戦犯となった不名誉を嫌った男は侯爵家次男として舞い戻ることになるのだった。

***


奇しくも生国に帰国する切符を手に入れたデニスは戻ってすぐに侯爵家の事を徹底的に調べた。
幸か不幸か、戦死した彼の家は年老いた祖母しか存命していなかった事を知る。
本物のポール・ダウゼンの親と兄は戦場へ赴いていた間に病気で儚くなっていたのである。
戦場から戻った孫を祖母は「よくぞ戻ってくれた」と大泣きした。
視力が弱っていた祖母は顔半分怪我を負った偽物ポールに気が付かなかった。まんまとなりすましを果たしたデニスは声色を変えて「戦地で喉を焼かれた」と嘘を吐き完全にダウゼン夫人を騙したのだ。
託された家族写真も動かぬ証拠となりデニスはポールとして生きることになった。

「やった、やったぞ!俺は返り咲けた!おっといけない”ボク”だったな、ハハハハッ」
祖母一人となっていた大きな邸宅には侍従の多くが暇を出されていた事も幸いした、偽ポールは誰にも咎められることなく侯爵家に居ついたのである。

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