短編ここに上げようかな

みいらさん

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わたしの大切なもの

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「貴女なんて大っ嫌い。死んじゃえば?」
そんな言葉が、目の前の彼女から放たれる。そんな彼女の顔は暗い教室でよく見えないが、より暗く、声の端が消え入るように小さかった。つい最近まで仲良しで朝あったら挨拶して、お昼ご飯を一緒に談笑しながら食べたり、下校するときは一緒に帰ったりしたその彼女が。人とはここまで強い言葉を使うんだなと、素直に驚いたので同時に私の中のなにかにヒビが入る音がした。そんな言葉を吐き残して、そそくさと彼女は教室をあとにする。残されたのは、急に降り出した雨と、誰もいない教室。
今日は、雨の予報だったかなぁ····

ことの原因は、数時間前に遡る。いつも通り朝起きて、準備をしていると、スマホの通知音がなるかと思ったが、授業中などに音がなってしまうと少し面倒くさいので通知音を切っていたのだった。何ならマナーモードである。お母さんには通知音、せめてバイブレーション位はさせなさいと口酸っぱく言われていて、私自身も耳にタコなのであるが、なんというか、毎回毎回通知音の設定を変更するのが面倒くさいのである。いや、あのねわかる。言いたいことはわかるよ?でもさぁ~、いちいちポチポチ押すの面倒くさいのわかる?わからない?知らん。感じろ。
さてさて、1人、3文、猿···そんな言葉が似合うような芝居を自分の部屋でやりながらスマホに手を伸ばす。
···何かの軋んだ気がした。

···内容を要約すると、放課後の教室で会えないかという内容だった。会話の相手は同じクラスの男の子。
ふう。嫌な予感がするなぁ。でも、ばっくれるのもなぁ。どうしよう。ベッドの上の枕に顔をうずめ、
わー、なのか、やーなのかはたまたそれ以外の音なのか、そんな声を出す。そして、起き上がり寝起きボサボサの髪の毛をいじる。いや、自分が思っている内容とは違うかもしれないし、相手も相手だ。何なら、この相手のほうが問題的には大きいかもしれない。
はぁ。悩んでいても時間がパッと過ぎて急に夕方になってそのお話の時間過ぎちゃったみたいな、そんな状況になるってんなら一考の余地があるが、そんなはずはなく、何なら急に時間が過ぎることには過ぎるのであるが、数分単位で進みやがるもんだからたちが悪い。もう。いつも起きる時間全然過ぎてるじゃん。時間とはいじわるである。
パパっと身支度を整える。朝起きて、顔を洗って髪を整えて、パジャマを脱いで、シャツ、スカート、
ブレザーみたいな感じで着ていく。まあ、ブレザーは暑いし厚いから脱いで手にそれと教科書類の入ったバッグを持って下に降りる。私の部屋は2階に上がって通路を右に曲がったところにあるのだが、学校に教科書を置いておけるロッカーがあるおかげか、荷物を持って階段を登り降りするのはあまり苦ではない。
1階は和室、リビング、ダイニングみたいなかんじだ。リビングと廊下を分ける扉を開けると、そこにはいつも通り、ではないお母さんが慌ただしそうに準備をしていた。どうやら急な会議が入ってしまったらしい。
····?のではなく?ただ、忘れていて今日の朝になって気がついた?なんてこったい。
朝ご飯におにぎりと昨日作ったお味噌汁あるから~、あとお昼はごめんだけどこれでどうにかして~、と私に千円札をわたしてくる。そうして、先程私が入っきた扉を反対方向に抜け玄関に飛び出していった。鍵がかかっているのを忘れていたらしく押すタイプの扉にぶつかったのであろう、鈍い音がした。
あれは痛い音だ····
さて、私もご飯食べますかね。あまり悠長にしているとまた、時間の意地悪さを身を以て体感することになってしまう。そそくさと、ダイニングに無造作に転がされた丸いおにぎり。まだ熱を持っていたためその場に放置してお味噌汁をコンロに火をつけ、加熱を始める。冷蔵庫に入っていたが、量が少ないためあまり温まるまでに時間はかからなかった。さて、なにか足りないな。味気ない。卵が冷蔵庫にあるのは確認済みだ。時間もあまりない。でも、目玉焼きは嫌い。さて、ここから導き出される答えが諸君にわかるかな?
ふふん。そう!卵焼きだ!
···早く作るなら作ろう。テンションがあまり高くないせいか、上がりきっていないテンションが上がるのも、素に戻るのもいつもより早い。さて、玉子焼きくらいはもうお手の物である。
過去の情景がすぐに思い出せる。母から、「女子たるもの。お料理位はできないと!」
·····?私の疑問符がありありと現れるような顔を見て察したのであろう母は、苦笑いする。
「なぁ~に~?そのお顔はぁ~?そう。私は何なら下ごしらえも我が娘よりも下手です!」
胸を張って言われても····。でも、と母は続ける。
「やれることは多いほうがいいと思うの。女の子が料理しなきゃいけないなんて発想はもう古いと思うし、私もそういう考え方はしない。こういうことならやってみるのもほぼただみたいなものだし、やってみたら案外面白かったりするからさ?失敗しても、一緒に直していこ~?やればできるって言うけど、わたしはねぇ、やって自分にあっていたり興味が出たらやる気が出る!だと思うの。だからね?」
いつも、ふやふやなお母さんがいつもより饒舌で、私の背中を、一歩を踏み出すそうとしてくれるこの言葉は、私にとって宝物だ。
····あ、油断してた。卵をかき混ぜ、フライパンに流し込んでから、そんな回想を挟んだおかけでなんか固めな卵焼きができてしまった。まあ、いい。一品は一品だ。食卓につく。食卓向かって正面にあるテレビが、今更ながらついていることに気がついた。先程熱を感じたおにぎりは先程よりも冷たくなっており、テレビのニュース番組を移す画面の左上隅、そこに表示される時刻はもういかなきゃやばいよって伝えていた。伝えていたというより、ニュース番組のキャラクターがチョロチョロと時刻表示の周りを動き回っていた。
これが私が学校に行くタイミングなのだが、まだ私の食事は半分ほどしか済んでない。さて、どうしようか、まあ、やることは急ぐことのみなのではあるのだが、そこで、いつも見ない占いが目に止まった。私はいつもこんなの迷信だろ、その言葉を見聞きしてしまったがために意識して言葉に出すから現実になってしまうんだろう。これは持論だが、母の言葉で何度も私は変わったと思うから、あながちこの考え方も間違っていない。いつも乗る電車の時刻まであと15分だ。別段次のに乗っても遅刻するなんてことはない。ないのだが、いつもと違うとちょっと嫌だ。
が、気になってしまう。先の件もあるし。
···結局自分の順位は最下位。待てども暮らせども募るのは時間が刻一刻と減っていく感覚と、それに伴う焦燥のみ。しかも、気をつけることは人間関係だと?んなこぁわかってんだよぉ~。ラッキーアイテムはふわふわオムレツ。····ああ、今日は、うん。考えるのをやめよう。
そのほうが今の状況的にも精神的にも建設的だ。

····結局、駅まで1キロ徒歩十数分のところを6分ほどで移動する羽目になり、もちろん走った。この季節は朝でも少し暑く、汗っかきの私ならなおさらだ。
まあ、いつもの電車に乗っているわけで、そりゃいつも出会う人間とも出会うわけで、まあ、今あまり意識したくない人が、彼女がいるわけで···
いつもよりもがなんだか挨拶が、笑顔が何か、何かが違う気がする。
軋みは大きくなりやがて歪みに····

そして、放課後。放課後の部活動が活発になる時間。夕日に照らされ、活気あふれる外とは裏腹に、
ここは、壁や天井によって夕日の一部が遮られ、誰もいない教室に1人。まるで、壁を隔てて違う世界が広がっているみたい。そんなところにメッセージの主がやってきた。まあ、そんな彼のお話は私の予想の斜め上を行く。····そんな淡い期待はすぐに打ち砕かれて、
予想どぉ~り。もう、あれだ。ストレートだったね。予想ど真ん中。嫌な予想ほど当たる。
····ん?何か違和感を感じる。が、目の前の彼に集中しなくては流石に失礼というものであろう。
まあ、私は今はなんとはなしに生きていて、彼氏を作るのも落ち着いてからでいいと考えているタイプの人間なので、丁重にお断りする。断られるとは思っていなかったようで、彼の動きが私の言葉を理解したと同時にピタッと止まる。まあ、そうだろう。彼はこのクラスで1、2をあらそうほど人気者だ。まあ、私が言うのもあれだが、高嶺の花?なんだろう。私では釣り合わない。····というのもあるが、本音は、たしかに彼は容姿は整っていると言ってもいいほどのやつだ。たしかに私は面食いだ。でも、私は好きとは言えない。
なにせ何も、彼の顔と声、性格。それくらいしか知らない。そして、私の友達の中に彼を好いている人がいる。何も知らない私が、彼をよく知っている彼女を差し置いて横取りするなんて、考えられない。取ってしまうとしても、私が本当に彼を知って、それから、それからの話だ。だから、私が断るのには十分すぎる理由だった。
ピタッと止まった彼の時間は動き出したようで、焦った表情も陰りこそ見えるがいつもどおりのような表情に戻る。気まずそうに、お友達からよろしくね。部活の途中だから行くよ。じゃあ、また月曜日、と言い残して、素早く教室をあとにする。
そんな彼を尻目に私は私について、いや、正確に言うと私の先ほど感じた違和感について、だ。
···この違和感。どこかで。必ず感じたことがある。勘だが、多分あたっている。探る。探る。探る。私の記憶をひっくり返して、一つ一つ思います。今日の朝、今日の昼。はたまた、それよりも前か。どこだ。どこだ···
そんな作業が完遂されることなく、扉を激しく開ける音で意識が現世に戻されたためであった。そこには、肩で息をする彼女の姿があった。私はなぜだが、彼女の顔を見ることができなかった。

そして、現在。
またもや一人孤独に、座る人がいないと、物をおいてくれる人がいないと存在意義がない、と主張する秩序の中に整列された椅子と机が夕陽も相まって、なんだかその光景はものすごく寂しいものに感じた。
なんて、冷静に現状までの経緯と現在の自分の身の回りに目を向けることで、自分の平静を装う。
···ああ。これだ。この感覚だ。この違和感。
これは、いつも、特に何度も繰り返している行動、それを、その中にいつもしない行動、向けない意識それをやったときに感じる異物感。歪む感じ。それが、軋むような感覚の正体。それの悪化したバージョンがさっき感じた、割れるような感覚の正体。
ああ。これは、積み重ね。朝、メッセージを受け取ったことで“意識してしまったこと”、いつも仲良しの彼女に“後ろめたい感情を抱いてしまったこと”、いつも見ない占いを“食い入るように見てしまったこと”、いつも歩く道を“走って急いだこと”、“いつも気にしない教室の変化に気がついてしまった”、それで時間を食ったこと。そして、今なお響く彼女から発せられた死という単語。しかもよりによって私に向けられている。
母からの言葉が宝物という彼女にとって、言葉は他の皆とは明らかに重さが違う。受けるダメージが違う···

そこからあまり覚えていない。学校の下校の合図があったことは覚えている。そこから、歩いていったはずなのだけれど、何故か影が何かに引っ張られているみたいに重くて、重くて、いつもだったら駅から出て10分くらいの道のりなのにその道が今日はとても長く辛いものに感じた。唯一の希望は母であった。いつもはふやふやな人だが、大切な場面では何か助言をくれたりするすごい人なのだ。だから。だから···。

家に帰り、私が何かを話す前にいつもの雰囲気から少し硬いものに変化させて、私の言葉を一部を意識的にかもしれないが除いて真剣に聞いてくれた。
でも、そんな母からかけられた言葉は慰めの言葉···だけではなかった。
「たしかに、そんな事言う人はいけないけれど、でもね。いつも仲が良かったんでしょう?だから、私はなにか事情があるんだと、思うなぁ。だから、死のうなんて思わないで。でも、その娘のお話もちゃんと聞いてあげほしいな。なにか理由があったのかもしれないよ」
この瞬間自分の足元が崩れるような感覚があった。彼女の言葉を聞いて、私の壊れかけた足場を支えてくれていた私の味方であった母からも自分だけではなく、彼女を養護するような言葉。敢えて自分が劣勢に立つような情報を伏せて慰めてもらおうとまでした。彼女が怒るようなこと、その理由、わかってたのに。
なのに。なのに···。
彼女を満たすのは、喪失感、羞恥心、大きいのはその2つ。
未だに成長途中の彼女の心は、その大きな出来事によって少しならず壊れてしまった。

その次の日、いつも朝から起きて、家事やら掃除やら課題やら、何かしらやっている彼女の姿はなく、代わり自分の心を守るのだと主張するように布団をかぶる彼女の姿があった。
何故か、やる気が出ない。いつもやっていること、今は別にやらなくってもいいって、いや、やりたくないって思う。から、やらない。これまで感じていたような不快感はあまり感じない。その日はそれ意外大したことをやることなく無為に時間を潰した。
日曜日。感じるのは昨日と同じような虚無感?脱力感?でも、明日はいかないといけない。テストがあるのだ。いかなきゃ。そんなとき、スマホの通知を知らせるランプが光る。毎度のごとく、通知関係の機能をオフにしているためにいつもはこういうときに気が付けないけど今日は何をしているわけでもないから、気がつくことができた。
····変な感覚。
でも、そんな感覚を打ち消すような衝撃が走る。
それはメッセージの送り主を見たためであった。
そして、内容は月曜日放課後会えない?というものだった。これは、とても嫌だ。何を言われるか、猿でもわかるであろう。こんなの、ないよ····

そして、月曜日時間はこういうときに限って早く進むようで、ソワソワしていたらあっという間に放課後。たが、彼女の言う事を聞く気にもなれないし、会うのも正直きつい。クラスで目を合わせたとき生きた心地がしなかった。
うん。帰ろう。きついのはわかりきっている。
···から。やめよう。スタスタと教室後方のドアから出ようとする。そこに響く扉を開く音。誰かはわかる。
その人、彼女は待ってと私を静止する。何故か声が震えている。聞こえづらいが水のようなものが床を叩くのを耳にする。そんなに私のことが···。私は彼女の顔を見ることごできない。怖いから。
そして、彼女は言葉を紡ぐ。
「ごめん!」と。
目を見開く。これは、私が思っていたものと違う。というか斜め上とかではなく最早正反対だ。
一度流れ出た言葉とその水は止まらないようでとめどなくその勢いを増していく。
「あんなひどいことを言って、あなたを傷つけてしまってごめんなさい。でも、悔しかったの。私が好きってアピールしてもなんにもアピールしていないあなたに彼は夢中だった!私があんなにっ····やっているのに。そして、その彼が、涙ぐみながら教室の方から走ってくるのが見えて、そこには振ったあなたがいてついカッと来てしまったの。本当にごめんなさい」
言葉尻は弱々しくて、水もポタポタと落ちている。
····もしかして、と私が見上げるのと同時に、この涙でクシャクシャな顔で踏みよってきて私に抱きつきながら最後にこういうのだ。
「私とまたお友達になってくれる?」
その時、何かが自分の中でずっと腑に落ちたような気がした。それと同時に、私の頬にも熱いものが流れる。私は心の底から「喜んで」という言葉を人生で使った。

その後、くしゃくしゃのお互いの顔を見合って笑い合って、そしていつもみたいに仲良く帰えることができた。
その後の母の言葉を借りるなら、私は良くも悪くも完璧すぎる。こうって決めたら一直線に突き進む。いつもこうだからこうなのってその姿勢は素晴らしいよ。いいことでもある。でもね、かえってそれはとても自分を締め付けたり、もしくは誰かを締め付けるものになってしまうの。だからねぇ。たまには息を抜いて、自分を労ってあげたり、いつもと違ったっていいじゃなぁい?今回みたいに、まぁ、今回はあまり良くないことが続いちゃったみたいだけどぉ、新しい発見があるかもよぉ?だそうだ。

いつも通りでいること、いつも通りでいようとすることそれも才能なの。でも、いつもどおりじゃなくたっていい。逃げた先でなにか見つかるかもしれないからねぇ。

こうして、また私の宝物が増えたのであった。
今回は2つかな?宝物って表現はあんまり良くないかもだけどね···
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みんなの感想(1件)

橘花やよい
2023.12.29 橘花やよい

大切なものはなかなか気づきづらいですね。悲しいですが……でも、主人公はいま気づくことができたので、これからの人生で後悔のないように生きてほしいなと思います。

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