学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ

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後編

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 夏の休暇が終わり、カイルは再び学園に帰って来ていた。
 自分の部屋に戻りホッとする。ずっと他人の所へお邪魔していたからか、なんだか休暇明けなのに家に戻ってきたような気分になる。
「カイル久々だな!休暇は楽しんだか?」
 マイクが部屋に戻ってくるなり、元気に声を掛けて来た。
「マイク、元気にしてた?休暇は楽しかったよ」
 マイクは手に持っていた荷物をベッドに置き、まっすぐにカイルに近づいてくる。そしてカイルの肩に手を置き、真剣な表情をして聞いてきた。
「休暇、楽しかったか?」
「楽しかった…って、今言ったよな?」
「いや…ほら…ルーンの所に行ってただろ?どうだったのかな~と…」
「あぁ、避暑地の別荘に連れて行ってもらえたから、気楽に過ごしていたよ。居たのも数日だったし、少し旅行してきた気分だった」
「いやその…だいぶ、仲良くなったんだよな…?」
「? まあ仲良くなったと言われても、別に休暇前と何も変わらないけど…何が言いたいんだ?」
「だって、ルーンが休暇前にわざわざ教室に来てまで、お前と過ごすことを宣言してただろ?何か進展があったのかと…」
「別に進展も何も…なんだよ、今までそんな風に聞いてきたことなかったのに」
「いや、お前がルーンと二人で過ごす事になったから…二人は正式に付き合ったのかと」
「待て、ちょっと待って。どうしてそうなる?マイクなんでそんなこと言うんだ?僕とルーンが付き合っていると思っていたのか?」
「俺はまだ付き合ってはいないと思っていたけれど、もう付き合ってるみたいなものかと…周りはもう、二人が付き合っていると思っていたから、何も言ってこなくなっていただろ?」
「え…本当にちょっと待って。二人で過ごしたら好きになるって、じゃあ僕はマイクと二人で過ごしていたら、付き合っていることになるのか?」
「そうじゃなくて…だってルーンが、誰が見たって分かりやすいほど、お前に好意を寄せているだろ?」
「…」
 まさか周りにそんな風に思われているとは思わなかった。
 久しぶりに学園に戻って高揚した気持ちが、一瞬にして下がってしまった。
 僕とルーンが付き合っている?身分の差がこんなにもあるのに?いや、それよりも、ルーンが好意を寄せているように見えるって…普通に過ごしているだけなのに、みんなは一体何を見てそう思ったんだ?
 僕は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
 今日からどうやって、この学園で過ごしたらいいのだろう。

 あれからマイクの誤解は解いたが、周りの誤解までは解くことは出来ず、ルーンとの付き合いも何も変わらなかった。
 今更ルーンに関わるなと言うつもりもないし、一緒にいて前ほど苦じゃない。周りが勘違いしてくれているほうが僕にもぶしつけに関わってくることもなく、こちらの方が楽なので、もう深くは考えない事にした。
 僕はこの学園で、毎日勉強して、たまに庭園で土をいじって過ごすだけだ。ただ傍にルーンが居るだけだ。特に問題もないなら、このまま過ごしていればいいと思っていた。
 けれど、僕の楽観的な考えは、見事に外れる事となる。

 それは新しい授業で、剣術の授業が始まった事がきっかけだった。
 選択制だったので、別に剣術でなくても良かったのだが、せっかくなのでやってみたことのない事に挑戦しようと思ったのだ。けれど、剣術の授業を選択している生徒は、ほとんどが経験者だった。
 貴族のたしなみとして、小さいころから学んでいる者が多いらしく、初心者の僕は全くついていくことが出来なかった。
 いつものように、ルーンとの昼食でそのことを言うと、ルーンが何故か嬉しそうにしていた。
「カイルにも出来ない事があったんだな」
「なんだよ。出来ないことの方が多い…というか、なんでそんなに嬉しそうにしてるんだ?喧嘩売ってんの?」
「いや、俺は小さいころから習っていたし、ある程度実力があるからな。カイルには負けないだろうなと思ったんだ」
「…」
「怒ってるのか?」
「ルーン、そういう事だったら頼む。少し僕に教えてくれないか?」
「…いい、けど…」
 正直、今から練習してもすぐに成長出来ないと分かっている。けれど、何もしないのは嫌だし、せっかくだからやれるだけやってみようと思ったのだ。

 そしてその日から、ルーンと剣術の特訓が始まった。
「カイル、重心が前に偏っている」「もっと脇をしめて」「力み過ぎだ。力を入れるタイミングを覚えるんだ」
 ルーンは真剣に指導してくれて、毎日のように付き合ってくれた。
「カイルは筋がいいな。経験者には敵わないが、悪くない」
「どうも。元々体を動かすのは嫌いじゃないし」
「なぜ剣術を習わなかったんだ?」
「必要最低限の事しか学んでこなかったし、狩りだったり実用的な事の方が必要だったから」
「狩りができるなら上等じゃないか」
「いや、おそらくルーンが想像している狩とは違うと思う。現実的な狩りだよ。罠を張ったりしてさ」
「今度また…うちに遊びに来た時に、狩りにでも行くか?」
「それもいいかもしれない」
「…っ、約束だぞ?」

 そうして剣術の特訓をする日々が続いたが、ある日練習を終えルーンと話していると、ふとルーンが黙り込んでしまった。
 どうしたのかとルーンを見ると、何故か目を逸らされる。
 実は最近、ルーンは僕と目が合ったとき、視線を逸らすようになっていた。
 剣術の練習をしている時は、練習に集中しているから気にならないが、普通に会話している時に不自然に視線を逸らされると、やはり気になってしまう。
「ルーン。僕が何かまずいことでもしたのか?」
「いや、別に…」
「だったらいいけど」
「…」
 何か言いたそうにしているが、ルーンは何だかためらっているようで言葉にしない。
 以前のルーンなら、自分の意見を抑えるなんてことしなかったのに。
 成長を感じつつも、今は、はっきり言って欲しいと思う。
「もし言いたいことがあるなら言って欲しい…そういえば、ずっとこうして練習に付き合ってくれているよな。何かお礼しないと。欲しいものとか…全部持ってるだろうし…」
「別にお礼なんて…」
「勉強だって、ルーンも出来るし…やっぱり僕がルーンにあげれるものなんて無さそうだな」
「…っ欲しいもの、というか…してほしいというか…」
「ん?何かある?」
「…約束して欲しい…」
「何を?」
「…っ…来年のダンスパーティーでは、俺とペアに…なって欲しい」
「…っ」
 僕はその瞬間、必死に堪えようとしたが、どうしても我慢できずに噴き出してしまった。
「…っ、ペアって…まだ…根に、持っていたのか…ふふっ、そんなに断ったの…嫌だったのか…くくっ…」
 僕はお腹を抱えてうずくまる。
 ルーンのことだから、自分の事で笑われていると機嫌が悪くなるに違いない。
 今でも、何故笑うのかと怒鳴るだろうと思ったが、ルーンは何も言ってこない。
 僕が涙を拭きルーンを見ると、ルーンは何故か、呆気にとられたような顔をしていた。
 その表情も可笑しかったが、僕は笑いを堪えながらルーンに声を掛ける。
「どうした?別に仮ペアだろ?いいよ、もう今更だし」
「…」
「どうしたんだよ?笑いすぎて怒った?」
「いや…初めて、笑ってくれた…」
「? 別に笑ったことあったと思うけど」
「違う。愛想笑いじゃなくて、本当に俺の事で、俺と一緒にいて、楽しそうに笑ってくれた」
「そう…かな?」
 今までルーンと過ごす時間が多くなっていたと思っていたけれど、僕はそんなに笑っていなかったんだろうか?
 そんな事を考えていたからか、すぐ目の前にルーンが近づいているのに、僕は気が付いていなかった。
「わっ…びっくりしーーー」
 僕が声を出したその瞬間、ルーンが僕に唇を重ねていた。
「---!?」
 あまりに突然の事で、思考が停止してしまう。
 ルーンは両手を僕の肩に置き、僕は固まってしまっていた。
 実際はほんの一瞬だったかもしれないが、我に返った時、僕は思いっきりルーンを突き飛ばしていた。
「…っ」
 ルーンはよろけたが、体制を立て直して僕を見る。
 その表情はとても驚いていたが、それ以上に僕も混乱していた。
「なに…して…」
「…悪い」
 互いに黙ってしまう。
 僕は置いていた剣を拾って、その場から立ち去ろうとする。
「おい、待てーーー」
 ルーンが僕の手を掴んだが、僕は振り返らずに言った。
「離して…」
「…」
「今この手を離してくれないと、僕は二度と君に関わらない」
「…っ」
 ルーンは握った手に少し力を込めたが、やがて力を抜いて僕の手を離した。
「…悪かった」
 ルーンが小さく呟いたが、僕は答えることなくそのまま部屋へと戻っていった。
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