転生オメガの奮闘記

そらうみ

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オメガであるということは

先輩の話

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俺とアリスは家に帰ってから、部屋で2人っきりになっていた。
俺はレイに言われた事を簡単に話した。
するとアリスは何事もないかのように、

「何が問題なのだ?レイと番になればいい」

いやいやいやいやアリスちゃん!?!?!

「え!?俺アリスと婚約してるよね!?え!?俺って本当に…アリスに利用されてただけ!?!?」

「利用していない、とは言い切れない関係だったから強く否定は出来ないが。
違うんだ、もうずっと前からこうなる事が分かっていたから、特に驚きもないんだよ」

「ずっと前って…俺がレイとで出会った頃?」

「いや、レオンスと出会った頃からかな?」

え!?!?!初対面から!?!?!

「どう言う事!?」

「ん?レオンスはオメガだろ?
私はレオンスと出会って初めてオメガの香りを知ったんだ。とても幸せな気持ちになれたよ。
でも本能的に、私はレオンスの運命の番じゃない、
運命の番ならきっともっとオメガの、レオンスの香りを感じるのだと思ったんだ」

「運命の番…」

「建国の物語があっただろ?神に選ばれた番を、運命の番と言うんだ。
運命のように…まるで出会うために生まれてきたような2人、そんな番を運命の番というのだと思う。
私も上手く説明は出来ないけどね。
別に私とレオンスも番にはなれる。でも私たちはきっと運命の番ではないんだ。
これはアルファの直感かな?」

「じゃあアリスは…元々俺と結婚する気がなかったって事?」

「いや、私は本気でレオンスと結婚しようと思っていたよ。
その一方で、レオンスにはどこかに運命の番が居て、
レオンスがその番に出会えば、私は身を引くしかないと思っていた」

「アリスはそんな風に思っていたんだ…」

「ああ、レオンスがレイといる時はいつも香りが違ったしね。
そしてレオンスはレイに出会ってから…特に最近かな?レオンスの雰囲気が変わったと思っていたんだ。
悪い意味ではないよ?
何だか私たちに気を遣っていたような感じが無くなり、すごく自然体になった気がするんだ。
レオンスがそんな風に変わったのは…レイのおかげだろ?」

俺の香りって違っていたんだ。
そしてアリスの言う通り、俺は泣いてしまったあの日以来、すごく気持ちが軽くなっていた。
そういえば、最近は態度や口調も変わってきている気がする。自分のことも俺って言っちゃってるし。
…今のレイに対する情緒不安定は置いといて。

「でもアリスが俺と結婚しなければ、アリスは他の誰かと結婚しなくちゃいけない。騎士の夢は?」

「それは大丈夫。
ルーク王子が時間を稼いでくれたおかげで、私が嫁ぎそうな家の者はみんな結婚したり婚約したりしている。
私の家族も、今更無理にでもレオンス以外の者と結婚させようとは思わないし、それなら騎士となり身を立てた方が良いと思っている。
私もそのつもりで過ごしていたしね」

さすがアリス。
でもアリスの事を抜きにしても…やっぱり…。

「俺が今レイに感じている気持ちは、俺がオメガだから?」

「もちろんオメガであることも関係するとは思うが、レオンスは自分の気持ちがオメガであるからだと思っているんだね。
それに関して私が言えることは何もない。でも同じオメガの話なら参考になるんじゃないかな?」

「…フィルさん?」

「ああ。せっかく近くに同じオメガの人がいるんだ。一度話をしてみてはどうだ?」

「俺がフィルさんと2人になれるかな?」

「なれるよ。今度王宮へ行く時、私がレイと一緒に過ごそう。その間に2人で話をしたらいい。
私は久しぶりにレイに剣の相手をしてもらうとしよう。
私もまだ、自分よりも頼りない者にレオンスを渡す気はないからね」

そう言って、アリスはいたずらっぽく微笑んだ。



後日、いつも過ごす王宮の部屋で、俺はフィルさんと2人っきりになっていた。
アリスはレイを誘い、何処かへ行っている。

俺はフィルさんにレイから言われた事を話し、
オメガである事について、番についてどう思っているか聞いてみた。

「番ね…レオンス君はレイへの気持ちがオメガだからだと思っているんだね?」

「そう…だと思っています…。
自分でもオメガというのが何なのか分かっていなくて…レイの側に居たいという気持ちは、俺自身の気持ちというより、俺がオメガだからのでしょうか?」

「そうだなー。まぁ私自身、オメガとアルファの相互関係は互いに香りを感じるなーくらいにしか思っていないよ」

「それだけ???」

「うん。いい香りがする人だったら誰でも恋愛対象になる訳じゃないでしょ?
でも、香りは本能的に自分の好きな人を知る手段だとも思っているけどね。

レオンス君は、レイの香りが変わってしまったら、レイの事嫌いになる?」

「嫌いになんか!…なりません。
確かに香りは凄く好きだから、変わってしまったら正直残念だけど…。でも…」

「そうだよね。香りを感じるだけが全てじゃない。
香りも好きになるきっかけ、好きの中の一つであると思うよ。

アルファとオメガの神話って、どちらかと言えば番でない人の為の物語じゃないかな?
私はルーク王子が好きだけど、アルファだからとかはあんまり考えないようにしている。
好きになった人がアルファだった。って感じかな?

正直私自身も、初めて自分がオメガと知った時はすごく嫌だったんだ」

「え!?フィルさんが!?」

「そうなんだ。私がアルファだと分かった瞬間、周りの人の態度や環境が大きく変わってしまったからね。
実はそんな状況に凄く腹を立てていたんだ。私自身は今までと何も変わらないのにね。
そしてそんな私に、5歳のルーク王子が求婚する。それから世界が変わったよ」

「運命の番に気づいた…とかですか?」

「いや全然。王子に運命の番だと言われた時、こんな子供と結婚する訳ない、この子何言っているんだろって思ったよ。
そしてその場で思いっきり笑ってしまった」

「え!?そうなんですか!?」

「そうそう。人を好きになるのってやっぱり心の話だよね。周りはアルファやオメガということに凄く注目しているけれど。
私はアルファとオメガはきっかけの一つであって、私は、私自身がルーク王子を好きだと思っているよ。
私は楽しい事が好きなんだ。ルーク王子はいつも私を楽しませてくれる。だから一緒にいたいんだよね。
そんな感じかな?」

そう言ってフィルさんは俺に微笑んでくれる。

「レオンス君も、一度アルファやオメガを考えずに、レイを1人の人間として見てあげてよ。
もちろん人として好きだとは思うけれど、これから一緒に生きていきたい、側にいたいと思えるか考えてみて」

「分かりました。お話が聞けて良かったです。もう少し考えて…レイに向き合いたい…」

「ははっ。レオンス君は真面目だねー。
あ、一つ言い忘れていたけれど。アルファとオメガは互いに香りを感じるだろ?
ただ…どうやら運命の番の香りは他とは違うんだ。これは本人達しか分からないけれど…。
私はね、誘惑の香りと呼んでいるよ。レオンス君も気をつけて」

誘惑の…香り?
レイの香りは近くで感じたくはなるけれど…あれは誘惑…なのか…?

困惑している俺に、フィルさんは意味ありげに微笑んでいた。
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