転生したら、HEROになれるはず

緋咲 ツバメ

文字の大きさ
2 / 230
プロローグ

問いかけ

しおりを挟む
【何でこんな事になったんだろう?】
勢いよく、何度も振り降ろされる木剣を木の棒で受けながら、そう自問自答をした。

確か、この前まではこんな荒事とは無縁な毎日を過ごしてたはずなんだ。
そう、この前までは。
とりあえず、その頃の話から始めよう。

伊原了イハラリョウ、32歳、職もなければ、彼女もいない。
職がないと言っても、ニートとは違うんだ。
つい一ヵ月前まではちゃんと働いてたんだ。
ただ会社が別の会社に吸収されて、人員整理に合っただけなんだ。
給料は安かったけど、仕事自体もそれなりに楽だった。
特に仕事にやりがいを感じなかったし、偉くなってみたいとは思ったが、特に頑張った事もない。
本気を出すのはまだこんな所じゃないと、惰性的に毎日を過ごしてた。
職を失っても、特に焦る事もなかった。
でも、ハロワにも顔を出してたし、このままでいいとは思ってた訳じゃないんだ。
ただ俺が本気を出すのに相応しい場所。
そう、きっかけさえあれば俺はやれるんだよ。

そう思いながら、ベッドに入り、いつもの様に妄想を始めた。
俺に相応しい場所や設定を頭の中で繰り広げる。
知らないうちに眠りにつくのが日課みたいなモノだった。
あの日もそのまま、眠りにつくはずだった。
と言うか、眠りについたつもりだった。

<………そんなに今の人生が嫌なら、人生をやり直しますか?     はい/いいえ>

夢の中でゲームのキャラにでもなったのかと思い、迷わずに“はい”を選んだ。

<じゃあ、新しい人生で何が欲しい?>

何が欲しい?生まれてくる家とかで差はつくし……でも、敷かれたレールを歩くのもな。
才能とそれを生かせれる環境があれば、俺だってやれるんだ。

<才能って、何の?>

分かんねぇけどさ、才能だよ、才能。

<チッ……才能な、サービスしといてやるよ。環境については問題ないよ。平和なこの人生とは真逆な世界での人生をあげるよ。>

えっ?舌打ち?それに口調が変わったし、この右上の数字減ってないか?

<その数字が0になると、新しい人生の始まりだよ。>

そう言い終わると、同時くらいに数字は0になった。

目を覚ますと、ぼんやりと天井が見えた。
見たこともない木の天井。
まだ夢の中なのかと思いながら、ゆっくりと目を閉じた。
その瞬間、閉じたはずの瞼の裏に。

<せっかくの新しい人生の始まりだぞ。>

幻覚だ、幻覚。

<幻覚じゃないし。前の人生みたいに惰性に生きたかったら、生きれば良いけど……今のお前の事だけ教えとくな。>

何か偉そうだよな、こいつ。

<リョー、家族:母親とは死別。父親は不明。現在、1人暮らし。今日、めでたく12歳になる。>

おい、ちょっと待て………天涯孤独なのか?最悪なリスタートじゃねぇかよ。
やり直しだよ、こんなの。

<やり直し?出来ねぇよ。まぁ、そういう事で。>
 
おい、ちょっと待てよ。
そのまま、反応はなくなった。
だが、それと同時に家のドアが荒っぽく開かれた。
「おい、リョー……いつまで寝てんだ。今日から剣術の稽古だっつただろう。」
音に驚き、ドアの方を向くと、ヒゲ面のいかつい親父が立っていた。
突然の事過ぎて、何も分からずにポカーンとしてると。
「何、寝ぼけてんのか?」
毛むくじゃらの手でオレの頬を挟んだ。
その瞬間、空中に
《ブライ(村長)母親没後の後見人。》
「いてぇよ。ちゃんと起きてるよ。剣術?」
そう言いながら、何か不安な予感が。
【ブライって、どう見ても日本人じゃないよな。
何より窓から見える景色が日本じゃない。剣術って、なんだよ。】
「お前も12歳になったんだ、そろそろ剣くらい出来ないと。」
ブライは何も理解出来ない俺の襟を掴み、水瓶の前に。
とりあえず顔を洗い、水瓶に映った自分の顔を見た。
ブライとは違い、日本人の顔に近かった。髪は黒かったし、鼻もそんなに高くなかった。
まぁ、イケメンではなかったが、前の人生よりはマシであった。
顔を洗い終わった俺に。
「ほら、朝飯食って、行くぞ。」
どうやら、拒否する事は不可能らしい。
仕方なしに飯を口に押し込み、着替えた。
朝飯はパンとスープだったが、はっきり言えば、あまり美味しくはない。
ブライに連れていかれるまま、村のはずれにある広場へ。
そこでは十人近くの子供(俺と同じくらい)が木剣を振っていた。
ブライは子供たちの前にいるひょろっとした青年に。
「ちょっと遅れたが、こいつもよろしく頼むわ。」

オレは軽く頭を下げたが、その青年に木剣を向けられ。
「おぃ、挨拶も出来んのか?」
【えぇ~、見た目と違って、体育会系?】
そう思ってる内に、木剣を渡されて。
「遅刻した罰として、素振り三百回だ。」
昔、剣道を少し習ってた事があったが、木刀と違い、木剣と呼ばれるこれを振るのはシゴキでしかないんだろ。
その証拠に他の子供の目が憐れみに満ちていた。
ブライは口を挟もうとしたが。
「私のやり方に従えないなら、他へ行ってもらって結構。」
村長より偉いんだな、このひょろ造。
仕方なしに木剣を振り始めたが、数回振る度に。
構えが違う、声が出てない、気持ちがこもってないと罵声と共に細いしなる枝でケツを殴られた。
やる気はどんどん削がれていき、百を数える前に。
「辞めた。こんなのやってられっか。」
オレはこんな事をする為に生まれ変わったんじゃねぇ。
だが、その瞬間、自分の体が吹き飛ぶのが分かった。
思いっきりひょろ造に頬を殴られたのだ。
人って、こんなに飛ぶんだなって。
地面に叩きつけられ、しばらく立ち上がれなかった。
「お前に拒否権などない。」
倒れ込んだまま、考えた。
【何でこんな理不尽な事を言われてるんだ?前の人生が嫌で生まれ変わったはずなのに。】
だが、そんな自問自答はひょろ造によって、強制終了させられた。
それからボロ雑巾になるまで理不尽な剣術は続いた。
逃げ出そうにも疲れ果てて、ブライに担がれて、帰宅し、気付けば翌朝。
そして、ブライに連れてこられ、ボロ雑巾になる。
そんな日々が半月過ぎた頃、何とか自分の足で家に帰れるようになった。
しかも、明日はひょろ造が私用で剣術も休みらしい。
逃げ出すなら、明日しかないと床についた。
〈よぉ、頑張ってるな。〉
また閉じたはずの瞼に文字が。
【悪いが、明日の為に寝ないとダメなんだよ 。】
〈お前さ、この村から出て、何処に行くんだ?〉
【そんなの出てから、考えれば良いだろ。】
〈そっか?でも、村の外はモンスター出るぞ?〉
【えっ?モンスター?モンスターって、あのゲームとかで出てくる?】
〈うん、それにプレートないと、他の村にも街には入れないから。〉
【プレート?なんだよ、それ。何よりこの人生、何なんだよ。俺の想像と全然ちげぇんだけど。】
〈お前の想像?そんなの知らねえよ。でも、少しは頑張ってるから、プレゼントやるよ。〉
【プレゼント?何だよ、それ。】
〈明日になれば分かるよ。早くここから出たいなら、頑張るんだな。じゃあな。〉
そう文字が浮かぶと、反応はなくなった。

多少、慣れてきたとは言え、やはり疲れていた様で気がつくと、外はすっかり明るかった。
だが、何をしていいか分からなかった。
この村で気がついてから、ただ剣術と睡眠の繰り返しで今の状況すら把握してなかったのだから。
とりあえず家を出て、村を探索でもするかと歩き始めると道の向こうから3人の剣術仲間?が来ていた。
特に関わる必要もないかと、素通りしようかと進んでいたが、向こうはちがったようだ。
「おい、こんな所を馬鹿みたいな顔で歩いてないで、剣術の練習でもしたら、どうなんだ?」
その言葉の意味が一瞬、分からなかったが……。
いや、分かったが、こんなにあからさまにケンカって売られるものなのか?
構わず無視しようと、通り過ぎようとしたが、それが気に入らなかったのか布に包まれていた木剣を取り出し、こちらを向いて、構えていた。

3対1な上に、こちらは丸腰。
周りを見渡しても、あるのは少し長めの木の棒のみ。
何も無いよりかはマシかと仕方なしに棒を拾うと。
「やる気か?」
そう言いながら、木剣を振り下ろしてきた。
これはボコボコになるなと覚悟したが、思うよりその剣速は遅かった。
だが、相手は三人で下手に攻勢に出て、刺激する訳には行かず、木剣を受け止めるのに徹した。
【何でこんな事になったんだろう?】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...