憑拠ユウレイ

音音てすぃ

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第八章 憑拠リスタート

五十二話 新作リバイブ

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「(来いよ、ぶっ飛ばしてやる)」

僕はファイティングポーズをとる。
「おぉ!テスト成功だ!やっと寝れるー」
麗乃は歓喜の叫びを上げているが、自分が殺されそうだということを理解していない。
「(うるせぇ、速く下がれ!)」
「人体模型が動いたところでこの水刀があれば問題は無しだ。待ってろ、バラバラにしてやる」
要君は僕に近づいてくる。
この準備室みたいな狭い空間では、麗乃を守りながら水刀を避けるのは難しいだろう。
「(窓ガラスでも割って飛び降りるか……)」
「あ、そうだ、人体模型君、君には様々な機能を搭載したよ。さぁ、音声認識システムよ、ブーストダッシュを見せて!」
なんだそれ!?でも、それを使えばここから脱出できるかもしれない。
「(おい、音希田、その何とかブーストは使えるぞ。俺がやる。お前はそこの姉ちゃんを抱えろ。そして走る姿勢を作れ)」
人体模型先輩の命令通り、嫌がる麗乃を左腕で抱えた。
「何すんの?離せー!」
「(黙ってろ)」
そして、人体模型の足がいきなり動き出した。
「何!」
すると、ものすごい速度で要君の横を通り過ぎた。その風で要君のフードが脱げた。
「え、要君?」
「バレちゃったか……まぁ殺すから関係ないか」
麗乃も自分が置かれている状況が少しわかったようだ。
「廻君、校庭に急ごう」
真敷ちゃんの一言で僕は校庭に向かう。要君に先を越されるわけにはいかない。
麗乃を安全な場所に連れていかないと。
僕は麗乃を抱えたまま廊下を走った。
「……人体模型のくせに……どこに向かう気だ?」

ーーー逃がすーーー
僕は校庭に到着した。そして麗乃を下ろす。
「私を守ってくれたの?いゃ、そんなプログラムしたことないんだけどなぁ。ま、ありがとう」
「(呑気だな)」
僕は、すかさず僕の体に近づく。
「(真敷ちゃん、これを剥がせばいいんだよな?)」
「そうそう。丁寧にね」
「(わかった)」
「人体模型君、何してんの?」
僕は“殺”と書かれている札を剥がした。すると、体が人体模型から引き剥がされる感覚がした。


「ハッ……生き、生き返った……」
意識が戻り、目を開けると、黒い空があった。手を動かすと僕の体が動いた。
「廻君、何寝てんの?」
「悪い、今すぐ帰ってくれ。死にたくなかったら」
「要君のこと?でも、廻君は?」
いきなり麗乃は心配そうな表情になる。
「大丈夫だ。ぶっ飛ばして、必ず頭を冷やさせる。人体模型先輩、麗乃を……連れていってくれ」
「(へいへい。任せろって)」
「ありがとう」
人体模型先輩は麗乃を担ぎあげた。やはり麗乃は嫌そうだ。
「これは、僕の戦いだ」
「……馬鹿野郎」
麗乃は最後に暴言を言い放って、人体模型先輩に連れて行かれた。
「これでいいんだ……」
「廻君って女の子思い?」
真敷ちゃんが僕をからかう。
「そうかもな。でも、要君はヤバイから。それだけだ」
「ふーん」
人体模型先輩の足の速さのおかげで、まだ要君には、場所は特定されていない。さて、どうしたものか。
「廻君、ここ。隠れそうじゃない?」
「お、いいな!」
僕はそこに隠れることにした。

ーーー水刀ーーー
「チッ、葛城の妹……どこに行った……!」
要君は手探りで探している。
「ここか!」
一年C組のドアを斬り裂いた。しかし、そこに麗乃はいない。
「家に帰ったとか……あの人体模型ならありえるか……」
要君は、札を取り出し、宙に飛ばした。その札には“鳥”と書かれている。
すると、札は消滅し、数羽の烏が出現した。
「葛城を探せ」
要君が部屋の窓を開けると、鳥達は元気に飛び出した。
「必ず殺す……」
しばらく歩くと、要君は校庭に出た。
「後は伝達を待つだけか……」
要君は地面に腰を付けた。

「……廻君、チャンスだ、いっけー!」
「うおおおお!」
僕は真敷ちゃんの合図と共に、校庭の植木の影から飛び出した。僕が隠れていたのはここだったのだ。
助走十分。僕は、僕に気づいた要君が立とうとする所を目掛けてサマーソルトを決めた。
要君は大きく宙を舞った。それと同時に水刀が要君の手元が離れ、校舎の屋上に突き刺さった。
「先手必勝……どうだ!」
「畜生、まわるん、あの人体模型は札を剥がすためだったのか」
どうやら気づいたみたいだ。
「姑息な真似するじゃん。もう容赦しない」
そう言った要君は、黒いパーカーを脱ぎ捨てた。黒いシャツを着ている。腰にはウエストポーチ。そして、両腕には怪我人さながらの包帯が巻かれていた。
「要君、もしかして、中二病だったのか!」
「違ぇよ!これが本気の一歩手前だ」
それなら僕も本気で行こうとして、ポケットからアタック9を取り出そうとすると、“仮”と書かれている札が入っていた。
「あれ、無い!」
「あー、あの物騒なやつなら君が寝ている間に川に捨てたよ」
アタック9を捨てられた。大きな武器を失った。ハルに何て言おうか。
「こちらから行くよ!」
要君の拳は今までより速く、避けられなかった。それは僕の顎に直撃した。
「これが文化部と運動部の違いさ。才能では埋められない差がついたのさ」
恐らく十メートル程吹き飛ばされ、地面に体が叩きつけられた。
「ふ、ふらふらする。気分悪い。痛い……」
「そりゃそうさ。札の力さ」
札?そんなものどこにもないじゃないか。どこにある?
「ここだよ」
要君は右腕を左手で指で示す。
僕は、包帯の下に、無数の札が貼られているのが推測できた。
のには札が一番効くのさ。さぁ、どうする?」
要君の笑顔が戻ってきた。
「廻君……頑張って!」
真敷ちゃんは心配そうだ。
「うるさいクソ女」
「あんた見えてんの?」

その時だ。
「廻くーん。援軍だよー」
人体模型先輩と麗乃が校庭に近づいてくる。
「廻君、新作の到着ですよ!」
ハルが自転車に乗ってその後ろから追ってくる。
そして、校庭に入ると、ハルは、自転車から飛び降り、袋と思われる物を僕の方へ投げた。
僕はそれを受け取った。開けてみると、アタック9とは少し違う何かが入っていた。迷わず身につける。
「お前ら何で来た。と、言いたいところだが、ありがとう。後で何が食べたい?」
要君の笑顔が消えた。
「いつもこうだ。どうやったら殺せるんだよ……あの約立たずの鳥どもめ……」
「おい、お前ら下がってろ。こっからは……死んでからじゃないと入れねぇからよ!」


再戦からの、最終戦である。
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