如月デッドエンド

音音てすぃ

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006.2/17-2/18

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「麗乃ぉ、お姉ちゃんだよーチュチュ」
「おかえり姉さん、くっつきすぎ……」

 音希田廻が燃えない男と死闘している中、葛城優乃は葛城麗乃に会っていた。玄関から靴を脱ぎ捨て麗乃に抱きついていたのだ。

「久しぶりのお姉ちゃんだぞー」
「うぅ……来る時寒くなかった?」
「うん、夜は雪が止んでたからね。どうだ今日はもうご飯食べたのか?」
「だってもう十時だよ?食べたって。姉さんが遅いんだよ」
「ははは!だよな!私もお腹いっぱい!」
「……あれ?灯油ないな」

 麗乃が玄関先に置いてあるはずのポリタンクが無いことに気づいた。それを優乃ははぐらかした。

「ごめんなさい。あれはお姉ちゃんが借りたの。ちょうど灯油切らしてしまって……あぁ大丈夫、明日には満タンにして返すから」
「うん?まぁいいや。とりあえず靴直してね。あとお茶飲む?」
「飲むのむー!お姉ちゃんはできる妹がいて嬉しいなぁ……そうだ、荷物部屋に置いてくるから待っててね」

 優乃は麗乃を離して二階の自室へ行った。麗乃と向かい側にある部屋だ。未だに軽い掃除をしてもらっていてすぐに泊まれるのは親に感謝している。
 扉を閉めて照明を付けた。変わらぬ内装に心が落ち着く。上着を掛けて荷物を置いた。
 時計を見ると22:22だった。
 燃えない男は上手くやっただろうか?心配はしていない。雪も止んでいたし、何より音希田廻ではあの男には勝てない。
 1階に降りて麗乃からお茶を受け取った。

「ありがとう麗乃」
「どういたしまして」
「うん……美味しい」
「そういえば姉さん廻君から連絡来た?」
「あぁその件はありがとう麗乃。こちらから連絡することがあったんだ。無事彼とは通話できたよ」
「……どんな?」

 二人とも椅子に座ってテレビを付けた。優乃は直後立ち上がってストーブを付けた。

「普段妹がお世話になっている人だからね。個人的に挨拶をしておこうと思った次第だ。麗乃も知っての通り麗乃たちのいままでの事件……幽霊への遭遇を危惧しての相談も兼ねている。親戚のお姉ちゃん!の気持ちになってちまった!ははは!」

 麗乃の頭には疑問符。

「お世話にって……まぁそうだけどね。姉さんには色々伝えててるし」

 私は、麗乃が、我が妹が、あの忌々しい音希田廻にバレンタインチョコレートを送っていることを知っている。私は!それを!許さない!
 そういった闘志、嫉妬を燃やしながら音希田廻へ接近したのだ。もっとも彼を調べあげたところかなりの危険人物だと分かった。一石二鳥だ。2つの理由で二人を離すことが出来る。

「温かい、染みるわー」
「顔がぽわぽわしとるねぇ」

 私には二人の下僕がいる。一人はもう仕事が終わっただろう『燃えない男』そして『刀仮面』という長い真剣を扱う女性だ。どちらも人ならざるもの、もっと言えば神様に近い存在だ。その2人は私が口説き落とすことにより数年前から力を貸してくれることになった。
 とりわけ刀仮面は透過能力がある。これを利用して麗乃周りの情報を得ていたのだ。2/14なんてもう朝から向かわせたよ!

「そうだせっかくだ、冷たい飲み物でも買ってきてやるよ。父さんと母さんへの土産……にもならんけど。麗乃にはココアでも買ってくる」
「何言ってるの?家にあるって」
「まぁまぁ、軽い散歩にも行きたいし」
「風邪ひく前に帰ってきてね」

 私はコートを取って外へ出た。息が白い。出るんじゃなかった。
 ぎゅっぎゅっ、雪を踏み鳴らして向かうのは優麗高校の隣を流れる川の先、工場跡地。気付かぬうちに廃墟になっていたのだ。なんて都合のいい。今は連絡のない燃えない男の元へと向かっている。
 星を見ながらなら気持ちは退屈しなかった。

「おい───お前何してる」
「カツ……ラギ……」

 工場跡地に積もった雪山に頭だけ出ていた燃えない男を見つけた。顔は鼻血まみれで気絶していた。

「なんで音希田廻がここにいない?そしてお前が血まみれなんだ!」
「私は……俺は負けた。音希田廻に負けたのだ」
「お前が?君の権能を見破られた?まぁこんな雪山に埋まっているもんな」

 思ってみない結果……とは思わなかった。朝霧要を仕留めた男だ。だがいざ燃えない男が討たれたとなると堪えるものがあった。

「仕方ない。生きているだけマシだ。ご苦労さまありがとう。ゆっくり休んでくれ」

 燃えない男の首を掴んで雪山から一気に引き抜く。背負って帰ることにした。

「助かる……」
「ホテルまで送る。あとは自分でな」

 月の綺麗な冬、第1回戦目、音希田廻vs燃えない男、勝者『音希田廻』

ーーーーーー

 二月十八日朝

「痛い……」

 首と両腕を中心に火傷が広がっていた。昨日よりは治っているがかなり痛い。塗り薬と包帯をグルグル巻いて学校へ向かった。一応葛城優乃に勝利の連絡を昨日の内にしておいた。返事がないがお昼には帰ってくると信じて雪の道を歩く。
 家族には隠し通した。この戦いが終わるまで病院に行っている余裕なんてないのだから。

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