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008.2/18 刀仮面
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家に帰っても高丘真敷はいなかった。会って挨拶するほどの中だったはずの彼女はここにはいない。
疑問に思っただろうか?『挨拶をするほどの中』というのは少々人間関係においは不可解だ。だが彼女は人に非ず幽霊である。さらに最近は形が薄くなっている。
悲しいとは思わないようにしている。口数の少なくなった高丘真敷はあるべき姿へ帰るだけなのだから。
夕餉を済ませ動きやすいジャージに着替えた。インナーは薄くて暖かいものを装備して準備体操をする。今日の夜の天気は雪だった。
ーーーーーー
天気予報は的中した。
「音希田廻か?」
相手は声色からも女性だとわかる。中性的な男性ともとれるが僕の本能は女性だと言っている。
背丈は葛城優乃より一回り大きく、僕よりもしかしたら大きいかもしれない。
巫女服を着て面を付けている。その面は顔を全て覆うほど大きく筆で大きく『雨』と書かれていた。目も口も空いていないが視線は感じる。
そして仮面の半分を覆っているのは前髪、後ろ髪は乱雑に結ってある。極めつけはその得物だった。
「武器はなんでもありかコノヤロー。銃刀法ってしらないのか?」
「この刀のことか?では……いやこれは失礼、名を言ってなかった。私は『刀仮面』以後お見知りおきを」
「人の山登ってきたんだぞ!分かってるのか?めちゃくちゃ緊張したんだぞ!」
彼女の名前とその刀は置いておいて、僕は千代子神社への道をさらに上り街灯のほとんど無い山道を登ってきた。寒いの足場が悪いのなんの……そんなことよりここは明らかに所有地だ。見つかったらと思うと吐きそうだ。22:00を回っている、良い子は真似しちゃいけないのだ。
「寒いとは違うのか?」
「寒いよ!いい運動になった!準備万端だよ!」
「では質問に答えよう」
「唐突たが律儀だな!」
彼女、刀仮面は得物を一振し肩に乗せた。観察の結果、波紋は直刃の直刀、刀身は1m、おおよそ人が素早く振り回すものではなかった。もはやそれは鉄の棒と言ってよかった。
「今ので掴めたか?」
「……全然」
「名を『露雨』ろう……読めるか?」
「うるせぇ!今てめえが言っただろ!」
「聞いていた人物より血気盛んだ。もっとCOOLな人だと思っていた」
「ああそうかい、少なくとも昨日はそうだったよ。相手は『燃えない男』だったからな」
僕はコートを脱いで振り積もった雪の上に投げ敷いた。足を取られるほどに積もっていると思っていたが何とか動けそうだ。
「音希田廻、貴方が使う得物はなんだ?めりけんさっく?というものか?」
「名を『アタックα』あたっくあるふぁ……読めるか?まぁ刀仮面さんの言うめりけん……」
僕が一文読み終える前に彼女は長刀を構えた。それは所謂霞の構えというものに近い構えで、刀は目の高さで水平に、刃は上で左手を柄の頭に置いていた。
「あー……じゃあやるか」
「勝負」
低く大人びた女性の声は葛城優乃のような子供の面影は感じさせない。えぇ僕は女性を殴る趣味は無いってのに。
「とった」
踏み出した刀仮面は左手で柄を押し刀を突き出す。音希田廻まで10メートルはあったはずだが剣先が弓矢のように頬をかすめた。
「え」
「上手く避けたな」
たった一歩は音を越え、その突きは大砲の如し。降る雪に一瞬だけトンネルを作った。
文字通り間一髪だった。少し頭をかしげていなければ死んでいた。だがこれだけでは反撃に繋がらない。
刀仮面は刀を中心に体を寄せて捻り周囲を薙ぎ払った。
僕は体を地面に叩きつけるように落とし回避、後方へ前転した。
「弱い」
読んでいたと言わんばかりの突きが襲ってくる。それは雪にサクリと刺さり、僕は無理やりローリングして回避した。
「や……やばい死ぬ」
「私の太刀を初見で三度連続回避したのは音希田廻、貴方が初めてだ、賞賛する」
「嬉しくない!大体二度目の斬撃の時僕が足に組み付いていたらどうするつもりだったんだ?」
出来もしない過去を振り返って反省した。もしかしたら早速勝っていたかもしれない。僕はチャンスを逃していたのだ。
「背後から取られれば私の負けだが目視で反応出来る速度だ、正面からなら首を切る。背後からなら振り返り胴を真っ二つだ」
「……聞かなきゃよかった」
この女はもしかしたら葛城優乃より怖い女性かもしらない。
そもそもその刀の長さで運良く二回目を回避したとして三回目の突きを回避出来るわけないのだ。今回はたまたま運良くできただけ。
近づけば真っ二つ、離れれば大砲のような突き、今日は僕の命日になるかもしれません。
「……そうだ音希田廻、貴方からの技を受けてみたい」
「要所要所に知性を感じる声だなオイ」
僕からやってこい、とのことだ。あいにくビックリドッキリな凄技は一つしかないが、昨日でバッテリーが切れていた。ハルに充電を頼みたかったが早急に帰ったため必殺技は出ない。
「ガッカリすんなよ」
降る雪の中で白と赤の目立つ巫女服を捉える。目を細めてクラウチングスタートで走り出す。刀仮面も同時に構える。僕の攻撃にカウンターする気だろう。なら間合いの範囲外ならいいだけのことだ。
「ストレート!」
拳を引き走る。刀仮面は完璧なタイミングを理解したようだ。このまま僕が拳を突き出し走り抜ければ体は真っ二つ自明の理だ。
じゃなくてアッパー!
刀の間合いギリギリで体を急激に落とし込み、拳を雪に出来るだけ深く深く入れて突き上げた。
粉雪が刀仮面の前方をホワイトアウトさせる。彼女が仮面を付けながらも何らかの方法で目が見えていることに掛けた参戦。見事コンマ数秒を獲得した僕は彼女に組み付くことが出来その勢いのおかげで刀仮面を地に押さえつけた。
両手をこちらの両手で抑える。これでお互いに完封状態の完成だ。
「はぁはぁ……これでどっちも動けない」
「目くらまし、それが音希田廻、貴方の一手か」
僕が頭突きなら出来るぞ、そう言おうとした直後、刀仮面の面がスライムのようにドロっと変形した。
「ひょっとこ」
「正解」
彼女の面が『雨』と書かれた面からひょっとこに変わった。
瞬間に僕の両手から手が抜けて、腹部へ掌底が繰り出された。
「うっ……アア!」
その不意打ちは息が出来ない程だった。
刀仮面は僕の下から抜けて刀を首に置いた。
「私にこの面を使わせたのは……音希田廻で何人目かな?」
「……ア」
「まぁいい、良い暇つぶしになった。もう喋らなくて良い」
動けない動けない動けない動けない。
あの面に変わった瞬間に肉体に不相応な力で手を弾かれた。これがこの女の権能なのか。
「死ね」
トドメの一撃。
僕は体に動けと念じる。
ごめん皆、先に死ぬことがあったら……何も言うことは本当はない。
「うご……動けぇ!」
刀が振り落とされて数秒、何故か僕は生きていた。
代わりに聞こえたのは骨が砕かれる鈍い音だった。
「お前は誰だ?そして何故私は気配を察知出来なかった?」
「え?」
「よぉ久しぶりだな、いや初めてか?」
刀仮面と僕の間に入っている人間がいた。彼は『樹谷幹也』一緒に不良たちと戦ったことがある。だがなぜ彼がいるのか分からない。それに口調もおかしい。なんか飴食ってる。棒が着いた飴。
「幹也君……なんで?キャラ変わった?」
そして彼が持っているのは鉄パイプ。刀仮面は刀を落していた。左手を庇いながら右手で刀を拾い上げる。どうやら幹也君が刀仮面の左手をピンポイントで砕いたようだった。上手すぎ。
「あ、ありがとう。助かった!」
「だろ?いいか?ヒーローは遅れてくるもんだぜ」
やっばりキャラ変わったよな。
「俺はコイツ、音希田廻の友達である樹谷幹也の友達『太刀川和彌』訳あって幹也の体を借りている。刀使いのべっぴんサーン、覚悟しろよ?俺はコイツと違って女にも容赦ねぇからな?」
「サイテーだ!てか太刀川和彌!?」
疑問に思っただろうか?『挨拶をするほどの中』というのは少々人間関係においは不可解だ。だが彼女は人に非ず幽霊である。さらに最近は形が薄くなっている。
悲しいとは思わないようにしている。口数の少なくなった高丘真敷はあるべき姿へ帰るだけなのだから。
夕餉を済ませ動きやすいジャージに着替えた。インナーは薄くて暖かいものを装備して準備体操をする。今日の夜の天気は雪だった。
ーーーーーー
天気予報は的中した。
「音希田廻か?」
相手は声色からも女性だとわかる。中性的な男性ともとれるが僕の本能は女性だと言っている。
背丈は葛城優乃より一回り大きく、僕よりもしかしたら大きいかもしれない。
巫女服を着て面を付けている。その面は顔を全て覆うほど大きく筆で大きく『雨』と書かれていた。目も口も空いていないが視線は感じる。
そして仮面の半分を覆っているのは前髪、後ろ髪は乱雑に結ってある。極めつけはその得物だった。
「武器はなんでもありかコノヤロー。銃刀法ってしらないのか?」
「この刀のことか?では……いやこれは失礼、名を言ってなかった。私は『刀仮面』以後お見知りおきを」
「人の山登ってきたんだぞ!分かってるのか?めちゃくちゃ緊張したんだぞ!」
彼女の名前とその刀は置いておいて、僕は千代子神社への道をさらに上り街灯のほとんど無い山道を登ってきた。寒いの足場が悪いのなんの……そんなことよりここは明らかに所有地だ。見つかったらと思うと吐きそうだ。22:00を回っている、良い子は真似しちゃいけないのだ。
「寒いとは違うのか?」
「寒いよ!いい運動になった!準備万端だよ!」
「では質問に答えよう」
「唐突たが律儀だな!」
彼女、刀仮面は得物を一振し肩に乗せた。観察の結果、波紋は直刃の直刀、刀身は1m、おおよそ人が素早く振り回すものではなかった。もはやそれは鉄の棒と言ってよかった。
「今ので掴めたか?」
「……全然」
「名を『露雨』ろう……読めるか?」
「うるせぇ!今てめえが言っただろ!」
「聞いていた人物より血気盛んだ。もっとCOOLな人だと思っていた」
「ああそうかい、少なくとも昨日はそうだったよ。相手は『燃えない男』だったからな」
僕はコートを脱いで振り積もった雪の上に投げ敷いた。足を取られるほどに積もっていると思っていたが何とか動けそうだ。
「音希田廻、貴方が使う得物はなんだ?めりけんさっく?というものか?」
「名を『アタックα』あたっくあるふぁ……読めるか?まぁ刀仮面さんの言うめりけん……」
僕が一文読み終える前に彼女は長刀を構えた。それは所謂霞の構えというものに近い構えで、刀は目の高さで水平に、刃は上で左手を柄の頭に置いていた。
「あー……じゃあやるか」
「勝負」
低く大人びた女性の声は葛城優乃のような子供の面影は感じさせない。えぇ僕は女性を殴る趣味は無いってのに。
「とった」
踏み出した刀仮面は左手で柄を押し刀を突き出す。音希田廻まで10メートルはあったはずだが剣先が弓矢のように頬をかすめた。
「え」
「上手く避けたな」
たった一歩は音を越え、その突きは大砲の如し。降る雪に一瞬だけトンネルを作った。
文字通り間一髪だった。少し頭をかしげていなければ死んでいた。だがこれだけでは反撃に繋がらない。
刀仮面は刀を中心に体を寄せて捻り周囲を薙ぎ払った。
僕は体を地面に叩きつけるように落とし回避、後方へ前転した。
「弱い」
読んでいたと言わんばかりの突きが襲ってくる。それは雪にサクリと刺さり、僕は無理やりローリングして回避した。
「や……やばい死ぬ」
「私の太刀を初見で三度連続回避したのは音希田廻、貴方が初めてだ、賞賛する」
「嬉しくない!大体二度目の斬撃の時僕が足に組み付いていたらどうするつもりだったんだ?」
出来もしない過去を振り返って反省した。もしかしたら早速勝っていたかもしれない。僕はチャンスを逃していたのだ。
「背後から取られれば私の負けだが目視で反応出来る速度だ、正面からなら首を切る。背後からなら振り返り胴を真っ二つだ」
「……聞かなきゃよかった」
この女はもしかしたら葛城優乃より怖い女性かもしらない。
そもそもその刀の長さで運良く二回目を回避したとして三回目の突きを回避出来るわけないのだ。今回はたまたま運良くできただけ。
近づけば真っ二つ、離れれば大砲のような突き、今日は僕の命日になるかもしれません。
「……そうだ音希田廻、貴方からの技を受けてみたい」
「要所要所に知性を感じる声だなオイ」
僕からやってこい、とのことだ。あいにくビックリドッキリな凄技は一つしかないが、昨日でバッテリーが切れていた。ハルに充電を頼みたかったが早急に帰ったため必殺技は出ない。
「ガッカリすんなよ」
降る雪の中で白と赤の目立つ巫女服を捉える。目を細めてクラウチングスタートで走り出す。刀仮面も同時に構える。僕の攻撃にカウンターする気だろう。なら間合いの範囲外ならいいだけのことだ。
「ストレート!」
拳を引き走る。刀仮面は完璧なタイミングを理解したようだ。このまま僕が拳を突き出し走り抜ければ体は真っ二つ自明の理だ。
じゃなくてアッパー!
刀の間合いギリギリで体を急激に落とし込み、拳を雪に出来るだけ深く深く入れて突き上げた。
粉雪が刀仮面の前方をホワイトアウトさせる。彼女が仮面を付けながらも何らかの方法で目が見えていることに掛けた参戦。見事コンマ数秒を獲得した僕は彼女に組み付くことが出来その勢いのおかげで刀仮面を地に押さえつけた。
両手をこちらの両手で抑える。これでお互いに完封状態の完成だ。
「はぁはぁ……これでどっちも動けない」
「目くらまし、それが音希田廻、貴方の一手か」
僕が頭突きなら出来るぞ、そう言おうとした直後、刀仮面の面がスライムのようにドロっと変形した。
「ひょっとこ」
「正解」
彼女の面が『雨』と書かれた面からひょっとこに変わった。
瞬間に僕の両手から手が抜けて、腹部へ掌底が繰り出された。
「うっ……アア!」
その不意打ちは息が出来ない程だった。
刀仮面は僕の下から抜けて刀を首に置いた。
「私にこの面を使わせたのは……音希田廻で何人目かな?」
「……ア」
「まぁいい、良い暇つぶしになった。もう喋らなくて良い」
動けない動けない動けない動けない。
あの面に変わった瞬間に肉体に不相応な力で手を弾かれた。これがこの女の権能なのか。
「死ね」
トドメの一撃。
僕は体に動けと念じる。
ごめん皆、先に死ぬことがあったら……何も言うことは本当はない。
「うご……動けぇ!」
刀が振り落とされて数秒、何故か僕は生きていた。
代わりに聞こえたのは骨が砕かれる鈍い音だった。
「お前は誰だ?そして何故私は気配を察知出来なかった?」
「え?」
「よぉ久しぶりだな、いや初めてか?」
刀仮面と僕の間に入っている人間がいた。彼は『樹谷幹也』一緒に不良たちと戦ったことがある。だがなぜ彼がいるのか分からない。それに口調もおかしい。なんか飴食ってる。棒が着いた飴。
「幹也君……なんで?キャラ変わった?」
そして彼が持っているのは鉄パイプ。刀仮面は刀を落していた。左手を庇いながら右手で刀を拾い上げる。どうやら幹也君が刀仮面の左手をピンポイントで砕いたようだった。上手すぎ。
「あ、ありがとう。助かった!」
「だろ?いいか?ヒーローは遅れてくるもんだぜ」
やっばりキャラ変わったよな。
「俺はコイツ、音希田廻の友達である樹谷幹也の友達『太刀川和彌』訳あって幹也の体を借りている。刀使いのべっぴんサーン、覚悟しろよ?俺はコイツと違って女にも容赦ねぇからな?」
「サイテーだ!てか太刀川和彌!?」
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