仮想世界β!!

音音てすぃ

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47.かにばるるるるっ!

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 次の日、日の出ている間は外で探索することにした。
 まぁ夜になっても街灯が綺麗で、街は賑わっているから、そこを探すのもいいと思うが、カルマ家が僕らを守れない可能性を考慮して外出を控えろと言われた。

「オトメ様、どうしました?足が止まっておりますよ」
「あえっ!?……そうですか?」

 街中、僕の後ろについて回る大人の女性。

「というか、アサガサさん(言いにくいな)……どうしてついてくるんですか?僕は一人でもいいんですよ」
「そういうわけにはいきません、エイル様は本家に、キリカ様は……駄々をこねましたが、共に本家にいますので、オトメ様をお守りできるのは私のみ。また、リーラ様に言いつけられたので、この命は絶対でございます」

『アサガサ』Green
相対レベル:12(回避補正:4)
・武器:紅口(刀、抜刀前透明化)
・防具:カルマ家武人服
・アクセサリー:誓いの髪飾り
他スキャンを実行していません。

 どうやらリーラの護衛というか、刀というか武器というか、そんな人間が僕についてくれている。
 レベルも僕より強いし、こころ強いけど。

「『エロいな』と思いましたね?私にはわかります年ごろですね」
「うっ、うるせーキョウスケ!」

 アサガサはそう……美人というやつである。目線の行方はキョウスケに筒抜けだった。

「正直でよろしいと思います。心なしか、オトメのやる気も上がって」
「ないですよ!」

 僕の独り言をアサガサは聞いても、それはPEか?と質問することはなかった。

「……訊かないのか?」
「何をです?オトメ様」
「(様って)独り言、気持ち悪くないか?」
「えぇ、PE持ちなんてそんな珍しいものいるわけ……ん?」
「どうした?」

 すると、何かに気づいたようで、急にアサガサが不可視の刀の柄に手を置いた。
 その表情は恐怖と対峙した時の顔、僕は知っている。

「PEなのですか?オトメ様!」
「おいおい声が大きい」

 僕は人差し指を口元に、シーッと沈黙を促すが、あまり意味はなかった。

「ふざけるなよ悪魔め、一日同じ屋根の下で過ごしたと考えると虫唾が足る!」
「はぁ……」

 PEと知ったとたんこれか、先がめんどくさい。
 どうやらここでもPEは嫌われ者の可能性が出てきた。
 三人でまだカルマ家に留まれるとは考えない方がいいだろうか。

「まてまて、落ち着けって、話し合おう」
「問答無用!」

 抜刀した。その瞬間、刀は透明化を解除して、赤く美しい鞘と刀身、黒い柄の姿を現した。

「来るっ!」

 攻撃予測が同時に二か所、ただの刀使いではないようだ。その極意をキリカに教えていただきたい。

「何?避けた……」

 ほぼ同時に繰り出された斬撃を回避。
 一撃目は距離を稼ぎ、二撃目は目視で回避した。

「やはりPEか……」
「PEじゃなかったらどうするつもりだったんだ!?」
「それは……あとで縫い付けてやろう」
「メチャクチャな」

 街中で人に見られながら、僕はアサガサから逃げた。
 それは命賭けた鬼ごっこにたいなものだ。
 勝利報酬は無い。

「まてー!」
「待つか!」

 僕は建物の角を曲がったところで、FS21Eいわゆるフックショットで建物の屋根に移動した。

「畜生、住民が目撃者だから、いつまでもアサガサさん追ってくるじゃん」

 僕は天井から下を覗く。

「そこの婦人、ここに緑の服を着て、二本の剣を持った野蛮な男は来なかったか?」
「野蛮って」
「あぁそれなら……」

 僕はアサガサの目線がゆっくりこちらに向くのを確認して、ウインクをしてから走り出した。

「屋根とは卑怯な!」

 屋根と屋根を渡って、かなりの距離を取った。

 バカダッタ。

「あれ、ここって……西から丸見えじゃ……」

 恐怖と焦燥で体は動き、急いで壁をつたって地面に降りた。

「おぉ怖い」

 屋根からは降りてしまったが、アサガサは撒けたようだ。
 一応、黒いマントを羽織って、フードを深くかぶった。

「めんどくさいなぁ……カニバ族のこととか聞きたかったんだけどなぁ。そうだな、いつも仇の野郎って呼んでたから、カニバ君って呼んでみようか」
「ダサいですね」

 その後、僕はブラブラ歩いて武器屋に来た。
 お金には少し余裕があったため、刀身20センチ程度のナイフを買った。

『遠影』
・ナイフ
・軽め
・耐久LV.2

 そしてなぜかルーンナイフが売っていたので、ある分で二本買った。
 これで合計20本のはずだ。
 僕はそれぞれのナイフをストレージに収納と服に装備した。

「これからどうしようか、変についてきた人でも、案内人的な立ち位置にいた人間がいないと手掛かりがないな」
「アバンドグローリーの時みたいにギルドに情報収集に行きましょうか?」
「うーん、ギルドがあるのかはわからないけれど、なんとなくそんな場所で張ってそうなんだよな……夕方からが憂鬱すぎる」

 一瞬視界の時計を確認すると9時前だ。
 まだまだ時間がある。
 行動提案は二つある。

・まだ未知の地下街に行く
・カルマ家に言ってリーラにPEのことを伝えてアサガサをどうにかしてもらう。

「てかどうして僕はあらかじめリーラにPEだって伝えなかったんだ!」
「そう後悔しなくても、オトメは良い判断だったと思います、むやみに人に話す必要はありませんから」
「そうだね、ありがとう……」

ということで、僕はリーラへの事情説明がめんどくさくなって、前者を選ぶことにした。

 街の人間の会話を盗み聞きしている限り、僕の話題も聞こえたが、この山の上の地上のことを『上』とか『天井』とかいうらしい。

「階段と魔導エレベーターがあるけど、どっちがいいかな?」
「階段でしょう」
「だよね」

 アサガサとの鉢合わせで対応できるのは階段のみだ。
 僕は石造りの階段をてくてくと降りていく。太陽の光が乏しくなって、暗くなったと思ったが、地下に広がる大空間が姿を現して、街灯が敷き詰められた建物の海が僕を迎えた。目の瞳孔も慣れてきて、初体験の地下の街、僕は軽く興奮していた。

「すっげー、ここが地下か!」
「太陽の光がないこの場所での生活はおすすめしません」
「ロマンだ……いい装備を作ってそうだなぁ、油臭い工場とかあるのかな?」

 僕の階段を降りる足取りも楽しくなる。
 一番下まで降りた時点で、見覚えのある人間が目に入る。
 銀髪という言葉では足りないくらいの白をもつ長いシロカミ、鍛えられているはずだが女性としての身体の柔らかさも持ち合わせている刀使い。

「おーい、キリカー」

 元気よく手を振って近寄る僕の姿は母親に走る子供のようだった。

「オトメ君だ、調査はどう?すすんでる?むしろ私が探しに来たんだけど……なんでマント?懐かしい」
「いや全然、アサガサとかいうやつにPEは成敗!みたいな流れになっちゃって……」
「それはマズイね、私さっきまでカルマ家にいてリーラちゃんと話していたんだけど、どうやらPEに恨みというか……」
「困るなぁ僕じゃないんだけど」

 少しキリカが真面目だった。

「前の頭首さんを殺したのがPEだった……そう」

 そういえば現頭首はリーラか?もしそうなら若いと思っていたが、そんなことが。

「そうか……それはしょうがないな……」

 僕はキリカとエイルの安全を取ることにした。

「なぁキリカ、僕はPEだってそのうちリーラにバレる。けど、キリカとエイルは僕がPEだって知らなかったことにしてくれ。僕はしばらくここの地下で過ごす……ってあれ、そういえばエイルは僕がPEだって知っているっけ?」
「なにそれ、オトメ君はどうするの?」

 少しキリカが怒り始めた。僕だけ二人から離れようとしたことがバレている。私も同行するとか言い出すぞ。

「上より貧困層?がスラムっぽいものを作ってそうだし、そこで寝床を手に入れるよ」
「ダメ、ちゃんとリーラちゃんと話し合って、ね?」
「うーん……なんかすぐ斬られるとおもうんだけど……」
「大丈夫、なんたってリーラは私を一瞬で受け入れてくれたんだもの」

 確かにそうだ。一応彼女は怖がられる対象だった。ならばリーラは理解ある人間と思っていいのではないか。

「……わかったよ、リーラにちゃんと話す」
「わかればいいのだ!」

 じゃあ、といってわかれようとすると、少し寂しそうな感じがあった。
 バレたか、僕はリーラと話す気なんて毛頭ない。正直アサガサが怖い。

 さてどこまで歩いただろう、知らない地理、マップをスキャンしながら進んでいるがやっぱり広い。

 クンクン……なんだろう臭うな。

「なんか臭うな」
「オトメ、気づいていますか、人が少なくなっていますよ」
「あぁ、近づくのはやめておこうか……」

 僕がその怪しい向こうから踵を返そうとした時、背中を掴まれた。肩ではない、下側からマントを引っ張っている。
 振り向くと、エイルくらいの少女だ。その手からは生命を感じる弱弱しさだった。

『フレッタ』Yellow?
相対レベル-21(回避補正:―99)
・武器:なし
・防具:何かでできたボロボロの服
・腹がへった
他スキャンを実行していません。

 どこかで見たことのある赤い髪かなり濃い色だ。近くのスラムから歩いて来たのだろうか?

「お兄ちゃん……おなか減った……あれ?違う人」

 どうやら人違いのようだ、可哀想だか帰ろう……というわけにはいかない。

「おい、離せ」
「あぁっごめんなさい」
「僕は君の兄貴じゃないし、もう用はないだろ?じゃあな」
「……」

 四歩進んだところで、四歩戻った。

「あーもう!腹減ってんだろ?飯、食いに行こう」

 少しだけ虚ろな目を見開いた。嬉しい……のかな?
 僕もバカだ、知らない人間を助けるなんて。
 この話が広まって、スラムの人間が僕に群がってくるかもしれない。でも、まだそうなってないし、いいか。

「ほれ」

 道のわきに座って、買った安いパンと、森で手に入れた鹿肉を魔法の炎で調理してサンドした。
僕にはこれくらいしかお料理ができない。

「味付けは塩だ……」
「……はむ……う……ハム!ううん!」
「どうした……?」
「美味しい」
「よかったな」

 子供には結構大きめに作ってしまったかもしれない、食べ終わるまで時間がかかるだろう。

「じゃあ僕はこれで、じゃあな……っと」

 僕は先ほど購入したルーンナイフを二本置いていった。

「自由に使え、そして自由は自分でつかみ取れ……僕が言えたことじゃないけど」

 ガラにもなく、かっこつけてその場を去った。

「どうして助けたんですか?」
「僕は困っているところを色々な人に助けてもらった。ミルザンドって所で死人が来るのを見てきてた。だから、僕は困っている人をなるべく助けたい」

「へぇ……かっこいいいー」

 恥ずかしくなってさっさと歩き出した。

 気を放り投げて歩いていると、左後方からささやくように声が聞こえる。

「───」

 不気味さ故に振り向き、無意識に睨みつけていた。

「まぁまぁそう警戒すんなよ」

 気味の悪さを感じる口元、僕と似たようなマントを身に着けている。被ったフードから少し見える髪の毛が……赤色、濃い。声からして男だろうか。

「どうしてキョウスケのスキャンにかからないんだ?」

 通常は視界のマップ内に周囲の人間がスキャンされて視認できるようアイコンが表示される。
 しかし、この男は声を発するまでマップに映らなかった。

 ああぁこれはアレだ。


 とても怖い。


『クニテツ』Enemy?
相対レベル:50(回避補正:19)
・武器:愁と絶叫(ツインロープナイフ)
・防具:マント、カニバ族の武人服
・アクセサリー:烈火の印(耐火LV.∞)
他スキャンを実行していません。

レベル差最大50?数字おかしくないですか?
「お前の装備……」
「ん?マントの上からでもわかるってすごいね!興味でてきた」
「カニバ族って」


「やっぱり



 ようやくこの辺りの臭いの原因がわかった。
 コイツが食い散らかした。
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