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初めてのギルドとヤベェ奴

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「聞いたか?なんかイービルアイを利用してた村が壊滅さしたとか」


「守護を司る魔物だからな。まぁ魔物を飼い慣らすなんてリスクの多い事をする方がどうかしてるけどな」


 ギルド内は最新の出来事や噂話が飛び交い、様々な場所からやってくる冒険者達がそれらの情報を交換する場所でもある。


「お待たせしました。Fランクの依頼〝タマゴ草〝の採取報酬になります。お疲れ様でした」


「ありがとう」


 ギルドカウンター前に立っていたフードを被った男はギルド受付嬢から報酬を受け取る。ギルドでは怪しげな奴など日に何度も見かけるような場所でもある。


 誰の視線も受けぬまま立ち去れるはずであったが、何故か此処のギルド嬢はそうさせてくれない。


「あの!困った事があったら、いつでも仰って下さいね」


 大きな瞳がこちらを捉える。青い客室乗務員のような制服を着込んでおり、触った髪は癖っ毛があり肩辺りで外にはねているのが特徴的であった。


「はい。では失礼します」


 フードを被り直しギルドを出る。その間にらギルドにいた冒険者達の視線が集まるのを感じ、そそくさと見られたくは無いと建物を出た。


 初めて此処に訪れた時に、少しばかり助けただけなのだが、いたく感動したようで懐かれてしまった。が、それが功を奏し難なくギルド登録出来たのも事実であった。


 報酬を握り締め薬剤師の元へ向かう。冒険者が多いおかげか、薬の種類には事欠かなかった。


「いつもの」


「はいよ。20ウロドね」


 紙袋に入った薬を受け取る。流石にこの町に来て二か月も経てば、いつのまにか馴染みの客となってしまっていた。


 薬と露店で買った食料を持ち帰ると、今住んでいる宿の扉を開ける。暇そうな店主の居るカウンターを通り、二階に上がるとすぐさま借りた部屋に辿り着いた。


 埃っぽい部屋に入るとまず窓を開け空気を入れ替える。備え付けの机に荷物を置くと、部屋を一度でて宿の裏にある井戸から水を汲むと部屋に運んだ。


「、、、、、、、起きたか。食事にしようカラット」


 返事はない。ベッドにいたカラットは怪我は治っていたが、あの日から治らない病にかかっていた。


「今日は紫ウサギのベーコンサンドがあったんだ。カラット好きだったろ」


 カラットは笑顔を見せる。しかし、あの日からカラットは声を失ってしまった。元よりあまり話す方ではなかったが、無口になると意思疎通がより難しく感じていた。


「今日はな毒消しを作るためのタマゴ草を採取してきたんだが、、、、、、、」


 一日の冒険をカラットに話すのが日課になっていた。すでに身体の怪我も治り、いつでも動けるはずのカラットは未だに部屋から出なかった。


 ベーコンサンドを食べ終わったカラットは、渡されたいつもの薬を水で流し込んだ。しかし今飲んでる薬はただの栄養剤に過ぎなかった。


 精神的なダメージによりカラットは声を失っていた。薬で治ることなどなかったが、今後の事を考えて薬を飲めば治ると言い聞かせていた。


 治りは彼女の心の強さによる為、成長と共に治るかもしれないと医師は言っていたが、実際どうなるのかは分からなかった。


「今日は店でも見て回るか」


 その言葉にカラットは目を輝かせていた。声が出ない以外は特には問題の無い子どもである。気晴らしの一つでもしてあげられればと、外に連れ出すように促してみた。


 渋るかと思っていた為、アッサリと承諾され少し拍子抜けたが結果的にはいい方向に向かってくれた。


 町に出ると街のメインストリートには冒険者達が行き来し、まるで夜店の屋台の様に道の両脇に並ぶのは露店であった。


「端から見て回ろう」


 露店には食べ物は勿論、武器や防具も売られていた。ウィンドーショッピングをひとしきり楽しむと、ギルドの前までやって来ていた。


「えっ、中に入りたいのか?」


 カラットはジルが普段どんな仕事を此処でしているのか話を聞いていた為、以前から気になっていた。


 あまり子どもが入る場所では無かったが、カラット自ら行きたいと申し出てくれた為、ジルは無下には出来ないといつものようにフードを被り中に入った。


「だから!何で受けられないんだよ、俺だって冒険者になってそこそこの知名度でしょうよフルスイングのボーク」


 ギルドカウンターで騒ぐ大剣を担いだ男が一人。クエスト募集用紙をひらつかせながらギルド受付嬢に絡んでいた。


「名は存じていますが、冒険者ランクがまだCランクですので、此方の募集はBからになります」


 しつこく絡んでいるボーク。別名自己中ボークは大剣をぶん回す事で魔物を倒すタイプの冒険者であるが、他者をも巻き込む為に嫌われて誰もパーティを組んで貰えず、ランクが頭打ちとなっている。


「ランクランクって。実力が有れば一つ上くらい、、、、、、」


「ダメに決まってるだろ。次が詰まってんだから早く退いてくれ」


 ボークの後ろに並んでいた冒険者が苛立ちを見せながらそういうと、一気にピリついた空気が走り出した。


「大事な話してんだよ。お前Dランクだったよな、俺より下の癖に文句言ってんじゃねぇよ!」


 ボークは後ろにいた冒険者に掴みかかると、取っ組み合いが始まる。日常茶飯時であった為、基本的には我関せずが正解である。基本的には。


「ちょっと!ギルド内での揉め事は御法度」


 ギルド受付嬢が叫ぶも、いつもの事であったが取っ組み合いが激しくなりそうになったその時であった。それを割って入る者が現れた。


「もう良いだろう。そっちの男はもう伸びてる」


 ボークの腕に掴み掛かったのはフードを被ったジルであった。先にカラットが危ない為、ギルドの二階に運んでから戻ったのである。


「誰かと思えば採取専門の底辺冒険者じゃねぇか。そもそも、身元の怪しい奴が此処を出入りするんじゃねぇよ」


「人に迷惑をかけるんじゃない。暴れたいならクエスト依頼で暴れてこい」


 淡々とそう返した事より、掴まれた腕が全く動かない事に苛立ちを覚えていた。無理やり引き離そうとしていると、今度は忘れていたかの様にあっさりとジルは手を離した。


「危ないから出ようかカラット。日を改めてまた案内する」


 カラットを呼んでギルドを出ようとしたその時、今度はジルがボークに肩を掴まれた。力の入った腕だったが埃を祓う様に腕を払った。


「俺は誰の言う事もきかねぇ!此処は冒険者のいる場所だ、子ども連れで来る様な場所じゃねぇんだよ!表でケリつけてやる」


 ボークは自慢の大剣を担ぐとギルドから先に出た。ジルに逃げられ無い様にする為ではあったが、律儀にギルドの外に出るあたり言う事を聞く耳が全く無いわけでは無いらしい。


 ギルド前の道には人だかりがサークル状に出来上がっていた。日常茶飯時ではあったが、冒険者同士の喧嘩には自然と賭け事にされるのが恒例で、この二人も例に漏れずかけの対象となっていた。


「勝負するからには何を賭けるよ」


「面倒な、、、、、、何もいらん」


「そうかよ、だったら俺が勝ったらテメェはこの町のギルドは出禁だ」


「いいだろう」


 ため息混じりにジルはそう答えると、ボークは大剣を垂直に振り下ろす。斬るではなく叩きつけるが正しそうな行為は、土煙をあげながら地面に穴を開けた。


 が、次の瞬間に全ての決着はついた。ジルが全体重を乗せた蹴りは、ボークの大剣の芯を捉えて打ち付けられるとくの字に大剣は曲がってしまった。


「嘘だろ!これでも10%もミスリルが混じっているのに」


「どうする、終わりか?」


 ワーウルフであるジルに肉弾戦を挑む事がどれだけ無謀な事かは誰もがわかっていた。ボークにとっては裸で戦地をフルマラソンして来いと言われている様なものである。


「わかったよ!全部やる」


 何を思ったのかは知らないが、武器を外し自ら衣服すらジルに差し出した。勿論、パンツもである。しかし、そもそもジルはそんなモノは欲しくもなく興味も無かった。


「要らない。とりあえず、女の子がいるから服を着ろ」


「嫌だ!着ない!着てやるものか!このボーク断じて貴様の言うことなど聞いてやるものか!、、、、ふひひ」


 意地の張り方がオカシイ奴である。気持ち悪さは勿論であるが、ボークはただ自分が脱ぎたかっただけの変態である事は間違いなかった。


「もういい。勝手にそこにいろ」


 ジルはカラットを連れて宿に戻る事にした。カラットの教育上良くないと判断されたボークは、自己中ボークから変態ボークへと噂名がこの日を持って変更されたのは言うまでもない。


 しかし、ボークの追撃は更なるものであった。道で会うたびにクエストや酒場に誘われ、何が気に入ったのか分からなかったがジルに何故か懐いていた。


「って事で今日こそギルドについて行くぜ」


 いい加減ウンザリしていた。が、特に何かするでもなく寄ってくるだけであった。害はなかったので、ジル自身も持て余しておりどうするか決めかねていた。


 あの日から一週間。静かにカラットの体調を整えて、村の借金返済の為の手立てを考え直さないといけないのだが、ボークが来てからそれもままならなかった。


「あ、そうそう。ギルドで何かあったみたいだぜ。中は知らんが」


 ボークは衣服等を返して貰った代わりに、自分がギルドに入らないと誓いを立てていた。故にギルド内に入れば裏からクエストに向かうのが最近の日常になりつつあった。


「わかった。何かあれば伝える。所で何だそれは」


 ジルの指差した先を見ると、尻尾の様なものと猫耳の様なものをつけたボークの姿があった。はっきり言わなくても気持ち悪い。


「これはジル殿ともっと友好的になりたいと言う意思表示だ。同じ物を身につけると仲良くなれると聞いたのでな」


 何かが決定的に間違えていたが友好の証と言わんばかりにそう言って来た為、それ以上は何も注意出来ずにジルは肩を落とす。


 と言うか、とにかくその場を離れたかった。知り合いだと思われても嫌だった。


 ギルドに入るとジルは、ギルドカウンターへ行くのが日課であった。ギルド内がえらく空いており、コレは早く依頼を受けられると思っていたが、肝心のギルド受付嬢がいなかった。


 ギルド内を再度見回すと、ギルドの二階から声が聞こえてくる事がわかり、そちらに向かうと人だかりが出来ていた。


「何かあったんですか?」


 挨拶程度はするギルド冒険者の一人に声をかけた。すると、人だかりの隙間を指差しその中心にあった机の上に何かが置かれているのが分かった。


「なんでも、偶然Aランク冒険者がコレを見つけたらしいんだよ」


 そう言い、ジェスチャーで球体を描いた。何なのか分からなかったが、隙間を覗きながら何となくそれが何なのか理解した。


「あれは、、、、、、、卵」


「何でも飛竜の卵らしいぜ。あれ一個でデカい屋敷が買えるってのに、その冒険者ときたら急ぎの用事があるとかで置いていっちまったらしい」


「飛竜の卵って高いのか、知らなかった」


「インプリンティングって知ってるか?ニワトリの卵が孵ると最初に見た者を親と思い込むっていうやつだ」


 聞いた事はあった。しかし、実際にそんな場面や懐かれた経験もなかった為に、そんな事が本当にあるのかとは思っていた。


「それを利用するんだ。飛竜が孵った時にいた人間に懐く、それを利用して飛竜騎士団なるものまで貴族の間ではあるらしいからな」


「へぇ。飛竜の親になるって事か、まぁなったらなったで世話も面倒そうだがな」


 とりあえず、人だかりでギルド受付嬢を見つけた為、下に降りて受けるクエストの紙を手にギルド受付嬢のところまで行き、許可の判だけ押してもらいギルドを出た。


 勝手に手伝って来るボークを引き連れて、今日も採取クエストに向かった。ジルが採取クエストをやるのには理由があった。


 魔物を狩れば報酬は大きい為、普通に考えて借金と生活費を稼ぐのにうってつけの様に思える。しかし、それは安定して魔物を狩れた場合である。


 まず、討伐クエストには元手がかかる。採取に比べはるかに物入りとなりコスト掛かり、失敗が存在するためローコストでいかに利益を出すかの勝負になる。


 しかし、採取クエストは失敗もなく安定して収益が得られる事と元手が要らない。更にジルはクエスト中に他の採取できる物を一緒に採取するため二つのクエストを同時に成功させる場合もあった。


「たまには討伐のクエスト受けましょうよ。強いのに」


「魔物討伐は時間が掛かるし、いつ現れるか分からないモノを待つより、決まった場所に行けば自生してる植物の方が夕方には帰れる」


 ジルはカラットを出来るだけ一人にしたくないと、早く終わるクエストを選んでいた。結果、初心者しかやらないが需要の多い仕事だったが効率的だった為、良い稼ぎにはなっているらしい。


 いつもの自生地域に行ったが先客がいたのかとりつくされていた為、いつもより少し遠い場所に生えた薬草を摘みに行こうとしたその時だった。


「兄貴!なんか居ますよ」


「兄貴じゃないし。アレは、、、、、、竜」


 ドラゴンが群れを成して飛んでいた。一匹でも珍しい飛竜が群れをなして飛んでいるのを見て嫌な予感が走った。


「あっちは、、、、、、まさかっっっっ!!」


 ジルの全身を駆け巡った悪寒で、すでにボークを置いて走り出していた。向かうは飛竜の飛んで行った先、ジル達の滞在している街の方だった。


 嫌な予感とはよく当たるものである。町に戻った時には既にそれらは上空に旋回し続けていた。まるで、獲物を追い詰めた狩人の様にも見えた。


「やっぱり、中に入ったらすぐギルドに向かうぞ」


 普段であれば、街の入り口にいるはずの門番達も一人しかおらず、二人は走ったまま街の中に駆け込みギルドに走った。


「卵は!?今すぐそれを寄越せ!!」


 喧騒止まぬ中に飛び込み叫んだジルは卵を見つけると、有無を言わさずに奪い取りギルドを出る。背中から何人もの怒鳴り声が聞こえたが、それどころでは無いのは上空を見れば一目瞭然である。


 怒鳴り声が悲鳴にも似た情けない叫び声に変わるのは一瞬であった。案の定、ジルが持ち出した卵を見つけた飛竜の群れは街の旋回をやめ、一目散にジルに向かって襲いかかった。


「ッチ!嗅ぎつけるのが早い。とにかく、カラットから離れないと」


 街の被害も気にはなったが、一番の目的はやっと回復に向かって動き出しそうなカラットに、出来うる限りの負担をかけない為であった。


「すぐにでも街から離れないと、ボーク!!何処にいる手伝ってくれ」


 来た道を戻っていた為、もしボークが追いかけて来ていれば、そろそろ落ち合えると思いそう叫んだ。街は避難する人々の叫び声が入り混じっている中、声はかき消されたかに思えた。


「呼びましたか!兄貴っっ!」


「兄貴じゃねぇ!今すぐ人を北と南に分けろ!無茶は承知だが俺はこいつを東の出入り口に運ぶ。何とかしてみろ」


「分かりました!何とかした暁にはお願い聞いて貰いますからね」


 返事はない。が背中では信頼していると答えている様な気がしていた。ボークはギルドにいるありったけの知り合いに声をかけた後、すぐさま避難誘導を始めた。


 飛竜の群れはジルを襲いながら空から強襲をかけ続ける。しかし、ワーウルフの俊敏性は巨大の飛竜の猛追を凌駕し、加速しながら攻撃を交わし続けた。


「もう少しだけもつか。単調になり目が慣れ始めやがった」


 飛竜の学習能力は高く、ジルの加速に対し予測で対抗を始めた。勿論、簡単には当たるはずもないが、巨漢の一撃を浴びればジルは簡単に再起不能となるのは目に見えていた。


 勝てないレースでは無かったが、命の紙一重を繰り返すにはジルの体力の方が問題であった。毎回が一撃必殺の攻撃力を持つ飛竜を相手に神経が摩耗し、それに比例する様に体力も一気に削られる事となった為である。


加速アクセラ


 ジルの唯一にして最大の武器でもある魔術を発動する。しかし、加速と言うよりは暴走に近い魔術である事はジル自身が一番理解していたが他に手を思い付かなかった。


 縦横無尽に飛び回り加速し続けるジルは、打撃と自身の爪で飛竜に攻撃を続けた。加速された力で裂傷させながら辺りの建物も巻き込み暴走していた。


 故の避難。そして切り札にして最大出力のジルの攻撃は飛竜の群れの三分の一を地面に叩き落とす事が出来たが、全力を出し切ったジルは最後に自らも勢いそのまま全身を地面に叩きつけた。


 制御の効かない無差別攻撃の末路。しかし、諸刃だと分かっていても使わざるを得ない状況であった事と、ジルの切り札である事に変わりはなく他に選択肢もなかったのだった。


「まだ、、、、、、なのか」


 自分の力を出し尽くし、半数近くの飛竜を倒すことが出来たが、全身の打撲裂傷に加え魔力切れを起こし跳ねる力も失い立ち上がるのがやっとの状態であった。


 意識は遠くなり、このまま飛竜に啄まれるだけの終わりに思えた。朦朧としたまま飛竜が鴉の如くジルの周りを回りながら旋回しているのを眺めていると、背中から声が聞こえてきた。


 野蛮な叫び声と共に、町中の冒険者達がここぞとばかりに密集したまま集団で飛竜の群れに飛び込み乱戦と化した。そんな中、数人の見知った冒険者達とボークがジルの元へやって来た。


「兄貴!街の人達の避難終わりました。ギルドからの緊急クエストが出されて飛竜一頭につき1200ウロドの懸賞金がつきました。命知らずの馬鹿達がこぞって集まりましたぜ」


 ボークが自慢げに言う。その隣でギルドの常連らしき見知った顔の女性戦士がジルの頭を叩くと叫んだ。


「飛竜の卵を持ち出す前にアタシ達にも説明しなさい!緊急で仕方ないとはいえ、貴方より高ランクの冒険者は沢山いたのよ」


「スミマセン、、、、でした」


 文句を言うだけ言うと、さっさと稼ぎ期だと飛竜を狩りに飛び出して行った。飛竜の数は徐々には減っていったが、ジルほどの力の持ち主はギルド冒険者にはいない様で一騎当千で確実に一頭ずつ討伐を続けていた。


 が、飛竜がわざわざルールを設ける訳もなく、例から漏れた飛竜がジルとボークに襲いかかって来た。


「兄貴は隠れて下さい!卵の匂いがするせいでしょうか、段々と此方に集まってくるような」


 ジルは胸元を見た。ワーウルフは毛が長い為、簡易の胸当てくらいしか装備していなかったが、そこからソフトボール程の大きさの卵を取り出した。


「良かった、、、、、割れてな、、、、、、かった」


 飛竜の卵は思った以上に頑丈なのか、傷一つついていない様に思えた。しかし、ジルの目の前で突然卵の頭頂部にヒビが入ると穴が空いてしまった。


「マズイ、死んだのか?」


 焦りを隠す事もせずジルが漏らしたその時だった。グラグラと揺れ始めるとクルリと卵はひっくり返り割れた穴から足が生え、正面には二つの穴が空き中から此方を見つめる瞳が見えた。


「お前は、飛竜なのか?イデデデ!」


 不思議なフォルムの卵型生物が誕生した瞬間だった。鳴き声はなくただジルの頭に飛び乗るとしがみついて離れなくなった。


「何だこいつは!絶対飛竜じゃないだろ」


 飛竜にしては異様に卵が小さいと感じてはいたが、足の作りが鳥類の様に細く竜種のそれとはかけ離れていた為であった。


 が、それも束の間。飛竜の一頭がジル目掛けて急降下を始めた。今度は仲間がいるので何とか降りる前に撃ち落としてしまいたいのは変わらなかった。


 ジルが移動すると明らかにこの珍妙な生き物を狙っているのが分かった。何故ならジルだけを目掛けて飛竜は移動をしていた事と、交戦中の飛竜達も一定時間経つと思い出したかの様にジルを探し始める仕草をしていたからである。


 街の外に移動する。飛竜が続きさらに冒険者達が追いかける。街の外へと誘導に成功し、冒険者達も建物の被害を考えずに暴れ回る事が出来た為、追い払うのにはそう時間は掛からなかった。


 日も暮れ始めた頃、ようやく数頭の飛竜が逃げる様に飛び立つと、他の生き残り飛ぶことの出来る飛竜も続くようにして次々と飛び立ちようやく冒険者達も矛を収めたのだった。


 次の日から、復興が始まり一週間もしないうちに元に戻ったのは、冒険者のいる街特有の早さである。街への襲撃は珍しいとはいえ、時折起こる天災のようなもので慣れたていた為である。


 ジル達冒険者と街の住人が協力し、復興の間に総出で取り組んだのも功を奏した結果でもあった。


「はぁ、これでウロドさえあればなぁ」


「仕方ないっすよ兄貴。飛竜を一番討伐したけど街への損害が酷いから報酬でチャラになっただけマシですし」


 飛竜の報酬がなければ、ジルの借金はさらに膨らんだ所であったが、カンパにより生活費程度は頂けたが借金の返済はまだまだ続くのであった。


「って!何で俺の部屋にボークがいるんだ!」
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