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メイドのお仕事
アフタヌーンティー
しおりを挟む「あら、もうそんな時間なの?」
そう言って私を迎え入れてくれたのは、黒檀のような長い髪に赤いドレスがよく映える、一人の美しい女性だった。豪奢な部屋の風景が合わさり、とても絵になっていた。
「そんな時間とは…えっと…」
「あなたがそれを持ってきたということは、もうアフタヌーンティーの時間なのでしょう?今日は何の紅茶なのかしら」
女性は優しく微笑んだ。部屋に差し込む優しい光で女性の上に乗せられたティアラがキラリと光を放つ。
ん?ティアラ?
私は思わずまじまじとその女性を観察した。そしてこの女性にぴったりの単語を見つける。
もしやこの方は女王様?!もしくはお姫様?!
待て待て待て!最初の試練が大きすぎはしませんか?!レベル1の勇者がいきなりラスボスに遭遇した気分だよ!
冷や汗を浮かべて固まった私を、その女性は不思議そうに見つめている。
今すぐ逃げ出したい衝動に駆られるが、ここまで来てしまっては今更引き返せない。
えーい!こうなったらやけくそだ!
「今日はミルクティーでございます。女王様」
私は軽く一礼し、ティーセットをテーブルに運んだ。そしてティーカップを左手に、ティーポット右手に持つ。
確かこんな感じだったよな?
私はテレビで見た紅茶の注ぎ方を思い出しながら見よう見まねで形にした。
「あら?今日はティーポットを高く上げないのね」
「へ?あっ!はい!今日はそういう気分ではなくて…あはは」
現在、ティーポットの注ぎ口からティーカップまでの距離、わずか1センチ。緊張の震えでいつお互いがぶつかってもおかしくない。
しかしこれが私の精一杯なのだ。イメージには高々とティーポットを上げて注ぐシーンがありますとも!でも今私がそれをしようものなら赤い絨毯に甘い水たまりができることだろう。
そして紅茶を注いでから私は大きなミスに気付く。
色が完全にミルクティーではないのだ。
そういえばティーポットからは絶えずお花かベリーのような香りがしていた。緊張していた私はそのことをすっかり忘れてしまっていたのだ。
「ふふっ。それはラティスティーね。冗談を言ってリラックスさせてくれようとしたのかしら。あなたが冗談を言うなんて珍しいわね、スピカ」
ラティスティー?聞いたことない。しかし異世界なら知らない物があっても当然だろう。そんなことより、スピカ…?
「あの、私はスピカではなくって…」
「何を言っているのかしら?あなたはスピカじゃない。面白い子」
女王様は本気で冗談だと思っているらしく、可愛らしい笑顔を浮かべた。
「失礼します」
その時、背後からもう一つの声が響いた。
振り向くと、同じメイド服を着た少女がケーキを手に入ってくるところだった。
「今日はアルシフォンのケーキです。仕上げはどうなさいますか?」
「そうね、今日はクランの花がいいわ」
「かしこまりました」
メイドはそう告げると白いケーキへ手をかざした。その瞬間、何もなかったケーキの上に赤いお花の飴細工が出現した。
「綺麗…」
私は思わず声を漏らした。
「何をそんなに驚いていらっしゃるのですか?スピカ様は見慣れているでしょうに」
「まあいいじゃない。今日のクランの花、とても綺麗にできているわ。あなたも成長したわね」
「お褒めに預かり光栄です、女王様」
「ありがとう。おさがりなさい」
「はい。失礼いたします」
私は唖然とその飴細工を見つめていた。
「どうしたの?今日のスピカは全てを初めてみたというような顔をしているわ」
「だ、だって今の…魔法、ですよね?」
「ふふっ。魔法はほとんどの人が使えるじゃない。それともあの子がここまで成長したことに驚いているのかしら」
私は自らの両手を見つめた。
魔法。小さい頃から一度は使ってみたいと思っていた。
私はテンションが一気に上がるのを感じた。まずはどんな魔法が使えるのか小手調べ…
「スピカ、あなたは私と一緒で魔法が使えないでしょう?」
女王様の一言と少し寂しげな表情が私の夢を打ち砕いた。
「私も魔法が使えたらって思うわ。庶民と同じくらい魔力が弱くてもいい。小さな魔法でも使えたらって。でも無理なの。私たちは魔法が使えないのよ。わかっているでしょう?スピカ」
「え、あ、はい…」
「書類のサインを続けるからもう下がっていいわ」
女王様は顔を上げずにそう私に告げた。結局聞きたいことは聞けず、私は部屋を後にした。
しかしわかったことがいくつかある。
まず、私はスピカという人物だということ。
そしてどうやらスピカは昔からこの城に仕えているメイドらしい。
この世界には魔法が存在する。
存在はするが私と女王様は使えない。
「どうせ異世界へ来るんなら魔法使える人にして欲しかったよ~」
よりによって魔法が使えないなんて。運が悪いにもほどがある。
「さてと、これからどうするかなー」
私は左右に広がる廊下を見つめた。どっちに何があるのか全くわからない。そして次にするべきことも。
よし!とりあえずここは城内探検だな!
私は適当に右の廊下を進むことに決めた。
廊下には大きな絵画が飾ってあり、天井にはシャンデリアがかかっている。
しばらく進んでいると大きな窓が姿を現した。
夕日で外はオレンジ色に染まっていた。そしてその夕日が城下の街を幻想的に映し出していた。
本当に異世界に来てしまったんだ。
喜ぶべきなのか悲しむべきなのか分からないが、どうやら夢ではないらしい。
夕日が沈んでくのを見送ったその直後、
「スピカ!こんなところで何をサボっているのですか!」
私の名を怒った調子で呼ぶ者が、廊下の奥から現れた。
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