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第2章 メイドとして
捕らわれの身
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「なに?ロゼが帰ってこない?」
ロゼが買い出しに出てから8時間。既に日は傾き始めている。メイド長アレッサは焦った様子でアルに事を伝えていた。
「迷っているとしてもさすがに遅すぎるので、もしかしたら何かあったのかと…」
「ロゼを買い出しに行かせたのか…。なんでまた…」
「申し訳ありません!一応フード付きの服を着させたのですが、安易な私の考えがよくありませんでした!」
アレッサはアルに頭を下げた。
「フードと言っても瞳は隠せないからな…」
「申し訳ありません」
「怒りたいとこだが、怒ってても仕方ないだろう。探すのが最優先だ。それにお前を怒ったところでロゼは喜ばないだろうしな。イザベラ、エド、支度を。ロゼを探しに行く」
アルは素早く指示を出すと、アレッサに仕事場に戻るように言った。アレッサは泣きそうな顔で頭を下げると、自分の持ち場へと早足で戻っていった。
「迷って帰れなくなってるだけならいいが…」
アルは窓から外を見つめた。空はゆっくりと暗がりに染まっていこうとしている。
アルは早足で大臣のもとへ行き、城を空けることを伝えると、身支度を終えたイザベラたちと合流し、城を出て行った。
****************
「ん…」
ロゼは重たい瞼をゆっくりと開けた。目の前は真っ暗だ。
「あれ…?私一体…え?縄?!」
ロゼは自分の体が椅子に縛られていることに気づいた。縄が擦れる度、嫌な記憶が蘇る。
「嫌…っ。誰か!誰かいませんか?!助けて!」
ロゼは声をあげて叫んだが誰もやってくる気配はない。
焦っても無駄だと判断したロゼは恐怖を飲み込み、息を整えてゆっくりと辺りを見渡しながら記憶をたどった。
確か迷子だったケイ君を家まで送って、野菜スープをごちそうになって…。
しかしそこから先の記憶はない。
体のどこにも痛みはないことから、考えられるのはスープに何か薬のようなものを入れられていたこと。
信じたくはないが、何かを入れたのはスープを出すときに厨房へ入っていった親父さんか奥さんだろう。
「一体何が目的で…」
ロゼは項垂れた。司会の隅に自分の髪が映る。
あー…またこれか、とロゼは思わず笑ってしまいそうになる。この色は不幸しか持ってこない。今まで両親から授かった大切な色だと思っていたが、ここまで不運続きだと呪ってしまいたくなる。
今は何時だろう。暗がりの中では時間も分かりそうにない。ここは倉庫か荷物置き場なのか、少し埃っぽい空気が漂っていた。
「誰か!誰か助けて!」
ロゼは息を吸うと、再び声をあげた。自分ではどうしようもない以上誰かに助けてもらうしかない。
すると部屋の外から足音が聞こえてきた。足音は真っ直ぐここに向かっている。
ロゼは希望を感じ、声を張り上げた。
「お願いです!助けてください!」
バンッと勢いよく扉が開かれる。急に差した眩しい光にロゼは思わず目をつぶった。
「助けてください…っ!あ…」
そこに立っていたのは…親父さんだった。
「ごちゃごちゃ騒ぐな。誰かに聞こえたらどうするんだ。苦しいだろうと思って口は塞がなかったがそうはいかないようだな」
親父さんは出会った頃の笑顔が嘘のように消えていた。恐ろしい形相でロゼに近づくと、手に持っていたガムテープでロゼの口を塞いだ。
「んー!」
その時、扉の向こうから奥さんが顔を出した。
「そこまでする必要はないんじゃないのかい?」
「いいや、声で誰かに気付かれたら元も子もないからな。せっかく掴んだチャンスだ。離してたまるか」
親父さんはきつくロゼを睨んだ。
「城の者がほいほい家に上がってくるんじゃないよ。どうせ俺たちの食事や家を見て嘲笑ってたに決まってる。見るだけで嫌気がさす」
ロゼは優しかった親父さんが吐く暴言を黙って聞いているしかなかった。会った時からこんな風に思われていたんだと思うと胸の奥が痛んだ。
「お父さん、お母さん!やめてよ!僕を助けてくれた人なんだよ!」
その時ケイが部屋に走り込んできた。ケイは泣きながら両親にしがみつく。どうやらケイはこの状況に反対しているようだ。
「ケイ、黙りなさい。この人をうまく使えば美味しいものがいっぱい食べられるようになるんだぞ。なんせお城の人たちはお金をいっぱい持ってるんだからな。ロゼを引き渡す代わりに大金を手にしてやる」
ロゼはそれを聞いて親父さんたちの目的を理解した。身代金だ。ロゼを引き渡す代わりに、お金を手に入れようという魂胆だった。
ロゼは信じた人に裏切られた絶望とまた利用されている事実に声も出なかった。
「迎えが来るまでそこでじっとしてろ」
親父さんはそういうと他の二人を連れて部屋を出て行った。
再び部屋に暗闇と沈黙が訪れる。
また迷惑をかけてしまう。
ロゼは暗がりの中、自分の不甲斐なさに涙をこぼした。
****************
しばらくして、部屋の外が騒がしくなり始めた。誰かがここに気づいてきてくれたのだろうか。
しかしロゼは素直に喜べなかった。またこんなことに巻き込まれて、みんな呆れているだろう。そう思うと帰れる喜びもどこかに沈んでいった。
その時、閉められていたドアが勢い良く開いた。
「ロゼ!」
そこに立っていたのは見間違えようのないアルだった。
ロゼが買い出しに出てから8時間。既に日は傾き始めている。メイド長アレッサは焦った様子でアルに事を伝えていた。
「迷っているとしてもさすがに遅すぎるので、もしかしたら何かあったのかと…」
「ロゼを買い出しに行かせたのか…。なんでまた…」
「申し訳ありません!一応フード付きの服を着させたのですが、安易な私の考えがよくありませんでした!」
アレッサはアルに頭を下げた。
「フードと言っても瞳は隠せないからな…」
「申し訳ありません」
「怒りたいとこだが、怒ってても仕方ないだろう。探すのが最優先だ。それにお前を怒ったところでロゼは喜ばないだろうしな。イザベラ、エド、支度を。ロゼを探しに行く」
アルは素早く指示を出すと、アレッサに仕事場に戻るように言った。アレッサは泣きそうな顔で頭を下げると、自分の持ち場へと早足で戻っていった。
「迷って帰れなくなってるだけならいいが…」
アルは窓から外を見つめた。空はゆっくりと暗がりに染まっていこうとしている。
アルは早足で大臣のもとへ行き、城を空けることを伝えると、身支度を終えたイザベラたちと合流し、城を出て行った。
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「ん…」
ロゼは重たい瞼をゆっくりと開けた。目の前は真っ暗だ。
「あれ…?私一体…え?縄?!」
ロゼは自分の体が椅子に縛られていることに気づいた。縄が擦れる度、嫌な記憶が蘇る。
「嫌…っ。誰か!誰かいませんか?!助けて!」
ロゼは声をあげて叫んだが誰もやってくる気配はない。
焦っても無駄だと判断したロゼは恐怖を飲み込み、息を整えてゆっくりと辺りを見渡しながら記憶をたどった。
確か迷子だったケイ君を家まで送って、野菜スープをごちそうになって…。
しかしそこから先の記憶はない。
体のどこにも痛みはないことから、考えられるのはスープに何か薬のようなものを入れられていたこと。
信じたくはないが、何かを入れたのはスープを出すときに厨房へ入っていった親父さんか奥さんだろう。
「一体何が目的で…」
ロゼは項垂れた。司会の隅に自分の髪が映る。
あー…またこれか、とロゼは思わず笑ってしまいそうになる。この色は不幸しか持ってこない。今まで両親から授かった大切な色だと思っていたが、ここまで不運続きだと呪ってしまいたくなる。
今は何時だろう。暗がりの中では時間も分かりそうにない。ここは倉庫か荷物置き場なのか、少し埃っぽい空気が漂っていた。
「誰か!誰か助けて!」
ロゼは息を吸うと、再び声をあげた。自分ではどうしようもない以上誰かに助けてもらうしかない。
すると部屋の外から足音が聞こえてきた。足音は真っ直ぐここに向かっている。
ロゼは希望を感じ、声を張り上げた。
「お願いです!助けてください!」
バンッと勢いよく扉が開かれる。急に差した眩しい光にロゼは思わず目をつぶった。
「助けてください…っ!あ…」
そこに立っていたのは…親父さんだった。
「ごちゃごちゃ騒ぐな。誰かに聞こえたらどうするんだ。苦しいだろうと思って口は塞がなかったがそうはいかないようだな」
親父さんは出会った頃の笑顔が嘘のように消えていた。恐ろしい形相でロゼに近づくと、手に持っていたガムテープでロゼの口を塞いだ。
「んー!」
その時、扉の向こうから奥さんが顔を出した。
「そこまでする必要はないんじゃないのかい?」
「いいや、声で誰かに気付かれたら元も子もないからな。せっかく掴んだチャンスだ。離してたまるか」
親父さんはきつくロゼを睨んだ。
「城の者がほいほい家に上がってくるんじゃないよ。どうせ俺たちの食事や家を見て嘲笑ってたに決まってる。見るだけで嫌気がさす」
ロゼは優しかった親父さんが吐く暴言を黙って聞いているしかなかった。会った時からこんな風に思われていたんだと思うと胸の奥が痛んだ。
「お父さん、お母さん!やめてよ!僕を助けてくれた人なんだよ!」
その時ケイが部屋に走り込んできた。ケイは泣きながら両親にしがみつく。どうやらケイはこの状況に反対しているようだ。
「ケイ、黙りなさい。この人をうまく使えば美味しいものがいっぱい食べられるようになるんだぞ。なんせお城の人たちはお金をいっぱい持ってるんだからな。ロゼを引き渡す代わりに大金を手にしてやる」
ロゼはそれを聞いて親父さんたちの目的を理解した。身代金だ。ロゼを引き渡す代わりに、お金を手に入れようという魂胆だった。
ロゼは信じた人に裏切られた絶望とまた利用されている事実に声も出なかった。
「迎えが来るまでそこでじっとしてろ」
親父さんはそういうと他の二人を連れて部屋を出て行った。
再び部屋に暗闇と沈黙が訪れる。
また迷惑をかけてしまう。
ロゼは暗がりの中、自分の不甲斐なさに涙をこぼした。
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しばらくして、部屋の外が騒がしくなり始めた。誰かがここに気づいてきてくれたのだろうか。
しかしロゼは素直に喜べなかった。またこんなことに巻き込まれて、みんな呆れているだろう。そう思うと帰れる喜びもどこかに沈んでいった。
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